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G.F. - 再始動編 -
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…歩美さんの運転する車が、そろそろ《美波緑川JCT》に近づいてきた頃…。
どの辺りからか僕と歩美さんは少し黙って、僕らの会話は止まりかけていた。
最初はちゃんと姿勢正しく座って、ごく普通に運転していた歩美さん。
だけど、今は…。
ハンドルを握っていた両手は、握り拳がまるで猫の手みたいに丸くなって、ハンドルの上に揃えてちょこんと乗っている。
そして、さっきからちょっと猫背になって…なんだか少し気恥ずかしそうな表情で、ずーっと何か独り言を小さく呟きながら運転している。
『あの…歩美お姉ちゃん。ちゃんとハンドル握って座って、安全運転…』
…って言っても、僕への返事は何もない。
『あ…あと美波緑川JCTは、右へのカーブの途中にいきなり現れるから、気をつけてね』
『えっ?あ…はい。ごめん。集中集中…』
ようやく背をピンと伸ばして座り直し、正しい運転姿勢へと戻った歩美さん。
僕は左前を見た。
今すれ違った標識には《美波緑川/出口1km》との表示。
滑るように左車線に入り、ぐるっと左回りに大きく回って、ETCゲートをゆっくりと出た歩美さんの車。
ここからは、僕のナビゲートの出番。
交差点で赤信号で止まったタイミングで、僕は『歩美お姉ちゃん、ここ左だよ』って伝えた。
『はい。了解』
左折して県道に沿って進んでゆくと、そこは田舎の集落らしい住宅風景。
日本家屋と、田んぼや畑の農地とが、交互に現れまた過ぎてゆく…。
『次、あの信号のない交差点を右』
『うん。右ね』
道路が急に狭くなる…目の前には、道の両脇に背が高くて幹の太い、立派な大杉林がとても奥ゆかしく並ぶ並木道。
そして、岸鉾神社まであと200mくらい…って頃になって、この辺りでは滅多に見ない《違和感》に、ようやく僕は気付いた。
『お姉ちゃん…なんか、女の子…多くない?』
『えっ?そうかな』
『しかも、女の子がみんなお洒落…なんだか瀬ヶ池の女の子たちっぽい…』
狭い道に、車はそろりそろりと減速しながら、僕と歩美さんはキョロキョロと周りを見回す。
目の前に立つ女の子たち…それを追い越すたびに、女の子たちの誰もが振り返って、僕らの乗る車を振り返り見た。
『こんなもんなんじゃないの?いつも』
『違うよ。それは歩美お姉ちゃんが、東京とか藤浦の街並みに慣れちゃってるから、そう見えるんだと思うよ』
『そうかなぁ…じゃなくて、初詣に来たんでしょ?この女の子たちも』
そうだとしても、それはなんか変だ。
確かに岸鉾神社は、地元では有名な由緒ある神社。
だけど有名って言っても、それはあくまで《地元では》って話のレベル。
だから例年の初詣でも付近に住む人たちとか、中高生とかが来るぐらいで、こんなにたくさんのお洒落な女の子たちが初詣に来たことなんて、一度も見たことも聞いたこともない。
『けど、この子たち…何処から来てるの?もしかしてこの近くに…』
『うん。そうだよ。さっき通り越したんだけど《野見山駅》っていう駅が近くにあるから。そこからだと思う』
野見山駅は列車だけじゃなくて、バスの停留所もあるし。
『歩美お姉ちゃん、ほら。見えてきたよ。岸鉾神社の駐車場』
『あ、だね。よし。じゃあ…どこに停めようかなー…』
岸鉾神社の広い駐車場のほぼ真ん中辺りに、白線に従って歩美さんは車を真っ直ぐに、きっちりと綺麗に停めた。
『じゃあ降りよっか。待ってて』
歩美さんは実家を出たときのように、車をぐるりと回ってドアを開けて、助手席に座る僕を降ろしてくれた。
僕が車から降りた瞬間から、パラパラと響く拍手とともに、たくさんの女の子たちのキャーキャーと騒がしい甲高い声援が、この午前7時51分の駐車場を包み込んだ。
そして僕は、改めて落ち着いてぐるりと駐車場を見渡す。
やっぱりお洒落な女の子たちだらけだ…。
まるで…詩織と2人で《おばタク》から降車してた、あの頃の新井早瀬駅の駅前みたい…。
「可愛いー」
「金魚ちゃーん」
「こっちも見てー」
…もういいよ。そういうの。有り難いことだけど。
『秋良さんの車も、啓介さんもアンナさんも鈴ちゃんも、まだ来てないね』
『うん…』
ってか、どこからこの情報が漏れた?なんで知ってんの?この女の子たち…。
僕らが今日、午前8時にこの神社の駐車場で集合って…。
この岸鉾神社で初詣するって…。
『はぁぁ…やっぱり朝は寒いね…ふぅ』
歩美さんは両手を握って寒そうな仕草を見せながら、それでも時折り女の子たちに、可愛らしい笑顔で悪戯っぽく小さく手を振ってみせた。
「キャー♪可愛いー♪」
「金魚ちゃんのお姉ちゃーん!」
「こっちにも手ぇ振ってー」
「こっち見てー」
