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G.F. - 大逆転編 -

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不安を抱えながら…まずは雫ちゃんの前髪や横髪を、クリップで留めて上げて…。
《金魚専用メイクボックス》からコットンを1枚取り、その上にクレンジングオイルを2滴乗せた。

まるでKissの瞬間を待っているかのように、僕の方を向き…そっと目を閉じて、じっとして待っている雫ちゃん。

メイク落としを済ませ、僕は左手の人差し指で、雫ちゃんの右頬に軽く触れた…!


『ちゃんと保湿、できてるね。雫ちゃん』

『はい。夏休みのあの日、金魚さまから《肌が…乾燥肌だね。肌が健康な状態であることがメイクの基本なんだから、できれば今夜から、肌の保湿をして続けてあげて》って、アドバイスをもらってから…』


ゆっくりと、その大きな両目を開けた雫ちゃんが、僕を優しく見る…。


『…その夜から、どんなに忙しくても…どんなに面倒くさくても、ずっと朝晩の2回…保湿ケアを毎日欠かさず続けてます』

『うん。頑張ってて偉い。ありがとう…』




ゆっくりと…僕のあの夏の日の記憶が蘇ってくる…。


一目見たときから、すぐに《あ、この子凄く可愛い!》って、直感のように感じた…んだけど…。


目が綺麗で大きくて、まつ毛も長くて…鼻頭もツンとしてて、こんなに可愛いのに…。
間近で見ると…顔に触れると、肌の潤いが…それと肌の透明感も失ってた。
勿体無いよ。可愛いのに…。

それに、肌理きめが荒れてて、見た目も白くカサカサ感が酷かった…。

でも…今日は…。




『肌が…キラキラ輝いてる。潤いと透明感が戻って嬉しいって。肌理が喜んでるね』

『えへへっ…嬉しいです。金魚さま、ありがとうございます…♪』




では…顔全体を化粧水で拭いて、肌理を整えていく…。
そして軽いお喋りをしながら、待つこと約1分から2分…僕の勘で。

ベースを顔全体に乗せて伸ばしていく…ファンデのノリが凄くいい。
表皮の皮脂量と水分量とが、とても良い状態とバランスで保たれているのがよく解る…。


アイメイクは…ラメが入ったシャドウを使って…キラキラ。色は薄めで。
アイラインは…目尻は少し伸ばすだけ…長く引き流さないよう…スーッと…左右の線のバランスも気をつけて…。

ビューラーでまつ毛をクイっと。クイっと上へと上げて…マスカラは、まつ毛がくっ付き絡まり合わないよう、丁寧に…。
最後に優しくフゥー…っと、マスカラしたまつ毛に優しく息を吹きかけちゃうのは…僕の癖かな…。


アイブロウ…眉毛はペンでサッサッサッ…スッスッスッ…と。やや細く綺麗に整えられた眉毛を、更に整えるイメージで…。


じゃあ次はリップメイク…可愛い薄ピンクが良いよね。雫ちゃんに似合いそう。
テカリは少し抑えめで…。

薄い上唇と、それよりは少しだけ厚い下唇。ブラシでチョンチョンチョンと…端から中央へと向かって少しずつ、ピンク色をしっかりと乗せていく…。
あとは唇の際をティッシュや綿棒、指を使って…柔らかく少しだけぼかす。ぼかす…少しだけ…。


僕の場合は、チークを一番最後にしてる。

色はいつも、乗せてるか乗せてないか分からないぐらい、色は薄め。
メイク全体でも言えることだけど…色が少し薄い方が、ナチュラルに仕上がって…僕は好き。

《少しだけ。メイクしてるんですよ》感がね。良いかな…と。






『…はい。じゃあ雫ちゃん…』

『完成ですか?』


僕は雫ちゃんに、ニコリと笑ってみせる。


『目を細めたり、パチパチしてみて…』


雫ちゃんは、目を細めて開いてを何度か繰り返して…まぶたをパチパチ…。


『…うん。今度は唇を尖らせてみて…』

『はーい。うー』


言われたとおり、唇を尖らせてくれてる雫ちゃん…可愛い。


『最後に…口角を上げて、笑ってみて』

『はーい。いー』


…うん。大丈夫みたい。
メイクの崩れも捩れも、真顔に戻った時の目や口周りの皺跡もない…綺麗。


『オッケー。ありがとう雫ちゃん。これで完全だよ。鏡見てみて』

『はーい。見まーす』


ずーっと…23分くらい座って、僕と睨めっこしていた雫ちゃん。
椅子から立ち上がり、鏡台へと向かって…鏡をじっと覗き込んでた…。


『これです…このメイクです!とても丁寧で…可愛い…好き。金魚さま…嬉しいです…♪』



うん。お気に召されて良かった…。

ふぅ…ようやく終わっ…ぇ?



