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G.F. - 夢追娘編 -

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【岡本詩織】


活動実績…。

そういえば、大槻専務取締役がそんな事を言ってたのを思い出しました。
私には子役の経験も、演劇部に所属とかもない。だから女優になるのは難しいって…。

だから、今すぐには女優をやらせられない。だから君はまずはアイドルを目指すんだ…って。


「あぁ…詩織あいつは確かに持ってた。十分過ぎるってぐらいの女優のセンスを」


えっ?
何?今の一言…?


「詩織の力の籠ったあのとか、演技に全力を注ぐ詩織の横顔とか、演技中に時折魅せるあの…祈るような落ち着きようとか…」


私は一瞬…公貴くんが何を言ってるのか、ぜんぜん解らなくなりました。
あんなに私とケンカするぐらい、演技について言い合ってた公貴くんだよ…?

何を今話してるの…?公貴くん。
だって…私何回も、いっぱいいーっぱいダメ出しされてたんだから…。



『今の演技違うだろ』とか…『そうじゃねぇよ』とか『今の台詞、もう一回やってみろよ』とか…。

『お前が持ってる女優のセンス、全部ここで出して見せてみろよ』『じゃないと全然たりねーよ』って…。

だから公貴くんとは口喧嘩ばっかりだったよ…?今まで。
演技させるだけで、なーんにも教えてくれないから。

なのに、そんな公貴くんが、私のことを褒めるなんて…ことある?



待って!違う!?

これほんとに、私のことを話してる…?
じゃなくて違う人のこと?陽凪さんのこととか…??

んーん…。

??


「けどな、あいつは即で落とされる。自己アピールの一言も発せられないまま、確実にな」

「そうよね。詩織ちゃん自身のあの凄い演技を、出演者採用選考員のオジサン達に見てもらえば、また結果も変わるはずなのに…」

「それさえも叶わねぇだろうな。《演技はいいから。だから見せなくていいって。ハイお疲れさま。帰れ》ってな…」


…そんな…。

あ、やっぱり私のことを話してるみたい。これ。
でも…なんか、とても悲しい話…。


「だから俺は毎晩、子役やってたときに世話になった演出家やドラマ監督、あと他のスタッフらに連絡取りまくって走り回ってんだ」


…えっ?何何?
どういうこと…?


「たった一瞬でも、エキストラでも何でもいいから、映画やドラマに詩織ちゃんを出演させてほしいって…ね」


…!?

陽凪さん?
何なの…それ…??


「でも詩織のことだから、《公貴のおかげでドラマ制作に関われた》なんて知ったら、あいつのが許さないだろうからな」


私の、女優としてのプライド…?

女優として…?


「だから、もし詩織の出演の仕事が決まったら《池田さんが頑張って獲ってきてくれた仕事だ》ってことにしてるれるよう、池田さんに話してある」

「…ね。池田くんは池田くんで、別行動で詩織ちゃんの女優のお仕事探ししてくれてるけど」


…えぇ…。

公貴くんが…池田さんが…私のために…?


「…んで、俺はその仕事の件に関しては、なーんも関わっちゃいねぇよ…って顔してな」


…何で…公貴くん?
なんで隠そうとするの…?

こんな私のために、頑張ってくれたんだもん!大事なことじゃない!
そんな時は、こんな私だって『公貴くん、ありがとう』って、ちゃんと言うよ…!


「だからまずは、詩織の出演実歴をできるだけ多く作ってやるんだよ」

「公貴くん、優しい…詩織ちゃんのために、頑張ってる自分のことを黙って隠して…なんて」

「仕方ねぇよ。大槻さんから直接頼ま…」

「…好きなの?」

「ぁ?」

「ラヴ♡なの?詩織ちゃんのこと」


…そうだ。

でも…確かに考えてみれば…そう。
いつも気にしてくれてた…私のことを…公貴くん。
子役も演技の部活動もないのか…そうか、って。

ダメだってば私!
今は他事ほかごとを考えてちゃダメ!
今は一語一句聞き逃しないように、会話に集中しなきゃ…!


