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G.F. - 夢追娘編 -
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【浅見丈彦】
『はい終わり!終わりだよ、詩織ちゃん』
彼女は本当に泣いていたね。僕も陽凪くんも心から驚いていたよ。
一瞬、目の前で何が起こっていたのか、僕も解らなくなったくらいにね。
陽凪くんは詩織ちゃんの圧倒するような演技に、もう演技を続けられない心境だったのかもしれないね。
いやぁ驚いた。
『えっと…詩織ちゃん。お疲れ様。落ち着いて…』
陽凪くんは詩織ちゃんの元へと駆け寄って、詩織ちゃんをそっと立ち上がらせてあげた。
『大丈夫?詩織ちゃん』
『…はい』
まだ涙が止まらなかったみたいだねぇ。
そして詩織ちゃんが立ち上がると、岩塚くんも立ち上がって、少し心配そうに詩織ちゃんを見ていた。
『ほら…椅子。座れよ。陽凪さんも』
『ありがとう』
公貴くん。流石だね。その気配り、素晴らしいよ。
詩織ちゃんも陽凪くんも、公貴くんが持ってきてくれたパイプ椅子にそっと座った。
『凄かったよ。詩織ちゃん』
雅季くんは、座った詩織ちゃんの左肩に右手を添えて、そう言ってあげたね。
『はい…はーぁ。ふぅぅ…ありがとう…ございます』
目を赤くした詩織ちゃんが、落ち着きを取り戻しながら涙を掌で拭って、横に立つ雅季くんを見上げた。
そして、ぎこちなく笑ったね。雅季くんの笑顔に釣られたのかもしれない。
『なぁ公貴。今の見て、どう思った?』
雅季くんが振り向いて、公貴くんを見ると…公貴くんは横を向いた。
『あぁ?…あぁ』
『何だよ。何か感想言ってやれって』
仕方なさそうに、公貴くんは詩織ちゃんを見た。
公貴くん。素直じゃあないねぇ。
そう。それで詩織ちゃんも振り返って、不安そうに公貴くんを見た。
『あの…まぁ、あれだな』
『?』
詩織ちゃんは陽凪ちゃんからハンカチを貰って、目を擦りながらじっと、公貴くんを見てたね。
『お願い。何でもいいから…思ったことを』
『高校生らが文化祭でやる演劇とかよりは…上手かったんじゃねぇか?』
『…えぇ?』
んん?
そしたら急に、陽凪くんが笑い出した。
『ククッ♪…なに?高校の文化祭って。ほんとに公貴くんって、素直じゃないなぁ。あっははは』
『はぁ?別にいいじゃんか!っつーか事実だろ!』
『感じたんだったら、ちゃんと言ってあげればいいのに。凄く上手かったよって』
『なんでだよ…言わねぇよ。んなこと。思ってねーし!』
『えー?本当に?思ってない?あははは』
公貴くんは見上げて、練習室の壁掛け時計を見たんだ。
『くそっ。ほら!みんなも見ろよ!もう昼過ぎてんじゃんかよ!なぁアニキ!』
『あー。じゃ、昼メシ行ってくるか?公貴』
『おぅ!肉食いてぇ』
雅季くんと公貴くんが見合って、ニヤリと笑って見せ合った。
『じゃあ陽凪さん…ってことで、ちょっと俺ら昼メシ行ってくる』
『1時間くらいしたら公貴連れて、帰ってくるから』
『おいアニキ…なんかその言い方…』
みかなちゃんも、詩織ちゃんの隣に来てパチパチと拍手してたなぁ。
『詩織ちゃーん!凄んごく良かったよー!…うん。カッコよかったぁ!』
『カッコよかった?へぇ…そ、そうかなぁ』
『ってことで。私も…あにきー!公貴くーん!私も付いてくー!待ってー!』
彼らとみかなちゃんが練習室を出ていったところで、僕は詩織ちゃんと信吾くんに訊いたんだ。
『君たちはどうする?』
僕がそう訊くと…少し落ち着いた様子の詩織ちゃん。
『私は…信吾にちょっとメイクを直してもらってから、何処かランチに行ってきます』
『今日はピプレのレッスンとかはいいの?何時から?』
今度は陽凪くんがそう訊いたんだ。
すると詩織ちゃんは…。
『今日は…午後2時40分に、堀内芸能事務所に集合の予定です』
『じゃあ時間は大丈夫そうね。良かった』
『はい。今日は演技のご指導…本当に、ありがとうございました』
