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G.F. - 大逆転編 -

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『はぁ?トラブル?そんなのないですよ…何も。トラブルなんて』


《HoneyMaids》リーダーの藤川舞莉さんが、駆けつけた2人の女性スタッフらを睨むように見ながら…冷たく微笑んだ。

でも、この状況…野次馬に集まった他のアイドルや関係者たち…を見れば、誰だって解る。
ここで何らかの小競り合いがあったことぐらい。

たぶん、このスタッフさん達も…。


『私たち、ただお互いの気合いを見せ合ってただけですけど?』

『そうやって互いに意識し合って、ステージパフォーマンスがアツく盛り上がったほうが、運営側だって嬉しいんじゃないの?』


《Cue&Real》リーダーの荒井美里さんも、《T.S.S.D/Top Secret Sparkle Dolls》サブリーダーの片山桃花さんも、藤川さんに負けじと、そうスタッフさん達に言って返した。


『そう…ですけど。だったら良いん…』

『私たちもそろそろ、自分たちの控え室に戻りますから。だからスタッフさん達も待機所へ戻ってもらえません?』


隠し切れないほどの不安な表情で、互いを見合う3人の運営スタッフさん達。


『…ですね。じゃ、じゃあ私たちも戻ります…』
『くれぐれも…もう騒ぎはやめてくださいね…』

『はーい。私たち、もう騒ぎませんからー。大丈夫でーす』


待機所へと戻っていく、男性1人女性2人の運営スタッフさん達の背中に、愛嬌よく手を振っている片山さん。




…ようやく少し落ち着いたところで…荒井さんが振り向き、海音さんと詩織を刺さるような視線で見た。


『んまぁ…どっちにしたって《Cue&Real》のステージが終わったあとに、すぐに決着は着くんだし…負ける覚悟しとけば?』

『…ねー。あなた達が悲しそうな顔でうちらに謝ってる姿が…もう思い浮かんじゃうね♪』
『ステージパフォーマンスでも可愛い対決でも、勝つのは超一流アイドルの私たち。じゃあ後で…』


