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G.F. - 夢追娘編 -

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『…んまぁ、そういうことなんだ…』


池田さんは話を終えると、僕らに苦笑して見せた…。


『それと…あと最後に少しだけ、話の続きがあるんだ』


…池田さんの話は、まだ終わっていなかった。


『…それから何日か悩んで、迷って、考えて…でも《パートタイム職員に降格》だけは何とか許してもらえるよう、大槻専務取締役にまた頼んだんだ…』


…そして、大槻専務取締役は『女装の天才の岩塚信吾くんを、この1年以内に無事に芸能界デビューさせらることができたら、《もし岡本詩織くんが女優に成れなかった》としても、パートタイム職員に降格しないことだけは約束しよう』って、そんな条件を提示したらしい…。


『だから…頼む。詩織ちゃん、岩塚信吾くん…』

『なるほど…そういうことだったんですね』


そこで詩織は、池田さんに確かめるかのように訊いた。


『池田さんは…私が1年後、本当に女優に成れていると信じてくれていますか?』

『あぁ、もちろん。信じてるよ!…けど』


池田さんは、ハッキリした言葉でそう言った。


『池田さん、でもどうやって?それは考えて…』

『そこなんだ。それはこれから考える。時間は掛かるかもしれない。でも慎重に、着実に進めていこう…』


池田さん曰く…あの謎の芸能事務所《Kira♠︎m》の注意が詩織の行動に向き、詩織がターゲットにされると…面倒というか、大変なことになるから…なんだとか。


『岩塚くん、君は…お願いできるかい?』


池田さんの《お願い》の意味は解ってる。

そして、それについて池田さんに相談に僕ら…今日ここに来たんだから。


『それなんです!金魚のことで相談を聞いてもらいたくて…』


詩織の切なる願いの訴えに、池田さんはウンウンと頷いた。


『あぁ分かった。で…えぇと、金魚…って?』

『えっ?』






『…なるほどね。岩塚くんの女装したあの可愛らしい姿の《池川金魚》ちゃんが…《月刊文秋》の下村記者に追われてると…』

『はい!』
『そうなんです…』

『ん?待てよ…ちょっとここで待っててくれ!』


…??


池田さんは、控え室を飛び出していった…?

池田さんのいなくなった控え室で…詩織は『池田さん、ちょっと可哀想』『私たち…これからどうなっちゃうの…?』と不安の言葉を漏らした…。


『ごめん!今、事務室で訊いてきた!』


勢いよく、少し慌てて戻ってきた池田さん。


『今日の昼過ぎ、事務室に電話があったらしい…』

『電話…ですか?』
『誰から?』


『下村記者だよ!明日《とある件についての取材》に、事務所に行っていいですかね?…って!』

『えぇっ!?』


僕は詩織の横顔を見た…詩織は不安気に、池田さんをじっと見ている…。


『《明日の正午過ぎ、僕の部下2人が向かうので、ご協力お願いします》って』


僕の視線に気付いたのか、詩織も僕を見た…。


『あぁ…ヤバい状況だよ。奴らは何か尻尾を掴むまで、ずっとしつこく追ってくるから』

「池田さん…どうしよう!どうすれば…!」


詩織は控え室の外に漏れないよう、小さな声でそう叫んだ。


『もうこうなったら…奴らにバラされる前に岩塚くんをデビューさせ、世間の前へ晒し出すか…《そんな子は知らない。うちの事務所とは関係ない!》ってしらを切って…岩塚くんに美波県の地元へ…独り帰ってもらうかだ…』

『信吾がひとりで…帰る…?』


詩織の身震いするほどの不安を払拭するかのように、池田さんは少し声を張って僕らに言った。


『けど、岩塚くんの地元帰還は絶対に有り得ない!うちの事務所もそれを絶対願ってはないし、僕だって困る!』


僕を見る池田さんの眼に、強く力がこもるのが見て分かった。


『岩塚くん…君の女装したあの女の子は、あっという間に世間の話題を掻き集めて…それはそれは凄い大評判となることだろう!』


僕は…少し驚きおののきながら…ゆっくりと頷いた。


『君みたいにこんなに若くて、あんなに可愛い女の子になれる男子なんて、この日本中に…いや、世界のどこを探してもいないんだから!』


…ひぃぃ。
なんか急に…少し怖くなってきた…かも。


『君だったら、この芸能事務所の看板タレントの1人になれる…君のおかげで驚くような大金が、この事務所に舞い込むことになるはずだ…絶対に!』

『うん。私も…そう思う。私なんかより…』


…えぇ…待ってよ。
僕にそんな価値が…?

だって…2年前までは《瀬ヶ池のメダカ》って言われて…ただバカにされてた僕だよ…。
そんなたった2年で…そんな急に変わる?人の価値って…?

日本中?世界?
何を言ってるの?…か、よく解らなくなってきた…。

規模がデカ過ぎる…ってか大袈裟おおげさ過ぎだよ…?
なんだか…聞いてるだけで、頭がズキン…と痛くなってきた…。


『…だからこそ、君も詩織ちゃんと一緒だ。君もに目を付けられると、とてもマズい。厄介だ…』


池田さんは、詩織と同じく僕にも『今後の行動に注意しよう!』『まずはあの記者らから逃げ切ろう!』『そして…早めにデビューを達成しよう!』って言った…と思…。


『失礼します!…信吾さん…!』


…う。ぇ?

僕は急に意識がハッキリし、ふと声のほうを見ると…夕紀さん?


『信吾さん…大変なことになりました!ごめんなさい!』


えっ?ぇ…なにごと!?
今、何が起きてんの…??


『夕紀ちゃん、今日は確か…大学に行ってる日じゃなかった?』


詩織がそう訊くと、夕紀さんは目をウルウルと潤わせた。


『そうなんですけど…事が事だけに、急いでここに来たんです…本当に大変で、お願いなんです!』


大変で…お願い…。
まだ僕の知らない日本語があるらしい…?


『うーん、なに?どうしたの?』


もう一度、詩織がそう訊くと…。
夕紀さんは崩れるように両膝を床に突き、座っている僕の脚に両手をそっと置いて頭を伏せた…?


『詩織ちゃん達が出演する、アイドルが集まるあの《バレンタインフェス》に…お願いします!』


…って、だから何?お願いって…?


『信吾さん…可愛いあの女の子姿になって…フェスに出てください!!』


…んー何って?

はぁぁぁあぁ…!!?






 













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