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G.F. - 再始動編 -

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「おかえりなさい」

「ああ。ただいま。信吾は?」

「2階よ」

「昼はちゃんと食べたのか?」

「えぇ。冷蔵庫に入れておいたご飯と、用意しておいたカップラーメンも食べたみたいだから」


…って話す父さんと母さんの様子をふと想像しながら、僕は少し慌てるようにクレンジングを始めてメイクを落とす。
そしてまた、アンナさんの美容院《クローシュ・ドレ》で母さんが僕のことを話したことを思い出し、少しいきどおりを感じた…プンプン。

テーブルの上の鏡に映る自分を見ながら考える…最後に詩織と今日までのことを振り返って、この回想を終わらせよう…。







12月の第3水曜日。時刻は午前10時11分。そしてここは堀内芸能事務所ビル内のレッスングルーム。
詩織は4日後に都内某所で開催される《Peace Prayerのクリスマスステージライブ》へ向けて、メンバー全員で練習していた。

詩織はこのステージライブで、新メンバー加入の発表にあわせてご挨拶をする予定。ライブのスタートからそれまでにメンバーはステージで3曲歌い、詩織がステージに登場し、全員で最後の1曲…7ヶ月振りの新曲を歌う予定だとか。


『詩織ちゃん、そもそも練習する時間が無かったんだから、間違ってもいいんだからね。大丈夫だから』


リーダーの浅倉海音さんは、詩織にそう優しく言ってくれていた。けど、詩織はインストラクターの和田先生やプロデューサーの西村隆浩からは『歌を覚えるのも、歌の振り付けを覚えるのも、飲み込みが早くて凄い』って言われて褒められていた。

実際、1曲だけだけどほぼ完全に習得してるって感じ。
月曜日と昨日の火曜日は、たまに歌や振り付けを間違える様子があったけど、今日はまだ一度も間違えていない。



詩織が歌う歌の曲名は《Merry sweet love story》。
運命的に出逢うクリスマス・イブの二人の夜をイメージした優しい曲。

素敵な男の子との恋を夢見る女の子が、その願いを込めて作った小さな雪だるま。それが夕方になると魔法のように、理想の男の子となって主人公の女の子と出逢い、夜の華やかなクリスマスイルミネーションで溢れる街へと誘う。

二人で入った…はずのレストラン。気づくとレストランにいるのは女の子ひとり。そこにやってきた若いウェイター。女の子はそのウェイターを見てハッとする…さっき私を街へ誘ってくれたの男の子だ!…って。

女の子は、そんな夢のような話をウェイターに一生懸命に話して…いるうちに、いつのまにかそのウェイターの彼と親しくなっていて…。



うん。いかにも女の子が好きそうなロマンティックな曲だ。しかも曲調が少しカッコいい。



詩織は歌わないけど、先にメンバーが歌う他の3曲って、どんな曲があるんだろう。
僕はレッスンルーム内のホワイトボードをちらっと見た。

《恋色ガール》《little lavender garden》《適当キューピッドとロケットランチャー》…ん?

…えっ?は??

僕は目をこすって、もう一度ホワイトボードを見…うーん。
なんか1つだけ変っていうか、凄いインパクトある曲名があるんですけど…。


『でも、とっても面白い曲なんですよ。《適当キューピッドとロケットランチャー》って』


一旦練習を終えて休憩に入ったメンバーたち。その一人の中原優羽ちゃんが、僕に笑って話し掛けてくれた。
すると、メンバーの最年少の小林千景ちゃんも会話に参入して…。


『恋愛感情のない女の子が、教会の前で恋の天使と出会うんです。そして恋愛というものをあれこれ教わるんですけど…やっぱり恋愛に興味なし』


…ふむふむ。


『それに怒った天使が、持ってた恋の弓矢を投げ捨ててロケットランチャーを街に乱射。街のあちこちで破裂してたくさんの男子のハートに命中。彼女は街で一番のモテ女子になって、街中まちじゅうの男子に好かれて追われることに…っていう、ちょっと楽しい恋愛ソングなんです』


ふぅむ…へぇ。なるほど…全然理解できない。
これってつまり、ジョーク恋愛ソングってこと?そして歌のラストも全然想像できない…。

うん。けど歌のインパクトだけは十分なことは解った。
こんなインパクトだらけの変な歌を、詩織が歌うことにならなくて、本当に良かった良かったと少し安心。
























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