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G.F. - 夢追娘編 -
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『じゃあ…4階であの子達をずっと待たせちゃってるから。私、そろそろ戻るね』
陽凪さんはそういうと、椅子からゆっくりと立ち上がった。
『あぁ。それと陽凪さん。くれぐれも詩織にはここで話したこと、言わないでくれよな』
『OK。じゃあ上(の階)で待ってるから』
僕らに向かって、少し恥ずかしそうに…笑顔でウィンクした陽凪さん。
『じゃあまたね。イケメンの公貴くんと、イケカワな女の子信吾くん』
そうして陽凪さんが廊下へと出て…。
『…ん?あれ?…んん何?』
…扉はパタンと閉められた。
…また、公貴くんと二人だけになった控え室…。
ちょっと…気まずい空気が流れ…。
『なぁ、信吾…』
『はっ、はい!』
僕は目をぱちくりさせて、背筋を伸ばして…改めて公貴くんを真っ直ぐ見た。
『俺が…この部屋に入ってきてお前に言ったこと…覚えてるか?』
…んん。あれ?
何…だったっけ…?
『…ったく』
ご、ごめんなさい…。
『俺はお前に、《聞いてほしい話》と《頼みたいこと》があるんだ…って言ったよな?』
…あ!
そうでした…。
公貴くんが僕に『フッ…』と笑って見せた。
『《聞いてほしい話》は済んだ。詩織には《役作り》が足りないこと、それと《俺は詩織に少しキツく当たってる》《教えてと言われても、俺は教えることができない。そう家訓にあるから》とかって話な』
うん。そうだったね。
でもそれは詩織には話しちゃいけないんだよね。
詩織がそれに気付いてくれるまで。
『俺はこれからも、詩織には今のままキツく当たっていく。それは詩織のためでもあるし、大槻さんからも詩織の女優としての成長を頼まれてるからな』
…はい。
詩織のためなんだもんね。
頑張れ…詩織。
『そこで…ようやく《信吾に頼みたいこと》なんだけどな…』
うん。
それで、頼みたいこと…って?
『詩織が…女優を目指す途中で挫けたり…精神的に疲れたり…苦しそうなときは…頼む』
そう言って、急に公貴くんが軽く頭を下げてきたから…びっくりした!!
『なっ、何を…?』
『お前が…詩織に寄り添って、詩織を支えてやってくれ…』
詩織を、僕が…?
っていうか、もう…。
『今までだって、ずっと詩織を支えてきていたってのは俺だって解ってる。解ってて…あえて、お前に頼んでんだ…』
公貴くんは…詩織に嫌われても、キツく当たる態度を変えない!と…心に決めている。
そんな覚悟をしたうえで…毎晩毎晩、詩織の女優業のために、芸能関係の知り合いを転々と…尋ね回っているってことも…。
陽凪さんは、それに対して『(その努力が)誰にも知られないのに、(嫌われてもいい覚悟までしたなか)詩織ちゃんのためにあんなに頑張ってる(毎晩走り回っている)のに、そんな頑張りが報われない(詩織に話せない)なんて嫌!』って…。
『そんな悲しいのは嫌!』って言ってた…。
僕…解るよ。
公貴くんの覚悟も優しさも…それを気遣ってくれる陽凪さんの温かい気持ちも。
なのに…詩織にはこんな大切なことを話しちゃいけないんだよね…。
そう考えると、確かに…少し…。
『頼む…分かったと言ってくれ』
『うん。分かりました。詩織が挫けそうになったときは、僕が公貴くんの代わりとなって詩織の傍に…』
僕がそう言い終えると…ようやく、公貴くんは頭を上げてくれた。
『ありがとう、信吾。これはお前にしか頼めないことだったから』
…うん。
何だか…《詩織をずっと守っていくために、僕は詩織に付いて東京へ行く!》って決めた…去年末のあの頃のことを少し思い出した。
『ふわぁ…少し眠いが…さて。トレーニングルームに戻るかぁ。なぁ信吾!』
『はい。戻ろう』
公貴くんが立ち上がり、少し遅れて僕も立ち上がった。
そして、公貴くんが先に控え室を出ようとして…そして、彼はふと立ち止まった…?
『それにしても、お前さぁ…』
…?
僕は公貴くんの後ろ姿をじっと見た…。
『産まれてくる性別…絶対間違えたよなぁ…』
…はぁ!?急に何!?
