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G.F. - 大逆転編 -

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去年の8月といったら、僕は金魚に変身してナオさんの化粧品店《BlossoM.》でまるまる一ヶ月…毎日毎日、ずーっとメイクのアルバイトしてたんだった…。

だから、去年の8月は朝から夕方まで、藤浦市の街々を歩いてもないし…それでも早瀬ヶ池を歩いたのは、アルバイトが終わったあとの夕方過ぎ、毎日迎えに来てくれてた詩織と、二人で…。


『…ごめんね。私…8月はずっとアルバイトをしてて…』


僕は黒い大きな不織布のマスクを着けたまま、そう石田さんに言って謝った。

そんな瞬間も、藤川さんや荒井さんは…。


『私たちここまで言ってんのに、この子なんでマスクを取らないの!?ほんっと、うちらのことナメてんの!?』

『本気で勝負する気あんの!?つうか聞こえてんのかって!うちらの言ってること!早くマスクを外せって!』


正直…石田さんと話してたときは…藤川さんの声も荒井さんの言ってることも、僕の意識には届いてなかった…というか、全然聞こえてなかった。


「…でも、あれから半年ぐらい過ぎちゃったんですけど…それでもこうして、やっと会えたことが私…本当に嬉しいです…」

『うん』

「…けど、私の手の届くくらい…こんなにも近い…私の目の前に金魚ちゃんがいるなんて…ヤバい。ほんとに奇跡…」


石田さんは、僕の耳にも届いたか届かないかぐらいの小さな声で、そう言って…涙を頬に伝わらせて泣きはじめた…。

彼女はこんなにも喜んでくれて…嬉しくて、泣いてくれてる…。

金魚と出会えた…ただ、それだけで。

僕もなんだか胸がキュッと締め付けられるような思いに襲われて…本当に凄く、嬉しかった。



ちゃんと、石田さんの目を見て、金魚の笑顔を見せて、石田さんを安心させてあげたい…そう思った。
僕からも《ありがとう》って率直な気持ちを伝えたかった。

だから…。



別に藤川さんや荒井さんから、何度も何度も《マスクを外せ!》と言われ続けてたから…じゃない。

石田さんの左の涙で濡れた頬を、右手で優しく撫でてあげながら…僕は自らマスクを外して…それはふわりと床へと落ちて…彼女の目をふと見て微笑んであげた。


『…美希さん。うん…ありがとう。出会うのが遅くなっちゃったね…ごめんね…』

『私も…ごめなさい…うわぁぁ…金魚ちゃん…!!』


石田さんは金魚ぼくの顔を、こんな間近でまじまじと見ながら「やっぱり!…私が思ってたよりも、本物の金魚ちゃんはずっと…ずっと可愛い!…大好き!…」そう言って小さく微笑んでくれてた…けどまだ、その暖かい涙は流れ落ちていた。

そんな石田さんの小さく震える両肩を、軽く抱擁してあげながら…僕はじっと力強い視線で、藤川さんと荒井さんを睨むように見る。

《はぁ!?なにこの裏切り者!!》そんな目で、石田さんを見ている藤川さんと荒井さん。


『ねぇ?金魚を見て率直にどう思ったかしら?ってか、ちゃんと見てる?金魚のこと』


僕の隣に立ち、心地よく自信に満ちた笑顔でそう言って、を見た詩織。

廊下では…僕はもう去年から、ずっと聞き飽きてるんだけど…。


「何なのあの顔!?見たことないぐらいめっちゃ可愛いんだけど!?」
「待って!あの子の顔の可愛いさが異次元超えてる!ってか、普通におかしいって!」
「なんかCGかAIかゲームのヒロインかみたいな、まるでそんな顔してんだけど!!」
「今一瞬笑った!?もう一回見たいんだけど!」


…って、ハイテンション?なアイドルの子たちの声が廊下に騒がしく、煩いぐらいに響き渡ってた…。


『ねぇ?美希ちゃん。超ラッキーだったね!』

『えっ?らっきー…?』


詩織は石田さんを見て、またニコリと笑って見せた。


『金魚ってね、あんな可愛い笑顔を、なかなか誰にも見せてくれないのよ。お願いしても。それを今は、美希ちゃんだけのためだけに、金魚は自然な笑顔を見せてくれたんだからぁ…ふふっ♪』

