G.F. -ゴールドフイッシュ-

木乃伊(元 ISAM-t)

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G.F. - 再始動編 -

page.523

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鈴ちゃんの、今までのそれを聞いていた僕が『ふぅむ…なるほど…』と納得している様子を見せると…。


『でも聞いて、信吾くん』

『えっ…うん』


鈴ちゃんは真剣な眼差しで僕を見た。


『私が最初に《女優の世界は厳しいみたいだから》って言ったのは、子役経験があるとか無いとか、そういうことじゃないの』

『…って言うと…?』


鈴ちゃんは小さく頷いた。


『…もっと根本的な問題』


もっと根本的な問題…?


『芸能界…その中でも特に女優俳優業には、各芸能事務所のあいだの勢力関係とか、ちょっとした権力争いみたいなのがあって…!』

『?』


…なに?
丸椅子に座っていた鈴ちゃんが驚いたように、慌てて後ろを振り向いて立ち上がった…?
僕もそちらをふと見ると…そこには《Peace prayer》のプロデューサー、西村隆浩さんが立っていた。


『久しぶりだね。鈴ちゃん…』

『西村さん、お久しぶりです…』


ちょうどそのタイミングで、詩織たち《Peace prayer》のメンバーが、また休憩をとるところだった。


『鈴ちゃん…今、何の話をしてたのかな…』

『えっ?いえ…別に…』


『鈴ちゃーん、信吾も。これ飲む?』


詩織が僕らの方へと、紙パックのフルーツジュースを二つ持って駆けて来てくれた。


『あ、うん。ありがとう詩織ちゃん』
『ありがとう。詩織』

『?』


詩織が西村プロデューサーの顔をふと見た。


『まぁ…ゆっくりしていって。鈴ちゃん』


西村プロデューサーはそう言うと『和田先生。ちょっと…』と言いながら、僕らの元から離れていった。


『…どうしたの?』


詩織は心配そうに、鈴ちゃんと僕を見た。


『なんか、西村プロデューサー…ちょっと怖い雰囲気あったけど』

『うぅん。何もないから』


鈴ちゃんは詩織に優しく笑ってみせた。


『それより、そろそろ私行こうかな』

『鈴ちゃん、帰っちゃうの?』


詩織が寂しそうな表情をする。


『うん。ちょっと長居しちゃったし、帰りは事務所に寄ってって、冴嶋社長にも呼ばれてたから』

『そうなんだ…じゃあ、気をつけてね』


詩織と鈴ちゃんが手を振り合う。


『海音ちゃんとメンバーのみんな、週末のライブ頑張ってね。フルーツジュースありがとう』


鈴ちゃんが向こうのメンバー達にも手を振る。
もちろん、メンバーのみんなも鈴ちゃんに手を振って返す。


『来てくれて嬉しかったー。鈴ちゃん、またねー!』

『鈴さん先輩、また来てください』
『今度はケーキも用意しておきますね』


そして鈴ちゃんは、最後に僕を見た。


『信吾くんも、自動車学校頑張ってね』

『あ、うん!ありがとう…』


鈴ちゃんはもう一度手を振って、レッスンルームを出ていった…パタン。
僕は少しぼーっとして、鈴ちゃんの出ていった部屋の閉まったドアを見ていた。

…子役経験の有無なんかよりも、根本的な問題…各芸能事務所のあいだの勢力関係…権力争いみたいな…?
それが理由で、もし詩織が女優を目指したいと思っていても、そもそも厳しいというか…それは難しい?

聞けるならもう少し、その話を詳しく聞きたかった…。


『…ねぇ。飲まないの?』

『えっ?』


僕はまた振り返って、詩織を見た。


『それ…本当にフルーツジュースだと思ってる?実は野菜ジュースじゃない?って…疑ったりしないの?』


えっ?…はぁ。またか。
詩織がまた、何かを期待するような顔で僕を見てる…。


『野菜ジュースなわけないじゃん。だってパッケージはちゃんと、フルーツジュースなんだから…』


僕は紙パックに張り付いているストローを剥がして刺し、ゆっくりと一口吸って味を確かめた…。

…あ。やっぱりちゃんとフルーツジュースだった。


『美味ちぃ?味はどぉだった?きゃははは。信吾って本当に面白いよねー♪』


…。

一瞬、ちょっとイライラしたけど…詩織のこんな無邪気な笑顔を見せられたら…。

とても楽しそうに笑ってる詩織。こんな小さなことで、こんなに幸せそうに楽しそうに笑ってるんだから…まぁ、いいかってなる。
逆に、詩織のこの無邪気な笑顔がずっと続いてほしい…って、強く願ってしまうぐらい。







そして、今日は12月最後の日曜日…つまり《Peace prayer》のライブステージの日。
それと詩織が『来年から正式に新加入メンバーとして活動します』と、アイドルデビューを発表する日。

…ところで、その会場はどこ?ってことだけど…ここは都内某所にある大型ショッピングモール。
その広い館内の中央のアトリウムと云われる、館内公開空地に据え付けられた真白い特設ステージ。

このステージで《Peace prayer》は、今日は2回…午前11時からと午後1時30分。午前午後ともにそれぞれ40分間のステージパフォーマンスを行うことになっている。























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