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G.F. - 再始動編 -

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アイドルは、ステージの上では可愛らしくキラキラと輝くもの。
確かに、ピプレのメンバー全員が、眩しくキラキラと輝いて見えた。

…この歌《適当キューピッドとロケットランチャー》は、うん。
やっぱり《感動する》とか《優しい》とかっていうより《楽しい》《面白い》歌だったけど。

歌が終わって、メンバーは『はあ…。ちょっと疲れたね』『やっぱり楽しいけど、この曲ちょっと激しいから、疲れちゃいますよねー』って…『うん。でも遂に…この時が来たね!』って、詩織登場の場面への繋ぎのトークを始めた。


『皆さーん!ここで!私たちからの大っ発表が…ありまーす!』


海音さんがまたメンバーより一歩前に出て、そう言って右手を上げた。


『私たちに、新しい仲間が…増えましたー!』


池田さんが僕の肩を叩いた。


『おぉ!遂に登場するぞ!詩織ちゃんが!』

『はい!』


その大発表に、観衆たちはザワザワし…てなかったな。あんまり。
『え?誰?』って言ってくれてた人もいたけど。


『…では、ステージに登場してもらいましょう!ピプレの新メンバー…岡本詩織ちゃんでーす!』

ステージの袖の階段を、詩織がゆっくりと上がっていく。
詩織だけは、メンバーたちと同じ紅白のサンタの衣装じゃなくて、真っ白なサンタの衣装だった。
衣装のところどころにラメが織り込んであるのか、歩いたり動くたびに、衣装がキラキラと輝いた。


『皆さん!初めましてー』


詩織がステージの真ん中…海音さんの隣に立ち、観衆の皆さんに愛嬌よく、元気に右手を振る。


『上から観てくださってる皆さんも、こんにちはー。初めましてー』


この特設ステージが、歓声と拍手で包まれた。


『可愛いー!』


…ん?僕の後ろの方から、お兄さんらしき人のちょっと低めの声の歓声。
詩織が可愛いとか?…って当たり前じゃん!なんて僕は心の中で思いながら、ちょっと嬉しく思った。


『皆さん、温かいご声援、ありがとうございまーす』


振っていた右手を下すと、詩織は海音さんと見合った。


『じゃあ詩織ちゃん。元気に!可愛く!自己紹介しちゃってくださーい!』

『はーい』


スーッと、観衆が少しずつ静かになっていく。
池田さんも両手の拳を握って、詩織だけを見て目を輝かせている…。

さぁ。頑張ろう詩織。
落ち着いて…。


『美波県出身、血液型A型の20歳。岡本詩織です』


詩織の落ち着いた声が館内に響く。


「ねぇ…待って!あの子、あの有名な子じゃない!?」

「有名って何のこと?」


ん?どこからか、会話する女の子の声が…?


「ネットの情報でよく見てた、美波県の藤浦市で金魚って子といつも一緒にいて、どっちも可愛いってので有名になってたあの子だって!」

「うそっ!?でもそれ、ただの他人のそら似じゃないの?」


僕は声のする方…左方の2mくらい離れた先にいる、3人が一緒にいる女の子たちを見た…間違いない。今の会話をしてたのは彼女達だ。


「違うって!だってあの子も確か、名前が詩織ちゃんって書いてあったもん!」


そう言って、3人のうちの一人の女の子が、ステージ上の詩織を小さく指差した。
それも運が悪いことに…詩織、観衆を見渡しながら話していたその絶妙なタイミングで、自信を指差されたそれを見付けてしまったんだろう。

ピクリとも動かなくなってしまった詩織の言葉は…途端に止まってしまった。
特設ステージの会場が、しばらく沈黙状態に…。


「あぁ…思い出した!確かにあの子、その子だ!」


僕はその女の子たちから、詩織へと視線を戻す。


『あの…えっと…』


ヤバいヤバい…。頑張れ!詩織!
隣に立つ池田さんも、不安そうに詩織を見ている。


『…その…』


でも…考えてみればそうだ!
東京都内の女の子たちが、金魚や詩織のことを知っていたとしても、何ら変なことじゃない!

だって歩美さん…筒井歩美さんが渋谷駅前のアイスクリーム店でアルバイトしていたときに『…最近、藤浦市に遊びに行ってない?』って…確か…同じバイトの子とかお客の女の子に指摘されたとかって…それで藤浦市へ来るようになって…って、そんな前例があるんだから。


『…わ、私は芸能界とか初めてだし…新人でこのグループに入ったのに、メンバーの中ではもう2番目に歳上だし…』


僕は頭の中のごちゃごちゃから意識が戻り、ハッとしてまた詩織を見た。
詩織は、ぎこちない笑顔を見せながら、それでも頑張ろうとしてた。


『…けど、みんなすぐ仲良くしてくれたし、私より歳下の子たちは私を優しく慕ってくれるし、みんな明るくて楽しいし。だから私…このメンバー全員が、本当に本当に…大好きです』


































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