『えーっ!そうなんですか!!…嬉しい…』


僕らと石田美希ちゃんとのそんなやり取りを、身も凍るような冷ややかな視線で眺めていた…藤川さんと荒井さん。


『随分と笑顔いっぱいで楽しそうね…敵らとのお喋り…』

『なに?まさか…うちらを裏切るの?美希…?』

『…えっ?』


急に怯えるような表情で、あの二人のほうを振り返った石田さん。


『何言ってんの?…あなた達がに即答してくれなかったから、この美希ちゃんが気を遣って、代わりになって答えてくれたの。逆に感謝くらい言ってあげれば?』


詩織が荒井さんや藤川さんをじっと見ながら、そう自信あり気にはっきりと答えて返した。


『はーぁ?何って!?誰が美希に感謝なんて…』
『わたしの質問?なんて言ってた?聞こえてなかったわ』

『…。』


ため息しか出ないような、二人の残念な回答…。

見てて、僕でもちょっとイラッとする…。


『私はね!あなた達に《金魚を見て率直にどう思った?》って訊いたの!でも全然答えてくれないから、美希ちゃんが「可愛い」「嬉しい」「奇跡」って、代わりに答えてくれたの!ねぇ解った!?』


胸元で腕を組み、詩織は藤川さんと荒井さんを睨むように見ながら、そう言った。


『はぁ?マジで!?ナメてんの美希…じゃあ、どっちが可愛…』

『私はもちろん、美優貴もつぐみちゃんも可愛いと思うよ。けど比べるのなら…それが勝負だっていうのなら、私は…ごめんなさい。ペアのほうが、この二人よりも断然可愛いって思う』


荒井さんが、石田さんを威嚇するかのように、力を込めて右拳を振り上げ…そのまま、恐ろしい表情で石田さんを睨み付ける。


『(荒井)美里ちゃんや(藤川)舞莉ちゃんには悪いんだけど…私も。美優貴もつぐみちゃんも、確かに可愛いと思うよ。けど…あの、池川金魚って子と比べたら…』


片山さんが、少し悪びれた様子で、この二人にそう言った。


『ふーん。(片山)桃香も裏切んだね…シねば!二人とも!!』


怒り心頭な表情で、片山さんを見下ろすような睨みでそう言った荒井さん。


『結局…《T.S.S.D》のメンバーは、一人残らず役立たずだったし、《Kira♠︎m》の裏切り者…マジでシぬしかないでしょ!あなた達!』


《T.S.S.D》のリーダーである石田さんも、サブリーダーの片山さんも…その荒井さんの一言に反論したそうだったが…《T.S.S.D》のメンバーであり、一番可愛いと言われていた西尾美優貴さんは『ごめんなさい…』そう言いながら泣き出していた…。


『そもそも!こんな芸能界デビューもしていない奴に!何の芸能的活動もしたことない、この金魚って子に!うちらのメンバーと肩を並べて争う権利なんて無かったの!』


急に荒々しく、そう叫び出した藤川さん。


『だからこの勝負!うちらの勝ちだよ!二流アイドルグループそっちの負け!どっちが可愛かろうが、可愛くなかろうが関係ない!』







…《Kira♠︎m》所属の、このアイドルグループのリーダー達は、こんな可愛い金魚の登場…そこからの、こんな勝敗結果なんて…微塵にも考えて無かったんだと思う。




もっと簡単に…。

《これがうちらのグループで一番可愛い、伊方つぐみと西尾美優貴だよ》《あら?そっちは…?》《この子?マジで?こっちと比べて全然可愛くないね。ブスだね》《他は?いないの?》《あははは。やっぱ二流のアイドルグループだわーブスばっか》《あははははは…》

…こんなふうに容易く勝って、二流アイドルグループといい続けていたこちらのグループ《Peace prayer》を、小馬鹿にして…心地よくわははと笑い飛ばして…ストレス発散?そんなふうに気楽に考えてたんだと思う。

けど…その計画が初手から狂い、まずはこの可愛らしい雫ちゃんが前座で現れて…雫ちゃんの真偽を確かめるべく、石田美希さんが呼ばれて…そして金魚が現れて…更に取り返しのつかない大変なことになって…。




『とにかく!この《可愛い勝負》はうちら《Kira♠︎m》の完全勝利!!』
『そうよ!うちらの圧勝!!《Kira♠︎m》は絶対に!一度だって負けるわけにはいかないんだから!!』


…なっ!?

はーぁ…?



荒井さんと藤川さんが、誰の意見をも聞かず全部押し切って《Kira♠︎mの勝利!!》を、廊下まで響き渡るような大声で叫び、宣言した…!!?















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