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G.F. - 再始動編 -
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1階の階段下から母さんの声…目が覚めた。12月30日の朝。
『さ…寒っ』て思いながらベッドから出て、上着を羽織りながら階段を下りる。
『おはよう。信ちゃん。ご飯にしましょう』
『今…何時…?』
『朝ごはんの用意はもうでき…あ、今?7時22分よ』
…温かいご飯にお味噌汁。それに焼き鮭と目玉焼き…朝ご飯いただきます。
僕が焼き鮭をほぐして、箸でひと摘みして口へと運ぼうとしたすぐ、母さんが話し掛けてきた。
『…ってことでね、お母さんは今日は愛美と藤浦へ行ってくるから』
『えっ?』
愛美…小林愛美先生は、僕の高校時代の恩師。
そして母さんと、学生時代の親友。
『もう何年…いや何十年ぶりかしら。藤浦市に行くのは』
2日後にくる新しい年を迎えるために、藤浦市のとある美容院に、小林先生と二人で行って髪を綺麗にしてくる…ってらしい。
『《さつき美容室》はいいの?』
『うん。今日だけね』
さつき美容室というのは、ご近所の…って言っても、家から3km以上離れてるけど…母さんが今までずっと行っていた美容室。
『愛美が《凄くいい美容院が藤浦市にあるらしいの》って、《一緒に行ってみない?》って』
藤浦市…美容院…。
まるで《アンナさんの美容院》のことみたい。
『…そういえば、藤浦市には信ちゃんがお世話になった美容院がある…って言ってたじゃない?』
…えぇ?母さんに言ってたっけかなぁ…その話…。
『愛美が言うにはねぇ…その美容院の名前がね…えぇと、何だったかなぁ…確か…』
完全に箸が止まり、食べるのを忘れて考えて思い出そうとしている母さん。
『…何とか…どれって言ってたような』
『それって、まさか《クローシュ・ドレ》じゃないよね…?』
『あっ、それ!その…くろ何とかどれ!』
だからクローシュ・ドレだって…ってか…。
うわぁ…やっぱりアンナさんの美容院のことだ…。
『もしかしたら、信ちゃんがお世話になった美容院って、それかな?…なんて思って…?』
母さんが僕をじっと見る…。
僕は急に思い出したかのように、焼き鮭の一片を口に入れ、ご飯も口に頬張る。
『あははは。やっぱりその美容院なのね!』
『…。』
僕は慌てて口の中のご飯を飲み込み、更にお味噌汁も飲んだ。
『や…やめてよ《私、信吾の母です》とか言うの…』
『え、なんで?ダメなの?…そっかぁ。じゃあ黙っておくわね』
…うん。お願いだよ。母さん。
母さんと小林先生は、アンナさんの美容院へ行ったあと…早瀬ヶ池に久々に行ってみるか、それともやめるかは…今も迷っているらしい。
『…私たち、もうこんなオバサンだから…ね』
《ピンポーン♪》
『…うわぁ。なんて話してたら、まさかもう愛美が来た!?』
『ところで母さん!…父さんは?』
バタバタと急に慌てだす母さん。
出掛ける服には着替えていたけど、メイクはまだ準備できてない。
『父さんは朝早く出掛けたわよ。町内の寄り合いだって』
『こんな朝早くから??』
『愛美でしょー?ちょっと待ってー』
母さんが廊下にぴょこんと顔を出し、玄関に向かって叫ぶ。
「おはよう美穂。何か今忙しいの?」
『メイクまだだから。ちょっと待っ』
「いや入れてよ!そんなの気にしないから。外すっごく寒いんだってば!」
…小林先生が来るのは朝8時頃だったはずなんだけど、色々あってちょっと早く来たらしい。
家に入れてもらった小林先生は、ダイニングの石油ファンヒーターへまるで猫のように全力ダッシュで…暖まっていた。
『うー。あったかーい…♪』
朝ご飯を済ませた僕は、部屋着のまま玄関で、母さん達が出掛けるのを見送る。
『…お昼は冷蔵庫のあれをレンチンして、あとカップラーメンもあるから』
『分かったから。早くしたほうがいいよ。小林先生、外で待ってる』
車に乗り、こっちを見ている小林先生が見える。
『うん。じゃあ行ってくるね』
灰色のロングコートを羽織りながら、母さんが僕に小さく手を振る。
『あ!あと火の扱いには気をつけてね!火事とか』
『もう分かったから!早くいってらっしゃい!』
『あ…じゃあ…』
玄関扉がカラカラと音を立て、ゆっくりと閉まる。
ちょっと強引に、母さんを送り出した。
さて…と。僕はリビングで…今日も日課のメイクの練習をしないと。