僕は男で産まれて良かったって、今でも思ってる!!
後悔もない!!!
ってか、後悔って何だよ…僕。
僕が決めたわけじゃ…。
『本物の、オンナに産まれてくれば良かったのにな…』
公貴くんが振り向いて僕を見た。
僕は公貴くんを、少しキツく睨んだ…!
『もし本当に、お前がオンナだったら…』
『だったら…何?』
何か急に変な…公貴くん。
『いや…悪い。何でもない』
公貴くんはまた僕に背を向けて、控え室の扉に触れた。
『やっぱり、お前が男に産まれてきて良かったんだ…』
…??
うん。でしょ?
『それでオンナに変装するのが凄ぇ上手くて…それでこの先《天才女装タレント》として有名になって、この芸能事務所のお役に立てるんだからな…』
う、うん…。
でも"変装"は…ちょっと違うような気がするけど…。
それにしても、本当に…急に何?
でも本当に、僕が本物の女の子だったら?…公貴くん?
…公貴くん!!?
『明日、運転免許の本試験だろ?頑張れよ…』
『うん。あ…ありがとう』
廊下に出て、エレベーターへと向かうあいだも…エレベーターの昇降室の中でも…公貴くんは、もう振り返って僕を見ることはなかった…。
『詩織、ただいま…』
僕と公貴くんは、揃って4階のトレーニングルームへと戻ってきた。
…この、金魚の姿で…。
もう彼にバレちゃったんだから、あの控え室で隠れて待ってる必要も無くなったし…。
『お帰り。ってか金魚、何か変よ?何かあったの?』
『ぅ…うぅん。な、何も…』
僕を見て、そう訊いてきた詩織の顔は『…??』っていう感情を、僕に十分以上に伝えてきていた…。
トレーニングルームへ向かうあいだも…この練習室に入った直後も…しばらく『もし本当に、お前がオンナだったら…』っていう公貴くんの言葉が気になって、頭ん中をグルグル駆け巡ってて…僕は少し頭がフラフラ…というか、ちょっと変だったんだ…。
『…そう。ならいいんだけど…』
う…うん。
本当に僕が本物の…だったら、公貴くん?
公貴くんと、そんな怪しい会話があったなんて…詩織には絶対言えない…。
陽凪さんはそういうと、椅子からゆっくりと立ち上がった。
『あぁ。それと陽凪さん。くれぐれも詩織にはここで話したこと、言わないでくれよな』
『OK。じゃあ上(の階)で待ってるから』
僕らに向かって、少し恥ずかしそうに…笑顔でウィンクした陽凪さん。
『じゃあまたね。イケメンの公貴くんと、イケカワな女の子信吾くん』
そうして陽凪さんが廊下へと出て…。
『…ん?あれ?…んん何?』
…扉はパタンと閉められた。
…また、公貴くんと二人だけになった控え室…。
ちょっと…気まずい空気が流れ…。
『なぁ、信吾…』
『はっ、はい!』
僕は目をぱちくりさせて、背筋を伸ばして…改めて公貴くんを真っ直ぐ見た。
『俺が…この部屋に入ってきてお前に言ったこと…覚えてるか?』
…んん。あれ?
何…だったっけ…?
『…ったく』
ご、ごめんなさい…。
『俺はお前に、《聞いてほしい話》と《頼みたいこと》があるんだ…って言ったよな?』
…あ!
そうでした…。
公貴くんが僕に『フッ…』と笑って見せた。
『《聞いてほしい話》は済んだ。詩織には《役作り》が足りないこと、それと《俺は詩織に少しキツく当たってる》《教えてと言われても、俺は教えることができない。そう家訓にあるから》とかって話な』
うん。そうだったね。
でもそれは詩織には話しちゃいけないんだよね。
詩織がそれに気付いてくれるまで。
『俺はこれからも、詩織には今のままキツく当たっていく。それは詩織のためでもあるし、大槻さんからも詩織の女優としての成長を頼まれてるからな』
…はい。
詩織のためなんだもんね。
頑張れ…詩織。
『そこで…ようやく《信吾に頼みたいこと》なんだけどな…』
うん。
それで、頼みたいこと…って?
『詩織が…女優を目指す途中で挫けたり…精神的に疲れたり…苦しそうなときは…頼む』
そう言って、急に公貴くんが軽く頭を下げてきたから…びっくりした!!
