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G.F. - 夢追娘編 -

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『シーンは…春だよね。桜が咲き乱れる丘の上で、文と茜が桜の木々を見上げるの』

「うん…ですね…」

『10年前だけど…この場面、覚えてるかな?あのシーンの私の演技を真似てもいいし、ちょっとアレンジして演じてみてもいいから』


…ん?
詩織、大丈夫かな。

陽凪さんが演技するシーンを説明してくれてるのに…何だか、あんまり集中できてないみたい…?
じっと下を向いてる…ように見える。

けど不安そう…でもない。もの凄く気合を入れてる…んでもないみたい。

ううん。詩織なら大丈夫だ。僕は信じてる…解ってる。

詩織はこのドラマを観ていたって言ってた。
記憶を辿って、その場面を思い出しているのかもしれない。


『詩織ちゃん!!やろう!頑張ろ!』


みかなちゃんが詩織にエールを送った。
それで気がついた?のか、詩織がみかなちゃんをゆっくりと見た。


『うん。見てて』


詩織は手渡された台本を足元にそっと置くと…また姿勢を戻して、左掌を胸にそっと置いた。
目は少し下を向き…ふうっと小さく深呼吸したみたい。


『じゃあ始めるよ。まずは桜咲く丘のシーンから』


監督の代わりを務めてくれる浅見さんのその声に、詩織は反応して陽凪さんから6歩ほど離れて、そこで立ち止まった。


『茜、ねぇ茜。ちょっと来て』


陽凪さんが笑顔で詩織を呼ぶ…詩織は一瞬驚いたような表情をして…小さく頷いて、陽凪さんの傍へと歩み寄った。


『ほらぁ見て。桜、綺麗よ』

『うん…綺麗』


天井を見上げ、わあっと眩しいくらいの陽凪さん。対して詩織は…。

確かに笑顔だったけど、見上げた詩織の表情…何処となく寂しさも混じった、見ている僕らが何か考えさせられるような、ぎこちない笑顔だった。

詩織は、上から正面へと中空を目で追い、右掌をちょっと胸元で広げて…落ちてきた桜の花びらを掌で受けようとしてる…?
それでも、その桜の花びらを掌で受け取れなかったのか、一旦下を見て…屈んで花びらを拾おうとしてる…んだと思う。

不思議と本当に、詩織が桜の木の下にいるみたいに…それが何故だか、まるで僕にも見えてるかのように想像できた。
屈み方だってそう。詩織はちゃんと和服を着ているかのように、両膝を揃えて綺麗に、丁寧に屈んでいた。

見てて解る…見える。詩織の演技が。


『…陽凪くん。続けて』

『えっ?あっ…はい』


浅見さんに催促されて、陽凪さんはまた演技の続きを始めた。


『ねぇ、花見のお団子を取ってくるから。茜はそこで待ってなさい』

『うん…』


屈んだまま、そう答えた詩織。
陽凪さんは舞台だろう想定した場所から離れていく…。

それを見ていた浅見さんが、次の場面の指示を出した。


『じゃあ入るよ。影郎登場のシーン』




『信吾。代わりにやってくれ』


…えっ?

僕は慌てて公貴くんを見た。


『影郎役だよ』

『ええーっ!?なんで僕!?』


公貴くんはキツい視線で僕を見た。


『《茜姫が死にかけの影郎を抱擁する》シーンがあんだよ!』

『えぇ…』

『お前、詩織と俺を抱擁させる気か…?』


公貴くんのそれに、僕が何か答えて返そうとする前に…。


『まず立て!!』

『はっ、はい!』

『立ったら行け!!』

『はい…』


…って、立ち上がってはみたものの…。


『…で、僕はそのあと何をすれば…?』


僕は振り返らずに、公貴くんにそう訊いた…。


『心配すんな。この場面の影郎役は、そんな難しくねぇから。俺の指示の通りにやってくれればいい』

『うん…』

『それと、この場面のセリフは俺が言うから。信吾は口パクな』

『あ…はい…』


…ですよねー。
僕、この場面もセリフも知らないんだから…。



僕は、詩織演じる茜姫の、屈んだままの後ろ姿に…3歩、近づいてみた…。


『文さま…茜さま…』


僕の代わりに、公貴くんが影郎のセリフを言う。


『…影郎?』


詩織が振り返って、立ち上がった。
僕を…僕が演じる影郎を見た茜姫の表情はふっと、とても悲しそうな表情へと一変した。


『信吾。首をガクッと前へ倒して、そのまま両膝から崩れ落ちろ』


…あ、はい。
言われたとおり、僕はガクッと両膝を同時に床に就いた…ちょっと痛っ。


『影…いくさは…』


詩織の小さく震えるような声が、僕の耳にも届いた。
凄く不安を感じさせるような、小さな声…。


『すみませぬ…茜さま…我が颯鷹城は攻め落とされ…一年前に…』

『…!』


…僕、口パク…頑張ってます。
弱々しく語る公貴くんの声も…もの凄く上手いな。


『父は…母は…兄さまは…生きているのですか?』

『うぅ…すみませぬ!…茜さまぁ!すみませぬ!!すみませぬ…』


公貴くんの小さく泣くような声…なるほど。
ここは家来の影郎が泣いてるシーンなんだってのがそれで解る。


『信吾。苦しそうに左手を床に就け』


苦しそうに…!?

僕は少し大袈裟に、はぁはぁと息をし、指示に従って前に倒れるように左手を床に着いた。


『影?…影!だっ大丈夫!?あなた…病では!?』


詩織が僕の前へと小走りで来て、屈んで僕の上体を元のとおり起こしてくれた。


『黙ったまま一度頷いて、そのまま踏ん張れ。信吾』


緩く僕の肩を揺する詩織。
僕は弱々しく、下を向いたままコクリと頷いた。

あの時の詩織は、とても必死な表情で…。

 
『いや、嫌だ…顔をあげなさい影郎…返事をして!お願い!…お願い!影!!』


詩織がギュッと、僕を強く抱きしめた。


『うわぁ…誰か!!助けて!!影が…』


詩織の呼吸が荒く…本当に泣いているのが体中に響いて伝わってきた。

そして、みんながびっくりするような大きな声で、詩織が叫んだ。


『影…影!!姉さま!早く来て!!お願い!姉さま!!影が死んじゃう!!影を助けて!!誰かー!!』


































































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