上 下
145 / 158
G.F. - 大逆転編 -

page.622

しおりを挟む
『それで…』


藤川さんや荒井さんに、詩織は改めてもう一度訊いた。


『今日のこの《どちらが可愛いか勝負》というのは、《顔さえ可愛ければ勝ち》?それとも私たち、の考えるような《総合的に評価して可愛いほうがば勝ち》?どっちなの?』

『…。』
『……。』


そこまで、こと対決に関して詳しくは考えてなかったのか…藤川さんも荒井さんも、お互いを見合ったり…詩織の顔をちらりと見たりしながら…何も言い答えようとはしない様子…。

さっきまでは《可愛さってのは顔!》とかって言い切ってたけど。


『じゃあ私が言うね』


詩織が…言う?

敵味方なく、ここの控え室にいる全員が…それと廊下から野次馬している人たち全員も含めて…静かに、皆が詩織をじっと見て、黙って詩織の次の一言を待った…。


『《顔だけが可愛いければ勝ち》って言うのなら…私は今のところ、自分勝手に《金魚が一番可愛い!》って思っちゃってるから、私だったら金魚の勝ち!って言いたいところ…』


藤川さんも荒井さんも金魚ぼくをちらりと見た…けど、詩織に向かって「どう見たって日本一なんかじゃないわ!」なんていう…ツッコミの言葉は無かった。

それどころか、金魚の次に…比べるかのように西尾美優貴さんと伊方つぐみさんを見たけど…やっぱり黙ったまま、小さく頷いて視線は少し下を向いた…。


『…だけど、あのお二人もとても可愛いから、そちらが良ければこの勝負、引き分けドローってことにしてあげてもいいわ』


詩織は言いたいことを全て口から吐き出したように、とても心地良さそうな笑顔を見せた。

詩織があえて《総合的に評価して可愛いほうがば勝ち》のほうには全く触れず、提案しなかったのは…。

そんなのを提案したら…ていうか、向こうは言葉遣いは悪いし、優しくないし、性格悪いし、歩き方も酷いし…そんなばっかで僕らが1000%、圧勝すること間違いなしだから。

詩織はどうやら、この対決を引き分けにしたい…と考えてるらしい。

僕も今更だけど…詩織に同意。
お互いに引き分けでも良いように思う…。


『それで…そういうことでどうかしら?藤川さんと荒井さん』


藤川さんは一瞬《う、うん…じゃあそれで…》と小さく頷こうとした…んだけど、荒井さんがそれを慌てて阻止して、すさまじい形相で僕を指差した。


『待って舞莉!』

『えっ…?』


僕を睨み付ける荒井さん。


『あの子…金魚だっけ?私が舞莉の代わりに言うけど…』


…?


『今日、ここに真剣勝負に来たんじゃないの?だったら何…そのダサい普段着みたいな格好!?パーカーにロングスカート!?って…』


…あ…うん。
そう言われると思ってた。

この服装を送ってくれた、秋良さんでさえ《段ボールにそっと添え入れてた、メモ書きのような手紙》に記してあっ
たから…。

《本当に大丈夫か?そんな格好で。ガチの勝負なんだろ?…》って。

この《パーカーにロングスカート》は、《ピプレ》のリーダーの海音さんが考えて提案してくれた服装。
《普段ぽい様相で、ふらりとここに呼ばれて来た感じで…》だったかな。

秋良さんのメモ書きのような手紙には、他にもこんなことが書いてあった…。

《…だから、今までの金魚のオシャレ路線らしい衣装も入れておく。最終的にどっちにするのかは、お前に任せる》って…。


『…そんなナメた格好のやつに、うちら引き分けと負けるとか、屈辱過ぎんだよ!…えっ?なに急に…!!?』


僕は荒井さんの言うことを、途中から全く聞かず…あの手紙のことを思い出しながら、いきなりロングスカートを脱ぎだした…。




…つまり、そういうこと。
秋良さんの送ってくれた段ボールには…パーカーとロングスカートのほかに、とてもオシャレな衣服…というよりはが入っていたんだ…。


『えっ、待っ…真白いプリーツのミニスカート!?そんなの中に穿いてたのかよ!!?』


うん。下着がギリギリ見えないくらいの短さの。絹のプリーツミニスカート。
腰の細めのベルトは黒色で。
脚はノーストッキングの素足。ロングブーツもベルトと同じ黒色です。