東京からは最低限必要な分を入れた《化粧ポーチ》を持ってきてたんだ。
『さ…寒っ』て思いながらベッドから出て、上着を羽織りながら階段を下りる。
『おはよう。信ちゃん。ご飯にしましょう』
『今…何時…?』
『朝ごはんの用意はもうでき…あ、今?7時22分よ』
…温かいご飯にお味噌汁。それに焼き鮭と目玉焼き…朝ご飯いただきます。
僕が焼き鮭をほぐして、箸でひと摘みして口へと運ぼうとしたすぐ、母さんが話し掛けてきた。
『…ってことでね、お母さんは今日は愛美と藤浦へ行ってくるから』
『えっ?』
愛美…小林愛美先生は、僕の高校時代の恩師。
そして母さんと、学生時代の親友。
『もう何年…いや何十年ぶりかしら。藤浦市に行くのは』
2日後にくる新しい年を迎えるために、藤浦市のとある美容院に、小林先生と二人で行って髪を綺麗にしてくる…ってらしい。
『《さつき美容室》はいいの?』
『うん。今日だけね』
さつき美容室というのは、ご近所の…って言っても、家から3km以上離れてるけど…母さんが今までずっと行っていた美容室。
『愛美が《凄くいい美容院が藤浦市にあるらしいの》って、《一緒に行ってみない?》って』
藤浦市…美容院…。
まるで《アンナさんの美容院》のことみたい。
『…そういえば、藤浦市には信ちゃんがお世話になった美容院がある…って言ってたじゃない?』
…えぇ?母さんに言ってたっけかなぁ…その話…。
『愛美が言うにはねぇ…その美容院の名前がね…えぇと、何だったかなぁ…確か…』
完全に箸が止まり、食べるのを忘れて考えて思い出そうとしている母さん。
『…何とか…どれって言ってたような』
『それって、まさか《クローシュ・ドレ》じゃないよね…?』
『あっ、それ!その…くろ何とかどれ!』
だからクローシュ・ドレだって…ってか…。
うわぁ…やっぱりアンナさんの美容院のことだ…。
『もしかしたら、信ちゃんがお世話になった美容院って、それかな?…なんて思って…?』
母さんが僕をじっと見る…。
僕は急に思い出したかのように、焼き鮭の一片を口に入れ、ご飯も口に頬張る。
『あははは。やっぱりその美容院なのね!』
『…。』
僕は慌てて口の中のご飯を飲み込み、更にお味噌汁も飲んだ。
『や…やめてよ《私、信吾の母です》とか言うの…』
『え、なんで?ダメなの?…そっかぁ。じゃあ黙っておくわね』
…うん。お願いだよ。母さん。
母さんと小林先生は、アンナさんの美容院へ行ったあと…早瀬ヶ池に久々に行ってみるか、それともやめるかは…今も迷っているらしい。
『…私たち、もうこんなオバサンだから…ね』
《ピンポーン♪》
『…うわぁ。なんて話してたら、まさかもう愛美が来た!?』
『ところで母さん!…父さんは?』
バタバタと急に慌てだす母さん。
出掛ける服には着替えていたけど、メイクはまだ準備できてない。
『父さんは朝早く出掛けたわよ。町内の寄り合いだって』
『こんな朝早くから??』
『愛美でしょー?ちょっと待ってー』
母さんが廊下にぴょこんと顔を出し、玄関に向かって叫ぶ。
「おはよう美穂。何か今忙しいの?」
『メイクまだだから。ちょっと待っ』
「いや入れてよ!そんなの気にしないから。外すっごく寒いんだってば!」
…小林先生が来るのは朝8時頃だったはずなんだけど、色々あってちょっと早く来たらしい。
家に入れてもらった小林先生は、ダイニングの石油ファンヒーターへまるで猫のように全力ダッシュで…暖まっていた。
『うー。あったかーい…♪』
朝ご飯を済ませた僕は、部屋着のまま玄関で、母さん達が出掛けるのを見送る。
『…お昼は冷蔵庫のあれをレンチンして、あとカップラーメンもあるから』
『分かったから。早くしたほうがいいよ。小林先生、外で待ってる』
車に乗り、こっちを見ている小林先生が見える。
『うん。じゃあ行ってくるね』
灰色のロングコートを羽織りながら、母さんが僕に小さく手を振る。
『あ!あと火の扱いには気をつけてね!火事とか』
『もう分かったから!早くいってらっしゃい!』
『あ…じゃあ…』
玄関扉がカラカラと音を立て、ゆっくりと閉まる。
ちょっと強引に、母さんを送り出した。
さて…と。僕はリビングで…今日も日課のメイクの練習をしないと。
東京からは最低限必要な分を入れた《化粧ポーチ》を持ってきてたんだ。
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