『なっ、何を…?』
『お前が…詩織に寄り添って、詩織を支えてやってくれ…』
詩織を、僕が…?
っていうか、もう…。
『今までだって、ずっと詩織を支えてきていたってのは俺だって解ってる。解ってて…あえて、お前に頼んでんだ…』
公貴くんは…詩織に嫌われても、キツく当たる態度を変えない!と…心に決めている。
そんな覚悟をしたうえで…毎晩毎晩、詩織の女優業のために、芸能関係の知り合いを転々と…尋ね回っているってことも…。
陽凪さんは、それに対して『(その努力が)誰にも知られないのに、(嫌われてもいい覚悟までしたなか)詩織ちゃんのためにあんなに頑張ってる(毎晩走り回っている)のに、そんな頑張りが報われない(詩織に話せない)なんて嫌!』って…。
『そんな悲しいのは嫌!』って言ってた…。
僕…解るよ。
公貴くんの覚悟も優しさも…それを気遣ってくれる陽凪さんの温かい気持ちも。
なのに…詩織にはこんな大切なことを話しちゃいけないんだよね…。
そう考えると、確かに…少し…。
『頼む…分かったと言ってくれ』
『うん。分かりました。詩織が挫けそうになったときは、僕が公貴くんの代わりとなって詩織の傍に…』
僕がそう言い終えると…ようやく、公貴くんは頭を上げてくれた。
『ありがとう、信吾。これはお前にしか頼めないことだったから』
…うん。
何だか…《詩織をずっと守っていくために、僕は詩織に付いて東京へ行く!》って決めた…去年末のあの頃のことを少し思い出した。
『ふわぁ…少し眠いが…さて。トレーニングルームに戻るかぁ。なぁ信吾!』
『はい。戻ろう』
公貴くんが立ち上がり、少し遅れて僕も立ち上がった。
そして、公貴くんが先に控え室を出ようとして…そして、彼はふと立ち止まった…?
『それにしても、お前さぁ…』
…?
僕は公貴くんの後ろ姿をじっと見た…。
『産まれてくる性別…絶対間違えたよなぁ…』
…はぁ!?急に何!?
僕は男で産まれて良かったって、今でも思ってる!!
後悔もない!!!
ってか、後悔って何だよ…僕。
僕が決めたわけじゃ…。
『本物の、オンナに産まれてくれば良かったのにな…』
公貴くんが振り向いて僕を見た。
僕は公貴くんを、少しキツく睨んだ…!
『もし本当に、お前がオンナだったら…』
『だったら…何?』
何か急に変な…公貴くん。
『いや…悪い。何でもない』
公貴くんはまた僕に背を向けて、控え室の扉に触れた。
『やっぱり、お前が男に産まれてきて良かったんだ…』
…??
うん。でしょ?
『それでオンナに変装するのが凄ぇ上手くて…それでこの先《天才女装タレント》として有名になって、この芸能事務所のお役に立てるんだからな…』
う、うん…。
でも"変装"は…ちょっと違うような気がするけど…。
それにしても、本当に…急に何?
でも本当に、僕が本物の女の子だったら?…公貴くん?
…公貴くん!!?
『明日、運転免許の本試験だろ?頑張れよ…』
『うん。あ…ありがとう』
廊下に出て、エレベーターへと向かうあいだも…エレベーターの昇降室の中でも…公貴くんは、もう振り返って僕を見ることはなかった…。
『詩織、ただいま…』
僕と公貴くんは、揃って4階のトレーニングルームへと戻ってきた。
…この、金魚の姿で…。
もう彼にバレちゃったんだから、あの控え室で隠れて待ってる必要も無くなったし…。
『お帰り。ってか金魚、何か変よ?何かあったの?』
『ぅ…うぅん。な、何も…』
僕を見て、そう訊いてきた詩織の顔は『…??』っていう感情を、僕に十分以上に伝えてきていた…。
トレーニングルームへ向かうあいだも…この練習室に入った直後も…しばらく『もし本当に、お前がオンナだったら…』っていう公貴くんの言葉が気になって、頭ん中をグルグル駆け巡ってて…僕は少し頭がフラフラ…というか、ちょっと変だったんだ…。
『…そう。ならいいんだけど…』
う…うん。
本当に僕が本物の…だったら、公貴くん?
公貴くんと、そんな怪しい会話があったなんて…詩織には絶対言えない…。
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