詩織ほどじゃないけど、歩美さんも女の子たちのリクエストに応えて、振り返って手を振って、ちょっとそれを楽しんでた。
どの辺りからか僕と歩美さんは少し黙って、僕らの会話は止まりかけていた。
最初はちゃんと姿勢正しく座って、ごく普通に運転していた歩美さん。
だけど、今は…。
ハンドルを握っていた両手は、握り拳がまるで猫の手みたいに丸くなって、ハンドルの上に揃えてちょこんと乗っている。
そして、さっきからちょっと猫背になって…なんだか少し気恥ずかしそうな表情で、ずーっと何か独り言を小さく呟きながら運転している。
『あの…歩美お姉ちゃん。ちゃんとハンドル握って座って、安全運転…』
…って言っても、僕への返事は何もない。
『あ…あと美波緑川JCTは、右へのカーブの途中にいきなり現れるから、気をつけてね』
『えっ?あ…はい。ごめん。集中集中…』
ようやく背をピンと伸ばして座り直し、正しい運転姿勢へと戻った歩美さん。
僕は左前を見た。
今すれ違った標識には《美波緑川/出口1km》との表示。
滑るように左車線に入り、ぐるっと左回りに大きく回って、ETCゲートをゆっくりと出た歩美さんの車。
ここからは、僕のナビゲートの出番。
交差点で赤信号で止まったタイミングで、僕は『歩美お姉ちゃん、ここ左だよ』って伝えた。
『はい。了解』
左折して県道に沿って進んでゆくと、そこは田舎の集落らしい住宅風景。
日本家屋と、田んぼや畑の農地とが、交互に現れまた過ぎてゆく…。
『次、あの信号のない交差点を右』
『うん。右ね』
道路が急に狭くなる…目の前には、道の両脇に背が高くて幹の太い、立派な大杉林がとても奥ゆかしく並ぶ並木道。
そして、岸鉾神社まであと200mくらい…って頃になって、この辺りでは滅多に見ない《違和感》に、ようやく僕は気付いた。
『お姉ちゃん…なんか、女の子…多くない?』
『えっ?そうかな』
『しかも、女の子がみんなお洒落…なんだか瀬ヶ池の女の子たちっぽい…』
狭い道に、車はそろりそろりと減速しながら、僕と歩美さんはキョロキョロと周りを見回す。
目の前に立つ女の子たち…それを追い越すたびに、女の子たちの誰もが振り返って、僕らの乗る車を振り返り見た。
『こんなもんなんじゃないの?いつも』
『違うよ。それは歩美お姉ちゃんが、東京とか藤浦の街並みに慣れちゃってるから、そう見えるんだと思うよ』
『そうかなぁ…じゃなくて、初詣に来たんでしょ?この女の子たちも』
そうだとしても、それはなんか変だ。
確かに岸鉾神社は、地元では有名な由緒ある神社。
だけど有名って言っても、それはあくまで《地元では》って話のレベル。
だから例年の初詣でも付近に住む人たちとか、中高生とかが来るぐらいで、こんなにたくさんのお洒落な女の子たちが初詣に来たことなんて、一度も見たことも聞いたこともない。
『けど、この子たち…何処から来てるの?もしかしてこの近くに…』
『うん。そうだよ。さっき通り越したんだけど《野見山駅》っていう駅が近くにあるから。そこからだと思う』
野見山駅は列車だけじゃなくて、バスの停留所もあるし。
『歩美お姉ちゃん、ほら。見えてきたよ。岸鉾神社の駐車場』
『あ、だね。よし。じゃあ…どこに停めようかなー…』
岸鉾神社の広い駐車場のほぼ真ん中辺りに、白線に従って歩美さんは車を真っ直ぐに、きっちりと綺麗に停めた。
『じゃあ降りよっか。待ってて』
歩美さんは実家を出たときのように、車をぐるりと回ってドアを開けて、助手席に座る僕を降ろしてくれた。
僕が車から降りた瞬間から、パラパラと響く拍手とともに、たくさんの女の子たちのキャーキャーと騒がしい甲高い声援が、この午前7時51分の駐車場を包み込んだ。
そして僕は、改めて落ち着いてぐるりと駐車場を見渡す。
やっぱりお洒落な女の子たちだらけだ…。
まるで…詩織と2人で《おばタク》から降車してた、あの頃の新井早瀬駅の駅前みたい…。
「可愛いー」
「金魚ちゃーん」
「こっちも見てー」
…もういいよ。そういうの。有り難いことだけど。
『秋良さんの車も、啓介さんもアンナさんも鈴ちゃんも、まだ来てないね』
『うん…』
ってか、どこからこの情報が漏れた?なんで知ってんの?この女の子たち…。
僕らが今日、午前8時にこの神社の駐車場で集合って…。
この岸鉾神社で初詣するって…。
『はぁぁ…やっぱり朝は寒いね…ふぅ』
歩美さんは両手を握って寒そうな仕草を見せながら、それでも時折り女の子たちに、可愛らしい笑顔で悪戯っぽく小さく手を振ってみせた。
「キャー♪可愛いー♪」
「金魚ちゃんのお姉ちゃーん!」
「こっちにも手ぇ振ってー」
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詩織ほどじゃないけど、歩美さんも女の子たちのリクエストに応えて、振り返って手を振って、ちょっとそれを楽しんでた。
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