衣装へと着替えを終えたメンバー6人が…?

いつから…僕の《雫ちゃんメイク》を…じーっと見てた…?


『あー…へー凄いねー…メイク可愛いわー…信吾くん…いつか私もしてほしいわー…信吾くんのメイクー…』

『…。』


あの…いつか…機会があれば…えぇと…海音さん…。


『あっ、あの…今日のその…その、ステージ衣装は…?』

『あっ、これ…?』



僕がそう訊くと…。

今日、ステージで歌う新曲《チョコ巫女VALENTINE!》のイメージに合わせて、巫女さんの《白と赤》のイメージカラーを《白とチョコ色》にアレンジした…つまり《チョコ色巫女6人衆》…なんだとか…。

巫女とバレンタインって…異文化混合…。
どうなんだろう…それって…。


『ちなみに…イメージはミルクチョコね♪』


あぁ…そうですか…。


『…で、新曲は2曲目で、1曲目は《適当キューピッドとロケットランチャー》ねッ♪』


うわぁ…1曲目は変な曲かぁ…。




《♪コンコン…コン!》


…ん?
ドアをノックする音…?

メンバー6人が…そして、僕と雫ちゃんが…。
互いを見合った。誰だろう…?

池田さん達が、スタバから戻ってきたのかな…?


『開けなさい!わざわざ私たちの方から挨拶に来てやったわよ!』


…!!


『じゃないと…勝手に開けるわよ!』




「来たよ…荒井だよ!」

「荒井美里さんの声ですね…!」


海音さんと優羽ちゃんが、表情を強張らせながら小声でそう言い、見合った。


「Cue&Realのリーダーですね…」
「いえ…T.S.S.Dの片山さんも来てるみたいです…」

『えっ、そうなの?』


今度は、詩織が明日佳ちゃんと心夏ちゃんを見た。


「私…ドアを開けます…」


緊張した眼差しでそう小声で言って、ドアへと向かおうとした千景ちゃんを、海音さんが止めた。


『待って!千景ちゃん。私が行くよ…』






…海音さんがゆっくりとドアを開ける…そこには確かに、荒井美里さんと片山桃香が立っていた…!


『あんた達ねぇ…本っ当に挨拶に来ない奴らね!あれだけ言ったのに』


不気味な薄ら笑いで、荒井さんが海音さんをじーっと睨んだ。


『だから!そういうのは事務所間で《無くていい》って、話し合いで決まったって言ってるじゃない!』

『そんなの現場のうちらには関係ないから。アイドルの暗黙のルールでしょ!ちゃんと守りなさいよ!!』


荒井さんと海音さんが睨み合うなか、片山さんも参戦して海音さんを睨みつける…。






「優羽ちゃん、千景ちゃん…お願い。雫ちゃんを後ろに隠して…」

「はい!詩織お姉さま!」
「雫ちゃん、こっち来て!」

「うん」


優羽ちゃんと千景ちゃんが…ゆっくりと隣り合わせに並び、その2人の背後へと…雫ちゃんもこそーっと移動し隠れた。


『…で?いるの?この部屋に?あんた達の《幻の7人目のメンバー》とかいう子』

『本当に可愛いの?どうせ本当は超っブス!なんじゃないのぉ…?』


立ち塞がる海音さんの両肩をぐいっと無理やり押し、控え室の中を覗こうとする荒井さんと片山さん…。


『止めてよ!いるに決まってるでしょ!だから止めてって!勝手に覗かないでって!!』


そんな2人を、押し返して抵抗する海音さん。


『ちょっ、止め…私たちに触るなぁぁ!この二流アイドルグループリーダーがぁぁ!!』



















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