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G.F. - 夢追娘編 -
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控え室に置かれた1つの長机。そこに対角線を描くように、金魚と公貴くんは座っていた。
しばらく金魚をじっと見ていた公貴くん。
静かにゆっくりと立ち上がり、僕の目の前の席へと来てまた座った。
『さて…と。金魚…』
『は…はい』
公貴くんはまた、僕をじーっと見始めた…。
『詩織から聞いたことないか?…《演技上手になるために頑張らなきゃ!》みたいな言葉』
『あ…うん。いっぱい…』
僕も公貴くんの顔を少し遠慮がちに見ながら…小さく頷いた。
聞いたことあるどころか、詩織は2日に1度以上は必ず言ってた気がする。
まるで自分自身に言い聞かせているように。
『だよなぁ。だから詩織は駄目なんだよ』
…ん。
えっ?
『演技の練習ばっかりやりやがる…』
ちょっ…ど、どういうこと?
だって毎日、上手くなりたいって頑張ってるんだよ?詩織。
それが…駄目??
『あの…ダメなの?』
色々と自分成りに《駄目な理由》を考えてみたんだけど…結局解らなかったから、公貴くんに直接訊いてしまった…。
『あー。お前には難しかったか?つうか…そうだよな。解らんよな…』
『…ごめんなさい』
公貴くんは座ったまま、両脚を組み…腕も組み…そしてウンウンと頷きながら、軽く目を瞑った。
『じゃあ…次だ。金魚は《女優への階段》なんて言葉を聞いたこと…ぐらいは、あるだろ?』
『うん。聞いたことある…』
『だよな』
公貴くんは少しややこしい説明を、少し細かくそして時間を掛けて、解り易く話してくれた。
それを簡潔に纏めると…。
《女優への階段》と言われるもの…それこそが《演技力》であって、《演技力》と《演技する》ことは、また少し違うもの…別のものらしい。
演技力を高めること…練習し身に付けることは、確かに大切なこと。
だけどその《階段》には、登り詰める限界というものがあるらしい。
《優れた演技力》だけでは、プロとして望ましい演技はできないらしい…って?
『《演技力》を高めることは、プロの女優になるための過程の一つだと考えてくれ』
過程の一つ…?
じゃあ他にも何か…?
《女優》や《演技力》について、ずっと熱心に僕に語ってくれている公貴くん。
姉のYOSHIKAさんが言ってたとおり、公貴くんの精神年齢は実年齢よりも、ずっとずっと大人だって感じる。
本当に、僕や詩織よりも1つ歳下?
僕らなんかより、まるで歳上みたい…あっ!
『プロの女優になったらなぁ、今度は演技力よりも…って、おい』
僕は公貴くんから視線を外し、外方を向いてた…というか、今は控え室の入り口に視線が逸れていた。
だって…ほら。
『おい金魚、俺の話聞いてんのか!ってかお前!どこ余所見し…』
彼も僕の視線の向く方が気になったのか、公貴くんも入り口のほうを体ごと、慌てたふうに勢いよく振り向いた。
そして、ようやく…そこに立っている2人に気付いた。
『お久しぶりだね、公貴くん。それに金魚ちゃんも』
『あ…おう。なんだよ、鈴ちゃんか』
鈴ちゃんが僕らに向かって、あの可愛らしい笑顔に添えて右手を小さく振ってくれた。
鈴ちゃんの隣には夕紀さん。
夕紀さんは詩織のマネージャーインターンシップを経験したあと時折、大学にも通いながら木橋みかなちゃん、栗山雅季さん、中原優羽ちゃんのマネージャーインターンシップを経て…今は鈴ちゃんのマネージャーインターンシップをしていた。
『大事なお話の途中、お邪魔してごめんね』
『いや…いいんだ。全然気にしなくても』
公貴くんのその一言に、鈴ちゃんは『うん、ありがとう』って、優しく微笑んでくれてた…可愛い。
『えっと…詩織ちゃんは…』
『詩織?トレーニングルームだけど』
『あー、4階ね。ありがとう』
鈴ちゃんは、また可愛らしい笑顔で手を振って、エレベーターへと向かった。
夕紀そんも鈴ちゃんに続いて、深々とお辞儀して…見えなくなった。
『なぁ…鈴ちゃんの横にいたオンナって…誰だ?』
僕は公貴くんに『あ…彼女は南野夕紀さんって言って…それはあとで説明するね』と言って返した。
『あとで…か。ふぅん。まぁいいや。話の続きをするぞ』
『うん。お願いします』
《演技力》はプロの女優になるための過程の一つ…の続き。
プロの女優になったら…今度は《演技力》に加えて《役作り》の技術能力も求められる。
…らしいんだけど、じゃあ《演技力》と《役作り》の違いって…?
『お前…本当は《演技》と《役作り》の違い、解ってねぇだろ?』
本当も嘘も何も…解りません。
教えてください。公貴先生…。
公貴くんは小さく溜め息を吐くと…仕方なさそうにニヤリと笑った。
『《演技力》というのは、もっと解り易く言うと…喜怒哀楽とかの《感情表現力》だ』
うん…なるほど。解り易い。
『詩織の場合、《感情表現力》に関しては…』
…に、関しては…?
『あいつは十分、むしろ本物の女優らと大して違わなぐらい演技力はある。笑うのも怒るのも泣くのも、演技に不自然さは全く感じられないし、そのメリハリもしっかり出てる』
へぇ…じゃあやっぱり凄かったんだ。詩織の《演技力》って。
『ただ…あいつは何の役をやらせても、感情表現が上手い演技をしてる詩織なんだよ』
はい出ました。
今言ったそれ…そこ、難しいです。
つまりどういうこと?
優しく教えてくださーい。公貴くん先生。
『つまりは、そこからが《役作り》ってやつなんだよ』
何でこんなに《演技力》について色んな知識があって、こんなに上手に説明できるの?
解らない…けど、公貴くんがやっぱり《平成最後の天才子役》と言われるだけのことはある…ってことは、素人の僕でも解る。
だって凄いもん。本当に説明を聞いてても。
まるで、何十年も役者をやってきた凄い人から教わってるみたい…。
『…だから役の感情表現のために、時には冷静さを失ったような、感情MAXな《大胆な表現力》や《恥ずかしがらない度胸》とかを求められる場面もある』
『そうなんだ…』
『うん。それが今の詩織にはまだ足りない。自分でやりたくない役柄には、全然興味がないっつうか挑戦しようとしないんだって。あいつ…』
そこで《詩織の頑固力?》が発揮されてるらしい…。
公貴くんがそこを何度も注意しても、詩織は聞きもしないんだとか…。
詩織本人に代わって…頑固でごめんなさい。公貴くん…。
『へぇ。いつまで何をしてるのかって思って来てみたら…』
『?』
『!』
公貴くんと僕は、声のした控え室の入り口を、また慌てて振り返って見たら…。
『あんまり公貴くんが遅いから来ちゃった』
『陽凪さんか…何だよ』
『何だよって何よ』
陽凪さんはニヤニヤと笑いながら…今度は金魚を見た。
『こんなところで、2人だけで演技のお講義デートかしら?』
『デー…。ち、違うんですけど…』
しばらく金魚をじっと見ていた公貴くん。
静かにゆっくりと立ち上がり、僕の目の前の席へと来てまた座った。
『さて…と。金魚…』
『は…はい』
公貴くんはまた、僕をじーっと見始めた…。
『詩織から聞いたことないか?…《演技上手になるために頑張らなきゃ!》みたいな言葉』
『あ…うん。いっぱい…』
僕も公貴くんの顔を少し遠慮がちに見ながら…小さく頷いた。
聞いたことあるどころか、詩織は2日に1度以上は必ず言ってた気がする。
まるで自分自身に言い聞かせているように。
『だよなぁ。だから詩織は駄目なんだよ』
…ん。
えっ?
『演技の練習ばっかりやりやがる…』
ちょっ…ど、どういうこと?
だって毎日、上手くなりたいって頑張ってるんだよ?詩織。
それが…駄目??
『あの…ダメなの?』
色々と自分成りに《駄目な理由》を考えてみたんだけど…結局解らなかったから、公貴くんに直接訊いてしまった…。
『あー。お前には難しかったか?つうか…そうだよな。解らんよな…』
『…ごめんなさい』
公貴くんは座ったまま、両脚を組み…腕も組み…そしてウンウンと頷きながら、軽く目を瞑った。
『じゃあ…次だ。金魚は《女優への階段》なんて言葉を聞いたこと…ぐらいは、あるだろ?』
『うん。聞いたことある…』
『だよな』
公貴くんは少しややこしい説明を、少し細かくそして時間を掛けて、解り易く話してくれた。
それを簡潔に纏めると…。
《女優への階段》と言われるもの…それこそが《演技力》であって、《演技力》と《演技する》ことは、また少し違うもの…別のものらしい。
演技力を高めること…練習し身に付けることは、確かに大切なこと。
だけどその《階段》には、登り詰める限界というものがあるらしい。
《優れた演技力》だけでは、プロとして望ましい演技はできないらしい…って?
『《演技力》を高めることは、プロの女優になるための過程の一つだと考えてくれ』
過程の一つ…?
じゃあ他にも何か…?
