38 / 158
G.F. - 再始動編 -
page.517
しおりを挟む
《ドアが閉まります。ご注意ください》
昇降室が静かに動き出す。
僕に聴かれたくない、皐月理事長と冴嶋社長の二人だけの会話をしたかったんだろう。
…とは言っても、社長室には秘書の朱莉さんも居たけど。
でも、冴嶋社長には申し訳ないけれど、冴嶋社長は僕を退室させるのが少し遅かった。
もう少し早く判断できて退出させるべきだった。
《詩織はアイドルじゃなく、女優にさせるべき》という、タレント養成スクールの皐月理事長が判断された言葉を、僕は聞いてしまったんだから。
冴嶋社長にとって、それは予想外の出来事だったんだろう。
だって始めはにこにこ顔で《養成スクールからのアイドルとしての詩織の適正評価を聞いてみましょう》って。それで《アイドルとして優良だって。素質があるということね!良かったわね!》のところで、冴嶋社長はこの話を終わりにしたかったはずだ…。
《2階です。ドアが開きます》
さっきのことを考え、物思いに耽っていた僕…周りが全然見えていなかったが、無意識にも昇降室から廊下に出て誰かとぶつかることもなく、その奥の事務所隣の小さな控え室のドアのところへゆっくりと行き、それを開けて中に入った…。
あ、そういえば…!
皐月理事長は、大槻専務取締役のことも知ってる感じだった。
しかも下の名前…和将くんって呼んでた…。
皐月理事長と、この芸能事務所…どういう関係があるんだろう…。
…あれから20分くらい、事務所隣の控え室で待ってたけど…冴嶋社長はまだ来ない。
その控え室の入り口のドアも、ぴくりとも動か…!
《コンコンコン♪》
『あ、はい』
「岩塚信吾さん。社長秘書の津田です。入りますが宜しいですか?」
『はい。どうぞ』
ドアが開き、秘書の朱莉さんが控え室の中へ。
『社長がお待たせしていて、本当にごめんなさい』
朱莉さんが小さく頭を下げる。
『あ、いえ。僕のことは全然気にしないでください』
そして頭を上げて、体勢を戻した朱莉さん。
『社長は午後0時30分より取引先のとある会長様との、大切なお昼の会食の予定があるため、この控え室には来ません』
僕は控え室の壁掛け時計を見た…午前11時47分。
『そうなんですね。わざわざありがとうございます』
『…では。失礼します』
朱莉さんはもう一度軽く会釈をして、振り返ってドアを開けようとドアノブに触れた。
『あっ!あの…朱莉さん!』
朱莉さんの動きが一瞬、ぴたりと止まった…!?
そしてドアノブに触れた手を放して、また振り返って僕を見た。
『はい…なんでしょうか…』
『朱莉さん、僕が社長室から退室したあとも、まだ社長室にいましたよね…?』
『いました…けど、そのあとの社長と理事長さまとの会話の内容については、私は何もお話しすることはできません』
…うん。だろうね…解ってた。
無理だと解ってたんだけど…それでも一度そう訊きたかったんだ。
『…では。改めまして失礼致します』
ドアは優しく、静かにパタンと閉まった。
控え室に、独りぽつんと残された僕…お腹空いたな。
僕もこのビルから出て、近くのファミレスにでも入って簡単にランチを済ませよう…。
お昼が済んだら、また詩織のところに戻らないと…。
…12月30日の午前の回想は、とりあえずここまで。
時刻は午後0時16分…現実でも本当にお腹が空いた。
1階に下りてキッチンへ行って、母さんが用意してくれたご飯を冷蔵庫から出して、レンジで温めて食べよう…。
一人お昼ご飯のあとは、食器を洗って部屋に戻って、スマホに届いた詩織からのLINEに返信しといて…あとはYouTubeとかネットニュースとかを観てゆっくりしてた。
1階の玄関扉からガチャガチャする音…そしてガラガラと扉が開く音が家中に響いた。
「ただいまー。信ちゃーん」
「信吾くーん。美味しいケーキ買ってきたよー」
…あ。
母さんと小林先生が帰ってきた。時刻は午後2時45分。
美味しいケーキ?…急ごう!
僕は少し慌てたように自分の部屋を出て、階段を下りて行く。
『おかえりなさーい』
一瞬驚いた顔をして、改めてニコッと笑った母さん。
対して小林先生は…。
『えっ?なっ…あなた、誰!?』
えっ、先生?誰って…僕ですけど?信吾……あ!
うわあぁぁぁーっ!!しまったあぁぁー!!
ああぁぁあぁぁあぁぁあぁーっ!!!