詩織ちゃんは丁寧に、小さく会釈して僕らにそう言ってくれた。
礼儀ができていて、本当に可愛い子だね。詩織ちゃんは。
…とは言え、勘違いはしないでおくれよ。
そして詩織ちゃんと岩塚くんも、この練習室を出て行った。
『浅見さんは、お昼どうするんです?』
そう。最後にこの部屋に残ったのは…僕と陽凪くん。
『あ、僕は妻の作ってくれたお弁当があるから』
『いいですね。大好きな奥様の愛妻弁当』
いやぁ…あははは。
『私も今日はお弁当持参なので、下の控え室でお昼ご一緒しませんか?』
『そうか。じゃあ…そうしようか』
『ご馳走さまでした』
『僕も…ご馳走さんでした』
向かい合って座った、僕と陽凪くん。
お互い弁当も食べ終わり、さっきからずっと陽凪くんに話を切り出したかった…詩織くんの演技について。
陽凪くんは彼女の演技を見て、どう思ったんだろうか。
『陽凪くん。さっきからちょっと訊きたかったんだ。詩織ちゃ…』
『さっきの演技のことですよね。詩織ちゃんの』
『ん?あ…あぁ。そうなんだ』
陽凪くんの真剣な眼差しが、僕に差し向けられた。
凄いね…久しぶりに見たよ。陽凪くんのそんな表情。
『…そりゃあ凄い…って、私びっくりしましたよ』
陽凪くんの力強い一言一言が、僕の耳へと飛び込んでくる。
『浅見さんは、どうですか?』
『あ、あぁ…僕も驚いたよ』
僕と陽凪くんは、息が合ったように同時に頷いた。
『あれが…今まで子役も演劇部の経験も無い女の子がやる演技ですか?違いますよね?そう思いませんか?』
『あぁ、そうだね。詩織ちゃんが初めて見せてくれる演技なんだから、僕はもっと…不格好な演技を披露するのかと思っていたよ。言葉は悪いけどね』
『ですね。私もそう思います』
タレント養成スクールの皐月理事長。
若くて才能のある《タレントの卵》の匂いを嗅かぎ分け見つける、その研ぎ澄まされた直感的感覚は、今でも健在でしたか…。
凄いねぇ。流石ですよ。皐月理事長。
『詩織ちゃんのあの演技は…もう何年も"女優"をやってきた人の演技でしたね』
『あぁ。そうだね』
すると急に、陽凪くんはふふっと笑い出した。
『はい終わり!終わりだよ、詩織ちゃん』
彼女は本当に泣いていたね。僕も陽凪くんも心から驚いていたよ。
一瞬、目の前で何が起こっていたのか、僕も解らなくなったくらいにね。
陽凪くんは詩織ちゃんの圧倒するような演技に、もう演技を続けられない心境だったのかもしれないね。
いやぁ驚いた。
『えっと…詩織ちゃん。お疲れ様。落ち着いて…』
陽凪くんは詩織ちゃんの元へと駆け寄って、詩織ちゃんをそっと立ち上がらせてあげた。
『大丈夫?詩織ちゃん』
『…はい』
まだ涙が止まらなかったみたいだねぇ。
そして詩織ちゃんが立ち上がると、岩塚くんも立ち上がって、少し心配そうに詩織ちゃんを見ていた。
『ほら…椅子。座れよ。陽凪さんも』
『ありがとう』
公貴くん。流石だね。その気配り、素晴らしいよ。
詩織ちゃんも陽凪くんも、公貴くんが持ってきてくれたパイプ椅子にそっと座った。
『凄かったよ。詩織ちゃん』
雅季くんは、座った詩織ちゃんの左肩に右手を添えて、そう言ってあげたね。
『はい…はーぁ。ふぅぅ…ありがとう…ございます』
目を赤くした詩織ちゃんが、落ち着きを取り戻しながら涙を掌で拭って、横に立つ雅季くんを見上げた。
そして、ぎこちなく笑ったね。雅季くんの笑顔に釣られたのかもしれない。
『なぁ公貴。今の見て、どう思った?』
雅季くんが振り向いて、公貴くんを見ると…公貴くんは横を向いた。
『あぁ?…あぁ』
『何だよ。何か感想言ってやれって』
仕方なさそうに、公貴くんは詩織ちゃんを見た。
公貴くん。素直じゃあないねぇ。
そう。それで詩織ちゃんも振り返って、不安そうに公貴くんを見た。
『あの…まぁ、あれだな』
『?』
詩織ちゃんは陽凪ちゃんからハンカチを貰って、目を擦りながらじっと、公貴くんを見てたね。
『お願い。何でもいいから…思ったことを』
『高校生らが文化祭でやる演劇とかよりは…上手かったんじゃねぇか?』
『…えぇ?』
んん?
