G.F. -ゴールドフイッシュ-

木乃伊(元 ISAM-t)

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G.F. - 夢追娘編 -

page.569

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詩織と、公貴くんのお姉さん…YOSHIKAさんが初めて会う日。
その前日の1月15日の月曜日から…僕は自動車免許を取得するために、その日までそっちに集中することになった。

だから僕が詩織のサブマネージャーとして動けないあいだは、春からマネージャー業務に新卒で就職する南野のうの夕紀さんに、僕の代わりを頼むことになった。


『えっ!…わっ私で…本当に大丈夫…で…しょうか…?』


冴嶋プロダクションビルの、あの控え室にて。
急に、緊張感ある表情に変わった夕紀さん。


『大丈夫よ。ただ歌や踊りのリハトレに付き添うだけなんだから。もっとリラックスして』


僕の隣に座る山本静恵さんが、夕紀さんの緊張した心をほぐすように、そう言って微笑んだ。

ちなみに、山本静恵さんはマネージャー業務の大ベテラン。
鈴ちゃんも、木橋みかなちゃんも、公貴くんも静恵さんが統括してマネージャーしてるんだから驚き。


『っていうか、初仕事がこれで良かったんじゃない?新人マネージャーの見習いには…ね。そう思わない?簡単だし丁度良いって』

『は…はい…』


…やっぱり少し不安そう。ただ詩織に付き添うだけ、なんだけど。

そして勢いよく、夕紀さんは改めて不安そうな瞳で僕を見た。


『いつ!…免許証取得して戻ってきてくれますか!?』

『…えっ?』


あの…はい。
少しでも早く取得できるよう…できるだけ善処はします。

ただ、でもいつ取得して戻って来れるかは…断言できません。


夕紀さん。僕の代わりを頑張ってください。
陰から応援だけはします…自動車学校から感謝を込めて。






そして16日。火曜日。
時刻は午後7時36分…。


『…信吾ーぉ。お待たせー』


場所は…千代田区の東京メトロ淡路町駅。
その改札口を出た所を待ち合わせ場所にして、僕は午前の自動車学校を終えて、早く来て詩織を待ってた。


そして胸元で小さく左手を振りながら、改札口から出てきた詩織…えっ?


『夕紀ちゃんも一緒に連れてきちゃった。いいよね…?』


詩織のあとに続いて、改札口から出てきた夕紀さん。


『お邪魔しちゃいますけど…良かったですか?』

『んぁ…あー。もちろんもちろん。大丈夫…』


僕は少しぎこちなく微笑んで、ウンウンと頷いた。


『信吾は何時に来たの?ここに』

『ううん。僕は10分くらい前…かな』

『そうなんだぁ』


…詩織は集合時間30分前なんて当たり前…って子なので、それに僕が合わせて…。


『今、お店を検索するからちょっと待ってて。場所が分からないから…えっと』

『何って名前のお店ですか?』

『あ…《四季菜ないす》って居酒屋さ…』


夕紀さんは、さらりと『あー。だったら私分かりますよ。ご案内します』って…。
…案内してくれて、あっという間にお店に着けた。


YOSHIKAさんは…というと、まだお店に来てない様子。

『どうする?先にお店に入ってYOSHIKAさん待つ?』って言う詩織に対し、僕と夕紀さんは『もう少しお店の前で待ったほうが良いかも?』って提案。






『…で、詩織の付き添いは慣れました?』


そう訊いた僕に、夕紀さんは…。


『はい。昨日の午前中は緊張してもうドキドキでしたけど、それからは落ち着けました。本当にただ付き添うだけだったんですね!』


安心できる笑顔で、そう返してくれた。
簡単だったでしょ?


僕は時間を確認した…午後8時23分。
待ってるんだけど、まだYOSHIKAさんが現れない…どうしたんだろう…。

YOSHIKAさんも…詩織ほどではないけど、時間厳守なひとなのに…。


『あの…えっと。お二人は、地元では凄く有名だったんですね』

『えっ、あれ?もしかして誰かから聞いたの?池田さん?』


未だ少し緊張気味に訊いてきた夕紀さんに、詩織が優しくニコリと笑ってみせた。


『いえ。誰かから聞いたんじゃなくって…ちょっと調べてみたネットの情報で…』

『ネット?』


…ネットの情報?


『それであの写真の金魚ちゃんっていう可愛い子…本当に岩塚信吾さんなんですか?』


…えっ!?


『女装姿がとても可愛い過ぎて…まだ私、今も驚き過ぎて信じられてないぐらいで…』


えぇっ!!?なんでネットで!?写真!?
待っ…あっ。


『ごめーん!信吾くん!っごく待たせちゃったー!』


YOSHIKAさんは待ち合わせ時間から25分遅刻して、ようやく到着。
そんなYOSHIKAさんの遅刻なんかより…さっきの夕紀さんのネットの話のほうが、続きが気になるんですけど…!


『えっと…初めまして。岡本詩…』

『あー!あなたが詩織ちゃんね。信吾くんからも弟の公貴からも、色々噂は聞いてるよー。ふふっ』

『…織です。こんば…えぇっ?』


丁寧にお辞儀してYOSHIKAさんに挨拶した詩織…だったけど、慌ててまた上体を戻して目を円くしてた。


『うわさ…信吾?』


驚きと疑いの見開いた目で…僕を強くじーっと見る詩織…!

うわぁ!…待って!違うんだよ詩織!

詩織が今僕を疑ってるような、そんな話はしてないから!
誤解だって!僕は無罪!!


『まぁ…とりあえずお店ん中入ろうよ。詩織ちゃん。外寒いし』

『あ、はぁーい♪』


…怖っ。
YOSHIKAさんに促され、急に上機嫌ぽくなって暖簾のれんくぐり、店の中へ入っていく詩織…。

そして2人に続いて、その背中を追うようにお店に入っていく夕紀さん…。


「あっ、ちなみに此方こちらはどちら様?」

「今年の春からマネージャーになる、大学新卒の社員さんです」

「詩織ちゃんの?」

「えぇと、それは…まだ分からないです。私、南野夕紀です。宜しくお願いします」


…ブルっ。うぅぅ…寒。
僕もそろそろ、お店ん中に入ろう…。


「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませぇ」

『あと…ごめん。《ノウノ》って、どういう字書くの?』





















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