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G.F. - 大逆転編 -

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…2月9日、金曜日。
時刻は午後0時44分。
場所は東京都千代田区丸の内の東京駅。

今日の東京都心の天気は…曇り空。

その東京駅内の《東海道・山陽新幹線のりば》の改札口の前に、僕らは並んで立っている。
僕の右隣には詩織。そして僕らが待っているのは…あの子。


『新幹線が駅に着くの…確か、33分だったよね?

『うん』


新幹線の到着予定時刻から、11分が過ぎたんだけど…。

でも…あれ?
まだ改札口に現れない?…あの子。

ちょっと…心配なほど、遅い…。


『詩織はあの子の顔、見て分かるの?』

『うーん…少しだけ?』


『分かるの?』って訊いて『うーん、少しだけ』って答えるって、凄く曖昧…っていうか、意味分からなくない?
正しい返答は《分かる》か《分からない》かの、どちらかだと思うんだけど…。

ちなみに…僕は彼女の顔をまだ全然知らないから、僕は《分からない》。


改札口から出てくる、たくさんの女の子たちを…一人一人、僕はキョロキョロじーっと観察する…。
みんながみんな…全員可愛く見えてしまう…。

あの子は絶対に、誰も文句が言えないくらい可愛いんだ。
だって去年末に開催された《G.F.アワード》の2位だったんだから…。

可愛い…に、違いない…。


「…待ち焦がれてるときって…待っても待っても、その人はなかなか現れないものなんですよね…」

『!?』
『……?』


僕らの後ろ…背中の方から女の子の声?

詩織も僕も、驚き慌てながら振り返ると…。


『あっ、えっと…雫ちゃん!?』

『はーい。五十峯雫です。お待たせしましたー』


僕より少し背が低い女の子…152cmくらい?かな。
赤色のキャリーバッグを左手で引き摺るように、そこに立っていた。

真白いタートルネックの薄手セーターの上に紺色とベージュのツートンチェック柄のカーディガンを重ね着して、膝上10cm丈くらいの黒のスカートを穿いている。
脚は白黒ボーダー柄のニーハイソックスを履いて…靴は黒と灰色の可愛らしいスニーカー。

髪型は…本来であれば背中の肩甲骨に十分触れるくらいの長さがあるだろう後ろ髪を、丁寧に且つ上品に束ねて巻いて編むように、ヘアアレンジして…アップして留めていた。
これは何って言うヘアアレンジ?なのか僕は解らないけど…凄く上手で、とても綺麗で繊細な感じ。

そして、そのお顔は…可愛い!やっぱり僕が思ったとおり。
目がぱっちりと大きくて、まつ毛が長くて、鼻も小っちゃくて、唇も少し薄め。

凄く可愛くて、メイク映えしそうなとても良い顔立ち。

これだったら疑う余地さえなく、《G.F.アワード》で入賞したのも充分に信じ納得できるレベルの子。


『岡本詩織さんと池川金魚さん。どうぞよろしくお願いします!』

『えっ?ぁ、はい…』


詩織が少し戸惑うような表情を見せて…僕と顔を合わせた。


『ってか、なんか…遅かったんだけど』


詩織が、その五十峯雫という子にそう言うと…。


『えへへっ。待ってくれてるお二人を驚かそうと思って…あっちの改札口から出て、ぐるーっと回ってきたんです』

『えぇ!?驚かそうって…そんなこと考えて行動してたのー!?』

『あははー。ごめんなさーい♪』

『きゃはは…だーめ。許さないわよぉ』

『やだー!あははー♪』


とても元気で無邪気な子。
見せる色んな仕草も可愛くて、性格も明るそうで、ずっとニコニコッ♪と笑ってる。

僕らはとりあえず、たくさんの人が行き交うこの改札口から離れ、東京駅を出ようと歩き出した。


『詩織さんも、金魚さんも…私の憧れの人なんですよ!』

『えっ、そうなの?』

『はい。私、お二人とも大好きです!』


詩織は少し、照れるように笑った。


『そっかぁ…嬉しいなぁ♪』


そしてもう一度、詩織が隣に並んで歩く雫ちゃんと目を合わせると…雫ちゃんはまたニコッ♪と可愛く笑った。

そんなこんなで僕は…この二人のそんな様子を見ながら、二人のほんの少し後ろを歩いていた。

駅の構内で…また駅から出たあとも…僕らとすれ違った女の子や、他のいろんな人が…少し驚くように何度も振り返って、僕らを見てた。


『金魚さんも…ですよね!』

『えっ?お久しぶり…?』


雫ちゃんは軽く振り返って、少し斜め後ろを歩く僕と視線を交わした。

お久しぶり?…それを雫ちゃんから詳しく話を聞くと…。

去年の夏、僕がナオさんの化粧品店《BlossoM.》で、【何でも3品ご購入頂けたら、金魚が直接メイクして差し上げます!】のアルバイトをしてた時に…来てくれてたらしい。

あんまり僕…あの時のことを覚えてな…あっ!?


『そのときに私…《綺麗な二重瞼だし、まつ毛は凄く長いし、とても可愛いですね》って、言ったっけ…?』

『えへへっ。覚えてくれてたんですね。やったぁ♪』


そう…僕は急にフラッシュバックするように…思い出した。

あの日のメイクのバイトが終わったあとに僕…《なんか今日…午後に凄く可愛い子が来てくれてたな…》《僕のメイクと相性が良かったのかな?本当に可愛いかった…》って、振り返ってたんだった!



そっか…あの時のあの可愛い子が…この子、五十峯雫ちゃんだったんだ…。


『ねぇ、お昼は何か食べた?』


詩織が優しく、雫ちゃんにそう訊いた。


『いぇ…私、ようやく緊張がちょっと解けて…気付いたらもう、お腹ペコちゃんです…』


自身のお腹をじっと見て、左手で軽くお腹をさすって見せる雫ちゃん。


『じゃあ…何がいい?フレンチ?イタリアン?それとも中華?今日は特別に、私が出してあげるよ』

『そんなのダメです!私ちゃんと払います!』


…そこから、詩織と雫ちゃんの『私が奢るんだから』『ダメです!』『いいから気にしないで』『凄く気にします!』の軽い押し問答が続いて…。


『ってか雫ちゃん…私たちももうお腹が空いて限界だから…とりあえず、どこかお店に入ろう…』

『あはは。ですねー。じゃあ…私、美味しい和食のお店がいいです』

『和食?で…いいの?』

『ダメ…ですか?』


複雑な表情を見せる雫ちゃんと、詩織が見合った。


『うぅん。ダメじゃないよ。じゃあ私に任せて!美味しい和食のお店、知ってるから!』

『やったー!詩織さん、ありがとうございまーす!』


…僕らにまた新しい、賑やかな仲間が増えることになるのかな…ん?

《バレンタインフェス》のために来てくれたんだから…それが終わったら…雫ちゃんとはお別れ?

えっ?まさか…本当に?



詩織と見合う、ニコニコ笑顔の横顔…とても可愛らしい五十峯雫ちゃん。

僕と雫ちゃんは…運命?でもないかもだけど…去年のあのメイクのバイトで会ってたんだ。
今日が初めてじゃない。

それに…詩織と金魚ぼくのことを《憧れの人》《大好き》って…言ってくれたんだ。

それなのに…《バレンタインフェス》の可愛い子勝負が終わったら、これでまたお別れ…なんて、何だか…少し…。






















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