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G.F. - 夢追娘編 -

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栗山雅季さんが握手した右手を緩め、詩織の右掌を放してあげると…詩織は少しドキドキした表情のまま視線を泳がせ、ソファーにまた座った。
 做しか少し疲れたようにも見える…?


栗山雅季あにきも観に行く?陽凪さんと公貴くんの演技トレーニング』

『そうだよ。久しぶりに参加しない?雅季くん』


みかなちゃんが雅季さんを誘うと、陽凪さんも同じようにトレーニング参加に誘った。


『まぁ、そうだな…』


陽凪さんとみかなちゃんは、互いを見合ってニコリと笑った。


『じゃあ詩織ちゃんも行こう…ね!』
『あっ、あれれ…?』


僕らが会話してる最中、急に廊下から控え室にひょこっと顔を覗かせたのは…今度は池田さん。


『控え室使ってる?今ちょっと使いたかった…んだ…けど』

『あーいいですよ池田さん、どうぞ。使ってください。私たちここでお喋りしてただけですから』


控え室の僕らの顔を順に見渡す池田さんに、陽凪さんは立ち上がりながらそう答えた。
僕らも陽凪さんに続いて立ち上がった。


『あ…そう?悪いね。じゃ控え室使わせてもらうね。遠慮なく…』


陽凪さんを先頭に、控え室から出て行こうとしていた僕ら…それと入れ替わるように入室しようとしていた池田さん


『あー!そうだ!ちょっと待って陽凪さん!』


…?

全員廊下に出た僕らを池田さんは呼び止め、また廊下に戻って出てきた。

池田さんの横には、眼鏡を掛けた少し小太りな男性と…詩織よりも背が高くて、長い後ろ髪をひとつに束ねたスラリとした細身の女の子が、廊下で待っていた。


『丁度いい機会だから、みんなにも二人を紹介しておくよ。新人さんだ』


池田さんが、連れていた二人の男女を自身の前に立たせ、その二人の肩を軽くポンと叩いた。
新人さんのお二人は、どちらも濃黒色のリクルートスーツを着ている。


『こちらは、新人マネージャーとなる【森直輝もりなおき】さん。35歳。元銀行員さんだよ』

『宜しくお願いします』

『それとこちらも、新人マネージャーになる【ノウノ夕紀ゆうき】さん。彼女は今年大学新卒の22歳』

『宜しくお願いしま…』
『背、私より高いですね』


にこにこ笑顔で、詩織が夕紀さんにそう言った。


『えっ?…はい。私、背は166センチあります』
『すごーい』

『のうの…って苗字珍しいね。どう書くの?漢字』
『農業の《農》に、野山の《野》とか…?』


今度は陽凪さんと雅季さんとが、夕紀さんにそう訊いた。


『あ…いえ。《南》に《野》で。ナンノとかミナミノじゃなくて、ノウノって読むんです』

南野のうの…そうなんだぁ!うん。ちゃんと覚えておくね』

『はい。ありがとうございます』


へぇ、そうなんだ。僕も【南野のうの】っていう苗字は、あまり聞き慣れてなかったなぁ…。


『…で、二人とも誰のマネージメントを担当してもらうのかは…これから。まだ決まってないんだけどね』


池田さんは『それと…いつから業務に入ってもらえるのか?もね』と付け加えた。


『…ってことで、じゃあ控え室使わせてもらうね。みんなごめんよ』


そう言って、新人の森直輝さんと南野夕紀さんを連れて、控え室へと入って行った。


『…あれ?嘘ぉ…そういえば当の公貴くん、まだ来てない…』


陽凪さんはそう言って、廊下を向こうの先までじっと見た。
もちろん、そこに永野公貴くんの姿はなかった。

時刻は午前9時58分。
本来だったら公貴くん、もう来てるはずの時間…なのに。


『あ…公貴くん、もしかしてもう、4階うえのトレーニングルームに居るんじゃない?かなぁ…』


みかなちゃんが一言そう言うと、全員が地を這うような低い声で『あー』って言って…全員で笑った。
たぶん、僕らが控え室でお喋りしてた時に、廊下に陽凪さんの姿がないのを見て、公貴くんは一人で4階の《レッスンフロア》へ行ったのかもしれない。

僕らは小走りでエレベーターの扉の前へと急ぎ、陽凪さんがエレベーターの上昇ボタンを押した。


『じゃあ、4階に行くのは…私と雅季くんと、みかなちゃんと詩織ちゃんと信吾く…』
『おーい、ちょ…ちょっと待ってくれー』


…ん?
声のする方を振り向くと、ベテラン俳優でタレント指導教育部部長の浅見丈彦さんも、こちらへと小走りで駆け寄ってくる姿があった。


『詩織ちゃんも、みかなちゃんも演技トレーニング観に行くんだろう?じゃあ僕もご一緒していいかな』

『もちろんです。一緒に行きましょ』


陽凪さんは笑顔で快く、浅見丈彦さんも迎え入れた。


『じゃあ行こう』





っせーよ。なぁ、陽凪さん』


4階のレッスンフロア。その一番奥に《トレーニングルーム A-1》がある。
陽凪さんがトレーニングルームの扉をガチャリと開けると…公貴くんは駄々っ広い室内のど真ん中に、腕を組んで仁王立ちで立っていた。

そして陽凪さんに続いて、僕ら全員が室内に入った。


『ごっめーん。公貴くん』

『ってか…今日は見物御一行様かよ』


公貴くんは…ゆっくりと詩織を見た。


『それと…はーぁ。そうか…結局詩織も観に来たのかよ』


詩織は少し不貞腐れした表情で、それに言い返そうとした。


『うん…だって陽凪さんのお誘いを、これ以上断るのも悪…』
『私が誘ったんだ!今回は』


木橋みかなちゃんが、にっこりと笑って公貴くんにそう言って返した。


『みかな、お前かよ…まぁいいわ。別にそんなのどうでも…』

『俺も参加していいか?演技トレーニング』


雅季さんが歩み寄り、右腕を真っ直ぐ伸ばして公貴くんを指差した。


『久しぶりに俺と勝負してみるか?公貴。演技力勝負』

『アニキ…』


公貴くんは腕を組んでニヤリと笑い出した。


『いいぜアニキ。やってやるわ。勝負すっぞ!』

『待って!私も参加させて。それと…二人には悪いけど、勝たせてもらうから。この演技力勝負』


陽凪さんが公貴くんと雅季さんの間に割って入って、二人の顔をチラチラと見て…そして二人の頬をペチンと同時に叩いた。


『(痛)ってぇなー。陽凪さん』

『痛いわけないでしょ。軽くやったんだから。じゃあ始めるわよ!』


陽凪さんと雅季さんと公貴くん…。
三人がそれぞれの顔を見合って、三人ともニヤリと笑った。






















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