片山さんと藤川さんが、そんな嫌味垂らしい捨て台詞を残し、クルッと背を向けて先に控え室へと戻っていく…。


『はいはい。そんな寝言言ってなさいよ。どっちも勝つのは私たちだから…!』


海音さんも負けじとそう言って返す。


『はぁ…本っ当、あなた達って生意気よね』

『どっちがよ!』

『二流アイドルのくせに…』


最後にもう一度、海音さんを強く睨みつけ、荒井さんも海音さんや詩織に背を向け歩き出した…。


『待って』

『ぇ?何…?』


戻ろうとした荒井さんを、詩織が呼び止めた。

呼び止められた荒井さんは、ピタリと立ち止まった。


『はぁ?何…?』


荒井さんは、少し面倒臭そうにもう一度振り返って、両腕を胸元で軽く組み、詩織たちを見た。


『2つ…うぅん3つ、お願いがあるの…』

『…お願い?』

『うん』

『…。』


詩織も、頑張った力強い視線で荒井さんをじっと見た…。


『何なのよ。早く言ってみなさいよ』

『1つは…対決中に暴力はやめて』

『…は?』


荒井さんは声高らかに笑い出した。


『あはは…うちらが暴力?叩くとか蹴るってこと?…はぁ?うちらのこと馬鹿にしてんの?するわけないじゃん』

『だったら良いんだけど』

『ってか、私らにお願い3つって多過ぎるし』


そう言われても、詩織は黙って2つ目の願いを言った。


『2つ目は…この対決が終わったら、もう私たちに関わらないで』

『何それ?ふぅん…まぁいいわ。考えといてあげる』


そして、詩織が3つ目の願いを言う前に…荒井さんは廊下の周りに集まったアイドルや関係者を見回して言った。


『はーい皆さん。可愛い子対決は《Cue&Real》のステージのあとだから。ここでね。この子たちが勝負でボロボロになって負けるとこ観に来てやってー。あははは…』

『3つ目のお願い、言っていい?』


雰囲気に呑まれず、冷静にそう言った詩織が気に食わなかったのか、荒井さんはまた鋭い視線で詩織を見た。


『…どうせ「聞きたくない」って言っても言うんでしょ?だったらさっさと言えば?』

『うん。私たちから勝負に出す《幻の7人目》なんだけど…撮らないでほしい』

『…ふぅん。撮らないでほしい?』


荒井さんが、さらに尖った視線で詩織を力強く見た。

ほんの少しの沈黙…。


『じゃあ…勝負の子は撮らない。けど、負けたあなた達が土下座してるところは撮らせてもらうから。勝った証拠に』

『だから!違うって!私たちは勝負に携帯は持ってこないで!って言ってんの!』


海音さんが、荒井さんのその一言に楯突くようにそう叫んだ。


『…ちっ。くそっ…うるさい!黙れ!この二流リーダーがぁ!!』

『…。』


再び睨み合う、荒井さんと海音さん。

結局…3つ目の詩織の願いについては、荒井さんは了承の言葉を言い残してはくれなかった…。


『お願いかなんだか知らないけど、私はもう戻るから!!』

『お願いは守ってよね。ねぇ…!』


そう言って荒井さんは詩織と海音さんを今一度睨みつけ、荒井さんの後ろ姿は廊下の向こうへと消えていった…。






…廊下に残ったのは、詩織と海音さんと…騒ぎの野次馬に集まった他のアイドルたちと関係者ら。

今までしんと静まり返っていた廊下は次第に活気を取り戻し、野次馬のアイドルやスタッフ、その他の関係者らはそれぞれの場所へと戻っていく…。


『ふぅ…やっと戻ったね。あの子たち』


怯えた表情の明日佳ちゃんと心夏ちゃんが、ゆっくりと海音さんの元へと歩み寄る。


『ごめんなさい…私たち…』

『怖くてなにも、できませんでした…』


海音さんは二人を優しく見やって、ニコリと微笑んだ。


『いいのいいの。嫌味を吐き散らすアイドルなんて、ほんとにアイドルなの?だよねー』

『…はい』
『でも…』

『うぅん。あんな性悪な子らより、口喧嘩が怖いってちょっと怯えてる、明日佳ちゃんと心夏ちゃんのほうが、よっぽど可愛らしい一流アイドルだよ』




『何なんですか!あの人たち…!』


優羽ちゃんと千景ちゃんの後ろに隠れていた雫ちゃんが、出てきてそう言った。


『あの子たちと勝負するんですか?私。それと金魚さまも』

『うん。あの子ら…ってより、あの子らが連れてくる、めちゃくちゃ可愛い二人のアイドルとね』

『まさに《可愛い子勝負》なんですね…!』


雫ちゃんは怯えるどころか…その勝負に自信あり気に、をキラキラと輝かせた。


『私は《瀬ヶ池女子》の代表みたいなものです。可愛い子の勝負なら、相手が一流のアイドルでも絶対に負けるわけにはいきませんね!』

『うん。負けたくないよね。あんな意地の悪い子らに。ステージパフォーマンスでも、可愛い子勝負でもね!』


海音さんは、このあと直ぐに『じゃあ最後の《可愛い子勝負》の作戦の振り返りしておこう!』と、メンバーのみんなを控え室の隅に集めて、作戦の振り返りの話し合いを始めた…。






ちょうど午後1時になった頃…。


『ごめん!かなり遅くなったね!』


グループマネージャーの槙野さんと、うちの事務所の池田さん。それに、春から新人マネージャーとなる南野夕紀さん…もちろん本物の本人…が、僕らの控え室へと戻って来てくれた。


『夕紀ちゃん?…えっ?来てくれたの!?やったーぁ!』


詩織が満面の笑顔で夕紀さんの元へと駆け寄って、お互いにハグをしてそのままぴょんぴょんと二人で跳ねた。


『きゃはははは。嬉しーぃ♪』


『うん。新人マネージャーの同期の森直輝さんがね、鈴ちゃんのマネージメントを代わってくれるって。私を気遣ってくれて…』

『へぇ。そうなんだぁ!でも…ねぇ?どうやって入って来れたの?』

『…えっ?どう…?』

















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