そしたら急に、陽凪くんが笑い出した。
『ククッ♪…なに?高校の文化祭って。ほんとに公貴くんって、素直じゃないなぁ。あっははは』
『はぁ?別にいいじゃんか!っつーか事実だろ!』
『感じたんだったら、ちゃんと言ってあげればいいのに。凄く上手かったよって』
『なんでだよ…言わねぇよ。んなこと。思ってねーし!』
『えー?本当に?思ってない?あははは』
公貴くんは見上げて、練習室の壁掛け時計を見たんだ。
『くそっ。ほら!みんなも見ろよ!もう昼過ぎてんじゃんかよ!なぁアニキ!』
『あー。じゃ、昼メシ行ってくるか?公貴』
『おぅ!肉食いてぇ』
雅季くんと公貴くんが見合って、ニヤリと笑って見せ合った。
『じゃあ陽凪さん…ってことで、ちょっと俺ら昼メシ行ってくる』
『1時間くらいしたら公貴連れて、帰ってくるから』
『おいアニキ…なんかその言い方…』
みかなちゃんも、詩織ちゃんの隣に来てパチパチと拍手してたなぁ。
『詩織ちゃーん!凄んごく良かったよー!…うん。カッコよかったぁ!』
『カッコよかった?へぇ…そ、そうかなぁ』
『ってことで。私も…あにきー!公貴くーん!私も付いてくー!待ってー!』
彼らとみかなちゃんが練習室を出ていったところで、僕は詩織ちゃんと信吾くんに訊いたんだ。
『君たちはどうする?』
僕がそう訊くと…少し落ち着いた様子の詩織ちゃん。
『私は…信吾にちょっとメイクを直してもらってから、何処かランチに行ってきます』
『今日はピプレのレッスンとかはいいの?何時から?』
今度は陽凪くんがそう訊いたんだ。
すると詩織ちゃんは…。
『今日は…午後2時40分に、堀内芸能事務所に集合の予定です』
『じゃあ時間は大丈夫そうね。良かった』
『はい。今日は演技のご指導…本当に、ありがとうございました』
詩織ちゃんは丁寧に、小さく会釈して僕らにそう言ってくれた。
礼儀ができていて、本当に可愛い子だね。詩織ちゃんは。
…とは言え、勘違いはしないでおくれよ。
そして詩織ちゃんと岩塚くんも、この練習室を出て行った。
『浅見さんは、お昼どうするんです?』
そう。最後にこの部屋に残ったのは…僕と陽凪くん。
『あ、僕は妻の作ってくれたお弁当があるから』
『いいですね。大好きな奥様の愛妻弁当』
いやぁ…あははは。
『私も今日はお弁当持参なので、下の控え室でお昼ご一緒しませんか?』
『そうか。じゃあ…そうしようか』
『ご馳走さまでした』
『僕も…ご馳走さんでした』
向かい合って座った、僕と陽凪くん。
お互い弁当も食べ終わり、さっきからずっと陽凪くんに話を切り出したかった…詩織くんの演技について。
陽凪くんは彼女の演技を見て、どう思ったんだろうか。
『陽凪くん。さっきからちょっと訊きたかったんだ。詩織ちゃ…』
『さっきの演技のことですよね。詩織ちゃんの』
『ん?あ…あぁ。そうなんだ』
陽凪くんの真剣な眼差しが、僕に差し向けられた。
凄いね…久しぶりに見たよ。陽凪くんのそんな表情。
『…そりゃあ凄い…って、私びっくりしましたよ』
陽凪くんの力強い一言一言が、僕の耳へと飛び込んでくる。
『浅見さんは、どうですか?』
『あ、あぁ…僕も驚いたよ』
僕と陽凪くんは、息が合ったように同時に頷いた。
『あれが…今まで子役も演劇部の経験も無い女の子がやる演技ですか?違いますよね?そう思いませんか?』
『あぁ、そうだね。詩織ちゃんが初めて見せてくれる演技なんだから、僕はもっと…不格好な演技を披露するのかと思っていたよ。言葉は悪いけどね』
『ですね。私もそう思います』
タレント養成スクールの皐月理事長。
若くて才能のある《タレントの卵》の匂いを嗅かぎ分け見つける、その研ぎ澄まされた直感的感覚は、今でも健在でしたか…。
凄いねぇ。流石ですよ。皐月理事長。
『詩織ちゃんのあの演技は…もう何年も"女優"をやってきた人の演技でしたね』
『あぁ。そうだね』
すると急に、陽凪くんはふふっと笑い出した。
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