僕は自分の髪を掻き乱し、ハッとしてまた髪を整えて…両手で顔を隠した…ところでもう遅いけど。
…つ、遂に先生にまでも、僕の女装顔を見られてしまった…あぁ。
『なっ、なんて信吾くんって大胆なの!!誰もいなくなったからって、こんな可愛い女の子を家に連れ込んでたなんて…!』
……違います。
昇降室が静かに動き出す。
僕に聴かれたくない、皐月理事長と冴嶋社長の二人だけの会話をしたかったんだろう。
…とは言っても、社長室には秘書の朱莉さんも居たけど。
でも、冴嶋社長には申し訳ないけれど、冴嶋社長は僕を退室させるのが少し遅かった。
もう少し早く判断できて退出させるべきだった。
《詩織はアイドルじゃなく、女優にさせるべき》という、タレント養成スクールの皐月理事長が判断された言葉を、僕は聞いてしまったんだから。
冴嶋社長にとって、それは予想外の出来事だったんだろう。
だって始めはにこにこ顔で《養成スクールからのアイドルとしての詩織の適正評価を聞いてみましょう》って。それで《アイドルとして優良だって。素質があるということね!良かったわね!》のところで、冴嶋社長はこの話を終わりにしたかったはずだ…。
《2階です。ドアが開きます》
さっきのことを考え、物思いに耽っていた僕…周りが全然見えていなかったが、無意識にも昇降室から廊下に出て誰かとぶつかることもなく、その奥の事務所隣の小さな控え室のドアのところへゆっくりと行き、それを開けて中に入った…。
あ、そういえば…!
皐月理事長は、大槻専務取締役のことも知ってる感じだった。
しかも下の名前…和将くんって呼んでた…。
皐月理事長と、この芸能事務所…どういう関係があるんだろう…。
…あれから20分くらい、事務所隣の控え室で待ってたけど…冴嶋社長はまだ来ない。
その控え室の入り口のドアも、ぴくりとも動か…!
《コンコンコン♪》
『あ、はい』
「岩塚信吾さん。社長秘書の津田です。入りますが宜しいですか?」
『はい。どうぞ』
ドアが開き、秘書の朱莉さんが控え室の中へ。
『社長がお待たせしていて、本当にごめんなさい』
朱莉さんが小さく頭を下げる。
『あ、いえ。僕のことは全然気にしないでください』
そして頭を上げて、体勢を戻した朱莉さん。
『社長は午後0時30分より取引先のとある会長様との、大切なお昼の会食の予定があるため、この控え室には来ません』
僕は控え室の壁掛け時計を見た…午前11時47分。
『そうなんですね。わざわざありがとうございます』
『…では。失礼します』
朱莉さんはもう一度軽く会釈をして、振り返ってドアを開けようとドアノブに触れた。
『あっ!あの…朱莉さん!』
朱莉さんの動きが一瞬、ぴたりと止まった…!?
そしてドアノブに触れた手を放して、また振り返って僕を見た。
『はい…なんでしょうか…』
『朱莉さん、僕が社長室から退室したあとも、まだ社長室にいましたよね…?』
『いました…けど、そのあとの社長と理事長さまとの会話の内容については、私は何もお話しすることはできません』
…うん。だろうね…解ってた。
無理だと解ってたんだけど…それでも一度そう訊きたかったんだ。
『…では。改めまして失礼致します』
ドアは優しく、静かにパタンと閉まった。
控え室に、独りぽつんと残された僕…お腹空いたな。
僕もこのビルから出て、近くのファミレスにでも入って簡単にランチを済ませよう…。
お昼が済んだら、また詩織のところに戻らないと…。
…12月30日の午前の回想は、とりあえずここまで。
時刻は午後0時16分…現実でも本当にお腹が空いた。
1階に下りてキッチンへ行って、母さんが用意してくれたご飯を冷蔵庫から出して、レンジで温めて食べよう…。
一人お昼ご飯のあとは、食器を洗って部屋に戻って、スマホに届いた詩織からのLINEに返信しといて…あとはYouTubeとかネットニュースとかを観てゆっくりしてた。
1階の玄関扉からガチャガチャする音…そしてガラガラと扉が開く音が家中に響いた。
「ただいまー。信ちゃーん」
「信吾くーん。美味しいケーキ買ってきたよー」
…あ。
母さんと小林先生が帰ってきた。時刻は午後2時45分。
美味しいケーキ?…急ごう!
僕は少し慌てたように自分の部屋を出て、階段を下りて行く。
『おかえりなさーい』
一瞬驚いた顔をして、改めてニコッと笑った母さん。
対して小林先生は…。
『えっ?なっ…あなた、誰!?』
えっ、先生?誰って…僕ですけど?信吾……あ!
うわあぁぁぁーっ!!しまったあぁぁー!!
ああぁぁあぁぁあぁぁあぁーっ!!!
僕は自分の髪を掻き乱し、ハッとしてまた髪を整えて…両手で顔を隠した…ところでもう遅いけど。
…つ、遂に先生にまでも、僕の女装顔を見られてしまった…あぁ。
『なっ、なんて信吾くんって大胆なの!!誰もいなくなったからって、こんな可愛い女の子を家に連れ込んでたなんて…!』
……違います。
1
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる