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G.F. - 大逆転編 -

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僕は今…雫ちゃんの突然の態度の変化に、メイクの集中力が途切れて手を止めてしまい…たぶん、酷く驚いた表情で雫ちゃんをじっと見ていたと思う…。

対して雫ちゃんは、僕に投げ掛けた『歳下の女の子は…好きですか?嫌いですか?』への僕の答えを、何だかふわふわと夢を見てるような…そんな視線で、じっと待ってるようだった…。


『嫌い…好き…?』


答えに戸惑い、黙ったままの僕に…改めてもう一度訊いてきた雫ちゃん…。

何て言えば…どう答えるのが正解…?
どうしたらいいの?僕…。


『じゃあ…質問、変えますね…♪』

『…。』


質問を変える…。
そう言って、うふふっ♪と可愛らしく笑った雫ちゃん。

もしかして、雫ちゃん…《こういうシチュエーション》は慣れてる…って感じ…?


『信吾さまは…ぅん。可愛い女の子と、kiss…したこ…』

『はーい!はいはい。雫ちゃーん!』

『…とあ…あっ、えぇっ!?』


あらかじめ開いていたダイニングルームのドア。
そこから詩織が、勢いよくダイニングへと入ってきた。

大きなその詩織の声に、雫ちゃんは慌てて立ち上がり、振り向いて…少し怯えるように詩織を見た。


『おっ…お、お姉さま!?』


詩織は勢いよく右腕を伸ばし、雫ちゃんの左手首あたりを掴んだ。


『ダメでしょ?信吾のメイクの邪魔しちゃ』

『えっ?あっ…邪魔なんてしてませんよ…ね?』


ね?…って、僕に救いを求めるように、そう訊かれても…。

…だけど、ごめん。
《邪魔》ってほどではないけど、でも確かに…。


『私、ここに座って見てただけですよ?』

『でもだーめ。信吾が《ちょっと邪魔》って。《メイクに集中できない》って

『待って!…ください。何も…一言も言ってないですよ。信吾さん…』

『うぅん。信吾のがそう言ってるの』

『待っ、嫌ぁー…』


詩織に掴まれた左腕をグイグイと引っ張られ、右腕をあちらこちらに振り回して抵抗しながら…引き摺られ、ダイニングから廊下へと連れ出されていく雫ちゃん…。


『助けてー!信吾さまーぁ…』


まるで…"小悪魔詩織"に、大きく開いた魔界の門の中へと引き摺り込まれ、連れられていく"か弱き雫ちゃんの魂"…なんてイメージ像が、急に頭に浮かんだり…。


「…で、kiss?したことないの?雫ちゃん?」

「ゅ…ゆるしてくださぃ…えっ、kiss?な、ないですけど…」


完全にダイニングを出ていった雫ちゃんと詩織。

どうやら、廊下を挟んだ向こうのリビングに行ったみたい。


「じゃあ…私が貰っちゃおっかなーぁ。雫ちゃんの初kiss」

「えっ?ぉ….お姉さま!?…ちょっ、近…」

「私のkissは…優しくて、甘ぁいよ…♪」

「いやっ、あっ…ダメぇ…待って…」

「それに信吾の初kissは、もう貰われてるわよ」

「ぅ、えぇっ!?誰に!?」

「うふふっ♪」

「まさか!?お相手は詩織お姉さ…」

「うぅん。絵里佳ちゃん」

「だっ誰っ!?」

「きゃはは♪」


…ねーぇ!
だーかーらー!

「きゃはは♪」じゃないって!

2人とも静かにして!
メイクに集中させてって!

2人のちょっと気になる会話が若干、こっちにまで漏れて聞こえてるんだって!!