《女優》や《演技力》について、ずっと熱心に僕に語ってくれている公貴くん。
姉のYOSHIKAさんが言ってたとおり、公貴くんの精神年齢は実年齢よりも、ずっとずっと大人だって感じる。
本当に、僕や詩織よりも1つ歳下?
僕らなんかより、まるで歳上みたい…あっ!
『プロの女優になったらなぁ、今度は演技力よりも…って、おい』
僕は公貴くんから視線を外し、外方を向いてた…というか、今は控え室の入り口に視線が逸れていた。
だって…ほら。
『おい金魚、俺の話聞いてんのか!ってかお前!どこ余所見し…』
彼も僕の視線の向く方が気になったのか、公貴くんも入り口のほうを体ごと、慌てたふうに勢いよく振り向いた。
そして、ようやく…そこに立っている2人に気付いた。
『お久しぶりだね、公貴くん。それに金魚ちゃんも』
『あ…おう。なんだよ、鈴ちゃんか』
鈴ちゃんが僕らに向かって、あの可愛らしい笑顔に添えて右手を小さく振ってくれた。
鈴ちゃんの隣には夕紀さん。
夕紀さんは詩織のマネージャーインターンシップを経験したあと時折、大学にも通いながら木橋みかなちゃん、栗山雅季さん、中原優羽ちゃんのマネージャーインターンシップを経て…今は鈴ちゃんのマネージャーインターンシップをしていた。
『大事なお話の途中、お邪魔してごめんね』
『いや…いいんだ。全然気にしなくても』
公貴くんのその一言に、鈴ちゃんは『うん、ありがとう』って、優しく微笑んでくれてた…可愛い。
『えっと…詩織ちゃんは…』
『詩織?トレーニングルームだけど』
『あー、4階ね。ありがとう』
鈴ちゃんは、また可愛らしい笑顔で手を振って、エレベーターへと向かった。
夕紀そんも鈴ちゃんに続いて、深々とお辞儀して…見えなくなった。
『なぁ…鈴ちゃんの横にいたオンナって…誰だ?』
僕は公貴くんに『あ…彼女は南野夕紀さんって言って…それはあとで説明するね』と言って返した。
『あとで…か。ふぅん。まぁいいや。話の続きをするぞ』
『うん。お願いします』
《演技力》はプロの女優になるための過程の一つ…の続き。
プロの女優になったら…今度は《演技力》に加えて《役作り》の技術能力も求められる。
…らしいんだけど、じゃあ《演技力》と《役作り》の違いって…?
『お前…本当は《演技》と《役作り》の違い、解ってねぇだろ?』
本当も嘘も何も…解りません。
教えてください。公貴先生…。
公貴くんは小さく溜め息を吐くと…仕方なさそうにニヤリと笑った。
『《演技力》というのは、もっと解り易く言うと…喜怒哀楽とかの《感情表現力》だ』
うん…なるほど。解り易い。
『詩織の場合、《感情表現力》に関しては…』
…に、関しては…?
『あいつは十分、むしろ本物の女優らと大して違わなぐらい演技力はある。笑うのも怒るのも泣くのも、演技に不自然さは全く感じられないし、そのメリハリもしっかり出てる』
へぇ…じゃあやっぱり凄かったんだ。詩織の《演技力》って。
『ただ…あいつは何の役をやらせても、感情表現が上手い演技をしてる詩織なんだよ』
はい出ました。
今言ったそれ…そこ、難しいです。
つまりどういうこと?
優しく教えてくださーい。公貴くん先生。
『つまりは、そこからが《役作り》ってやつなんだよ』
何でこんなに《演技力》について色んな知識があって、こんなに上手に説明できるの?
解らない…けど、公貴くんがやっぱり《平成最後の天才子役》と言われるだけのことはある…ってことは、素人の僕でも解る。
だって凄いもん。本当に説明を聞いてても。
まるで、何十年も役者をやってきた凄い人から教わってるみたい…。
『…だから役の感情表現のために、時には冷静さを失ったような、感情MAXな《大胆な表現力》や《恥ずかしがらない度胸》とかを求められる場面もある』
『そうなんだ…』
『うん。それが今の詩織にはまだ足りない。自分でやりたくない役柄には、全然興味がないっつうか挑戦しようとしないんだって。あいつ…』
そこで《詩織の頑固力?》が発揮されてるらしい…。
公貴くんがそこを何度も注意しても、詩織は聞きもしないんだとか…。
詩織本人に代わって…頑固でごめんなさい。公貴くん…。
『へぇ。いつまで何をしてるのかって思って来てみたら…』
『?』
『!』
公貴くんと僕は、声のした控え室の入り口を、また慌てて振り返って見たら…。
『あんまり公貴くんが遅いから来ちゃった』
『陽凪さんか…何だよ』
『何だよって何よ』
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