安心してください。
ブーツの中は短い靴下を履いてますよ。



僕は今度は、パーカーを脱ぎ脱ぎ。
よいしょよいしょ。


『てか何!?あの金って子の…あの脚の細さと白さ!!?』


大きな襟付きノースリーブのホワイトシャツ。
シャツのボタンは左鎖骨のあたりに1つあるだけ。
服を着て…そのボタンを留めて終わり。

両方の襟には黒色で《金魚のリバイバル刺繍》。
首元には緩めに締めた、少し短かな黒のネクタイを下げてる。

両腕は手の甲から肘の少し上まで、ルーズな指抜きタイプの白いアームウォーマー…編み素材は細めの白ウールニット。





『あら?そんなカッコ可愛い衣装を中に隠し着てたの?きゃははは。やるじゃない金魚♪』


詩織はとてもご満悦。
それに続いて『金魚の白細美脚も健在だったことを確認できて、私良かったわー。きゃははははは』って。


『スタイル凄い…細っ…』


荒井さんは、もうさっきみたいな《品のない非礼な言い方》はしなかった。

…というか、もうすっかり黙り込んでしまった。




それより僕が気になったのは…廊下のほう。
野次馬のアイドルの子たちや関係者らがしてたから…。

「あの子見てよ!凄くない!?」
「えーっ!?今まで見たことがないぐらい可愛いんだけど!!」
「ってかスタイル細っ!凄い!!」
「始めダサッ!って思ったけど、脱いだあとのあの服!好きー!欲しーい!!」

「結局!あの金魚ちゃんって凄い子!誰なの!どういう超可愛い子なの!!?」


…。

自分から脱いでおいて、こんな言い方もアレだけど…。

なんか…急に恥ずかしくなってきた…。

だって、この場にいる全員の…突き刺さるような視線が…金魚である僕に…。


『…どう?本気モード発動させた金魚、もう我慢できないぐらい可愛い過ぎでしょ?ね?きゃはははははー♪』


詩織が気持ち良さそうに笑ってる。


『けど忘れないでねー。こんな可愛い金魚のパートナーは…私!誰でもないなの!羨ましい?うふふふーふふっ♪』

『…。』
『……。』


急に、荒井さんが詩織を睨みつけた…!?


『ねぇ、こんなやり方して…ただでは済まされないからね!覚えておきなよ!!!』

『…えっ?』


今まで高笑いしていた詩織も、急なこの展開に、すっかり驚きの表情へと変わってしまった。


『そうよ!詩織ちゃん…あなたも忘れないでよ!うちらは《Starlight-Office Kira♠︎m》所属のアイドルグループなんだってことを!!』


荒井さんに次いで、藤川さんもそう大きな声で詩織を牽制した。


『今、この芸能界を牛耳ぎゅうじってるのは!!うちらの事務所《Kira♠︎m》なんだから!あとで後悔してももう遅いよ!!!』
『あはは。芸能界か消されちゃうかもー?テレビや雑誌、アイドル活動の全部からー?あはははー』


さっきまで、余裕な笑みを見せていたのは詩織。
だけど今はそんな詩織が黙り込んでしまって、逆にさっきまで黙っていた荒井さんや藤川さんが、今は高笑いしてみせている。


『ねぇ、そんなやり方は違うんじゃない?』


…!!


『…はぁ?』
『ちょっと!あなたは黙ってなさいよ!…桃香!』


僕らは片山さんを見た…驚きと、ちょっと尊敬に似た気持ちで。
まるで僕らの思ったことを、代弁してくれたようなセリフだった。


『《可愛い》では勝てないからって、事務所の名前を出して優位マウントを取ろうだなんて、ちょっと卑きょ…』

『桃香。だから裏切り者は黙ってなって!!』
『《Kira♠︎m》を裏切るなんて…桃香もサイテーだよねー。あなたも後悔しながらシねば?』






















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...