…ふぅ。やっと終わった…。

少し時間は掛かったけど….何とか集中力を取り戻し、無事にメイクが完了できた…。


『…。』


もう一度、じっと鏡を覗き込む…。

勝つために、今日までいろいろと試行錯誤してやってきたのに…結局、僕の《金魚メイク》はあまり…どころか、全然変わらなかった。

でも、それで良いんだ…良かったんだって自分自身、納得もできたんだ…うん。

金魚のメイクは…何ヶ月前なのかな…その頃に、既に完成していたんだと思う。
これ以上何も変えられない《可愛さ至高の金魚のメイク》が。


『金魚、どう?可愛くメイクできたー?』


リビングに入ってきた詩織。
そう訊かれて『うん。あとはヘアメイクだけかな』と答えた僕。


『じゃあ呼ぶね。雫ちゃーん!』


詩織は今度は、雫ちゃんを呼びながらまたダイニングを出て行った…。

そして、詩織と入れ替わるように、雫ちゃんがダイニングへ…。



…ん?
ちょっと…涙目?


『お姉さまにkiss…されました…』


あちゃ…。
そう僕に打ち明けた雫ちゃん…。


『そう、なんだ…』

『…ここ』


…えっ?

雫ちゃんの右手の人差し指が指差したのは…。


『ぉ、おでこ…』

『そこ?』


雫ちゃんのひたいに詩織が優しくkissをする…そんな微笑ほほえましい様子を想像して、ついつい…僕はニコリと笑顔になった。

更に『じゃあ…唇は?大丈夫だった?』と僕が訊くと、雫ちゃんは小さくウンと頷いた。

良かった…のかな?
とにかく、雫ちゃんの《初…》は奪われなかったみたい。
詩織に。


『じゃあ早速、ポニーテールのヘアアレンジ…始めてくれる?』

『はい』


雫ちゃんは、ダイニングチェアに座る僕の後ろに立ち…まずは僕の後ろ髪を手櫛で触れるように、ゆっくりと優しく解いた…。


『あ…パサついてるというか、髪が少し乾燥してますね。潤いが…』


髪の潤い?
気にしたことなかった。

髪のことは、何でもアンナさんにお任せだったから。


『藤浦に帰ったら、私のお勧めするヘアオイルをお送りしておきますね』

『えっ、いいの?』

『はい。それと使い方や使うときの注意点などは、商品が届いてから、お電話でご説明します』


テーブルの上の鏡に映る雫ちゃんは、優しく微笑んでくれていた。

『ありがとう』


雫ちゃんは僕の左右の髪から後ろ髪、髪の襟足までを両手で掻き集め、僕の後頭部の真ん中あたりでその小さな髪の束を左手で掴み、ギュッとまとめてヘアゴムで留めた。

…ミニマムポニーテールの完成。


『…ここに《ロングのポニーテールウィッグ》を留めて…本物の金魚さまの小さなポニーテールに被せて…手で少しほぐして、本物の髪と馴染ませて…これでほぼ完成です』


おっ…早い。


『あとは、ポニテウィッグの留めの部分…本物の髪との境目を隠すように…』


…ポニーテールヘアアレンジの仕上げに、ウィッグの留めの部分を生地の厚みのある、上品な茶色のリボンで結んで包んでくれた。


『…はい。出来上がりです』


鏡の前で、顔を左右に振ってみる…。

長いポニーテールのウィッグがゆらゆらと揺れているのが見てとれた…あはは。なんだかちょっと面白い。

『どう?できた?』と見にきた詩織も、そのポニーテールを見て『あら、可ん愛い♪』『うん。ぱっと見じゃあウィッグだなんて分からないね!』『ウィッグの留めが凄く綺麗』って、褒めてくれた。

綺麗に可愛く、ロングポニテのウィッグを付けてくれてありがとう。雫ちゃん。



…どうだろう。
最後に…立ち上がって、完成した今日の金魚の姿を詩織に見てもらった。


『うん。完璧!あくまでも服装は《普通》を装ってるけど、全然普通じゃないぐらい、可愛い♪』

『…ありがとう』

『ですよね!お姉さま!』


雫ちゃんと詩織は、顔を見合わせて笑った。


『…ね。これだったら絶対勝てるわ!あの子たちに!』

『勝てる…って…何ですか?詩織お姉さま?』


…えっ?

僕も詩織も、揃って雫ちゃんを見た…あっ!

そっか!
雫ちゃん…聞かされてないんだ!



雫ちゃんが、ここに呼ばれた理由。

《Kira♠︎m所属の一番可愛いアイドルの子たちに、金魚が勝つための協力をするために、雫ちゃんが呼ばれた》んだってことを。






















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