「ちょっ…殴っていい?陽凪さん」

「やめてー。暴力はダメよー!私女優だから顔はー!」


えぇっ!?殴っ!?

私がちょっとだけ聴き逃してた一瞬のうちに、中で何が起こってるの!?


「あっははは。そんな冗談はさておきー。ねぇ公貴くん…」

「何だよ」

「毎晩こんなに頑張ってるのに、公貴くんのその努力を詩織ちゃんに、本当に隠しきっていいの?」

「いいの?って何が」

「本当に嫌われちゃうよ?詩織ちゃんに」

「あぁ…」

「詩織ちゃん…演技練習で怒ってたとき、あれ本気だったよ?本気で怒ってた」


…だって、公貴くんほんとに何にも教えてくれないんだもん。
あんなの私へのイジメだよ!って思っちゃってたから…。


「いいんだよ…」

「何がいいの!?」

「詩織は俺に怒って毎日口喧嘩して…それで毎日凄ぇ速度で成長してる」

「せ、成長?まぁ…詩織ちゃん、確かに…けど」


公貴くん…。
ちゃんと私のこと、見てくれてたんだ…意外。


「詩織は、俺が初め思ってたよりも、根性も…度胸もある」

「…うん」

「悔しいけどな、詩織は演技で俺が指摘した要点は、次の日には完璧に改善してここに戻って来んだよ。それも俺が求めてた以上の仕上がりクオリティで…」


…うん。演技で、もう同じダメ出しされたくなかったから…公貴くんに。

絶対負けたくなかったし。
私の演技力に私、女優素人なりにも自信があるから…。


「俺はさぁ…嫌われたっていいんだって。詩織に」


そんな…やめてよ。

悲しいこと言わないで…公貴くん。


「俺は嫌われて…でもそれで、立派な女優になって…いつか詩織が日本屈指の大物女優と言われるようになってくれれば…」

「だから!こんな事報われないって私言ってるの!私はこんな悲しい結果は嫌!私はそんなの望まない!」

「いいんだって…陽凪さん」

「いくら詩織ちゃんの為だからって!それで詩織ちゃんが大物の女優に成長したとしたって!」

「落ち着いてくれって。陽凪さん…」


公貴くん…私に嫌われてもいい、なんて自分を犠牲にして…私のために?

本気で私が怒って…もう話したくない!って、なんで何も教えてくれないの!って怒った時も…公貴くんは、胸の中では…私の成長を見守ってくれてたんだ…。

昨日より成長してる…良くなってる…って。

うわぁぁ…ごめんなさい!
私、このままだったら…。
本当に公貴くんのこと、嫌いになっちゃうところだった!
心の何処かで嫌い!!って思いかけてた…。



どうしよ…。
ねぇ…どうしよう!!

どうやって今までのことを…私、謝ればいいの!?

でも謝ったら…ここでこっそりと、今の話を立ち聞きしてたのが…バレちゃう。
バレちゃうよ!!

金魚には『詩織には絶対話すなよ』って言ってた…。

話してよ…そんな大事なこと。

嫌だよ…私だって言いたい…!

ありがとうって!
言いたいよ!!公貴くん!

ありがとうって言いたい!!



私って…本当バカ。

私のプライド…?

勝手に…公貴くんをライバルだと思ってた。

言葉も荒っぽいし…そこは男の子らしいけど。

歳下なのに、私のこと詩織って呼ぶし…。
公貴って、全然優しくないって…勝手に思ってた。


けど、どう?本当は…。

公貴くんは…私が思ってたより、ずっとずっと大人だった…。

私の方が…私のほうが…ずっと子どもだった!!
大人げなかった!!


優しい…公貴くん。
こんな私なんて…かばわなくてもいいのに…。

私のプライドって…何なの?
こんなプライドだっら…私いらない!!

ごめん…ごめんなさい。
私…勘違いしてた…。

ごめんなさい…公貴くん…。



どうしよう…。ここ、廊下なのに…。

涙…止まらない…どうしよ…。



















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