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G.F. - 夢追娘編 -

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…それからが大変だった。

西村プロデューサーが一旦、廊下に出て『入ってくれ!』と一言言うと、振り袖を手に下げた女の人たちと、10人ほどの女の人たちがレッスンルームへとなだれ込むようにどっと入ってきて、それと同時に僕と西村プロデューサーはレッスンルームから追い出された。



廊下にはピプレの各メンバーを担当するメイクさん、それとヘアメイクさんが立って待機していた。

そこに居る誰も彼もが、緊張したような引き攣った表情を見せていた…。



芸能事務所Kira♠︎m…って、いったいどういう芸能事務所なんだ…。
こんな酷いことをするなんて…。



そして、しばらくして…。


『明日佳ちゃんの担当さん、早く入って!』

『はい!』
『入ります!』


レッスンルームに2人の女の人が入っていく。


『海音ちゃんも着替えできました!』

『はい!入ります!』
『失礼します!』


さっきまでの和やかな雰囲気は何処へ…。
レッスンルームはもう、まるで被災地の救護室のような、混乱に似た慌てようだった…。


『詩織ちゃんは!?詩織ちゃんの担当さんは!?』

『はっ、はい!メイクは僕です!』

『髪は!?誰…いないの!?』


…えっ?ヘアメイク…?
いないよ…詩織のヘアメイクさん…。

僕は一瞬…頭ん中が真っ白になり掛けた…。


『わ、私がやります!中原優羽のヘアメイク担当です!』

『えっ?あ、じゃあやって!お願い!』

『はい!』







…詩織、優羽ちゃん、千景ちゃんが乗ったマイクロバス。もちろん担当スタッフも同乗。
向かうは赤坂某所のテレビ局。

そのマイクロバスの中で、僕は優羽ちゃんのヘアメイク担当のお姉さんに、深々とお礼を言った。


『ありがとうございました…』

『…うぅん。全然気にしないで。同じ芸能事務所に契約してるスタッフなんだから』


はい…でも。本当に助かりました。

そして、これからのことが心配になった。
詩織のヘアメイクか…考えてなかったな…。

もうアンナさんに頼るのも…難しいし…。
どうしよう…これからどうなるんだろう…。



優羽ちゃんを担当するヘアメイクさんから『君、男の子なのにメイクできるなんて、凄いね!』って、いつもの褒め言葉をもらったそのあとに…。


『今度っていうか早いうちに、人事の池田さんに頼んでおいたほうがいいよ。詩織ちゃんを担当するヘアメイクさんをお願いします…って』


おっしゃるとおりです…。







結局…詩織たち3人は、遅刻することなくリハーサルに参加できた。他の芸能事務所から来たアイドルの子たちも、その殆どが遅刻しなかったけど、とある1組のアイドルグループが17分遅刻したらしく、生放送開始から17分間…番組参加を控えさせられてた…可哀想に。

それでも可愛い女の子たち…振り袖を着た、其々それぞれ各所のアイドル事務所から来た31人ものアイドルの女の子たちが揃うと、それはそれは派手だし…豪華だし…賑やかだった。

生放送の番組は…司会や出演をするお笑い芸人さんたちと、アイドルの子たちとのお笑い共演や、アイドルの女の子たちの歌の披露、大きなカルタや羽つきなどのスポーツゲーム、新春学力テストなどで大いに盛り上がり、生放送番組は終わった。







『…ふぅ。終わったね』


控え室へと戻り、3人が椅子に落ち着くと…詩織が笑顔で息をついた。


『でも…いつも依枯贔屓えこひいきだよね!Kira♠︎mのアイドルグループにだけは…ほんっとムカつくぅ!』


優羽ちゃんはそう言って、可愛く怒っていた。


階段状になった、芸能タレントたちが並んで立つ立ち台…つまり《雛壇》。
雛壇の最前列は横一列、そしてその上の段も一列…全員が《Kira♠︎m》所属のアイドルだった。

つまりは…《きらむメンバー》に、テレビ映りのいいところを全部丸取りされていた…。


『私たちはあんまり目立たない、左端の上から2段目だったし…』


コンコンコン!大きな音で控え室の扉がノックされた。


『あ、はーい』


詩織が立ち上がり、ゆっくりと扉を開けようとした…。
すると、扉はガバッと荒く無理やり開けられた。


『ねぇ!ちょっと!』

『…えっ?』


そこにいたのは…あのKira♠︎mに所属するアイドルグループ《HoneyMaids》のリーダーの藤川舞里ふじかわまりさんと、メンバーの高井芹奈たかいせりなさんだった…?

藤川さんと高井さんはこの控え室に入ると、今度はゆっくりと扉を閉めた。
詩織たちもだけど…この二人も衣装の振袖は、まだ着たままだった。


『あの…なにか…』

『あの、なにか?じゃないっての!』

『えっ…?』


キツい言葉で詩織を牽制する藤川さん。


『あなたさぁ…岡本…何ちゃんだっけ?』

『…あっ、私…岡本詩織です』


これは僕でも解る…ヤバい状況!
だから僕も慌てて立ちあがった。


『あの!詩織に何か不都合があったのなら…』

『関係ない人は黙って見てて下さーい』
『…ってか、この男の子は何なの!?ただの岡本ちゃんのファン?じゃないよね…?』


そう言って、僕を見てニヤリと笑って見せる藤川さんと高井さん…。

優羽ちゃんも千景ちゃんも…やっぱり少し怖いのか、視線を足元へと落として…黙ってこの状況に耐えている…。


『信吾。私なら大丈夫だから…ね』


詩織は僕を見て、小さくウンと頷いて見せてくれた。


『なーにが大丈夫なのよ…』
『アハハハ。ウケるー』


…何しに来たんだよ…この二人…。























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