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女装と復讐 -完結編-
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ふと僕は、街道の向こうを見た。
まだ営業してる。《閉店セール》を掲げたあのお店。
そして2人であのお店を指差し、また2人で笑った。『早く潰れちゃえー』…って。
『…だけど詩織、今まで本当にありがとう。もし詩織がパートナーじゃなかったら、今頃僕は…』
『ううん。ありがとうを言うのは私のほうよ。金魚がパートナーでいてくれたから、私…』
歩きながら僕と詩織は視線を交わした…詩織は何だか嬉しそうに微笑んで、元気に大きく頷いた。
『あの頃から今までを振り返ると…本当に今日まで奇跡の連続だったね。いろんなことが』
僕はそれに何も答えないまま、じっと詩織を見てた。
『私はこれからも、これまで金魚と一緒に過ごした…この《楽しくて幸せだった1年間》を、何度も振り返って思い出すと思う…信吾はどう?』
このあとの詩織の『たぶん、これからも続く私の長い人生のなかでも、最高の1年だったって思う…』って言葉に、僕は笑って…。
『もう詩織の人生の一番だったって決めちゃうの?…早くない?僕らまだ20歳だよね?だってこれから芸能界でデビューしたあとだって…』
『ちょっとぉ、もぅうるさい!せっかくの私の感動のシーンを蔑ろにしないでって』
『感動のシーン…?』
『なっ、なによ…』
…って、それからまた2人でケラケラと笑った。
『ほら見て。あー…んもぅ。もう半分まで来ちゃったぁ…』
やっぱり約300メートルの半分なんて、実際に歩けば短い束の間の距離。
『そういえば、この辺りで私たち、スーツ姿の男の人にナンパされたんだったよねー。きゃははははは』
あの『私たち…だよねッ♪』なんて言って、怪しい秘密の関係っぽさををちらつかせながら、詩織があのうっとりとした微笑みと瞳で僕を見つめてきたときは…本当にドキドキした…。
詩織って…あの頃から既に、もの凄い演技派だったなぁ…そういえば。
…本当に、あっという間だった約300メートル。
何故あのとき、僕はこの距離があんなに遠く感じたのか…不思議なくらい。
僕らは揃って《藤浦銀行・天郷本店》の巨大ビルの角を曲がった。
曲がってすぐに僕は気付いた。道路脇に停まってる、アンナさんの車。
『アンナさん…』
『うん。今日はアンナさんが私たちを、東京まで乗せて行ってくれるんだよ』
『…えっ!』
僕らはいつものように、後部座席へ乗り込んだ。
『ただいまー♪』
『おかえり。詩織と信吾くん』
アンナさんは『信吾くんのアパートの、荷造りと運び出し準備が終わったみたいだから、まずアパートに向かうわよ』と、車を発進させた。
『はい』
『お願いしまぁーす』
…戻ってきた僕のアパート。
『げっ!父さん、母さん…!!』
しまっ…!
引っ越しに来てた父さんと母さんに遭遇…遂に僕の女装姿を見られてしまった…!!!
ヤバい…あぁ…。
でも母さんは、僕を見て『本物の私の娘みたいで可愛い♪私の若い頃みたいよ♪』って…満更でもない様子だった。
父さんは父さんで、僕が初めて見るくらいに上機嫌に笑ってたし…。
アンナさんと僕の両親が、丁寧に会釈して初めての挨拶を交わしてる様子を横目に…僕はそこに居た秋良さん…じゃなくて、その代わりに来てくれた大基さんの元へ。
『久しぶり。金魚』
『お久しぶりです。大基さん』
『この…秋良が借りて用意してくれてた、お得意先の縫製工場の2トンの箱トラ。これに乗ってきたんだ。俺も秋良の代わりに東京までこのトラックを運転して、信吾の荷運びして行くからな』
『あ…ありがとうございます』
…で、今日は秋良さんは…?と、大基さんに訊くと…。
まだ営業してる。《閉店セール》を掲げたあのお店。
そして2人であのお店を指差し、また2人で笑った。『早く潰れちゃえー』…って。
『…だけど詩織、今まで本当にありがとう。もし詩織がパートナーじゃなかったら、今頃僕は…』
『ううん。ありがとうを言うのは私のほうよ。金魚がパートナーでいてくれたから、私…』
歩きながら僕と詩織は視線を交わした…詩織は何だか嬉しそうに微笑んで、元気に大きく頷いた。
『あの頃から今までを振り返ると…本当に今日まで奇跡の連続だったね。いろんなことが』
僕はそれに何も答えないまま、じっと詩織を見てた。
『私はこれからも、これまで金魚と一緒に過ごした…この《楽しくて幸せだった1年間》を、何度も振り返って思い出すと思う…信吾はどう?』
このあとの詩織の『たぶん、これからも続く私の長い人生のなかでも、最高の1年だったって思う…』って言葉に、僕は笑って…。
『もう詩織の人生の一番だったって決めちゃうの?…早くない?僕らまだ20歳だよね?だってこれから芸能界でデビューしたあとだって…』
『ちょっとぉ、もぅうるさい!せっかくの私の感動のシーンを蔑ろにしないでって』
『感動のシーン…?』
『なっ、なによ…』
…って、それからまた2人でケラケラと笑った。
『ほら見て。あー…んもぅ。もう半分まで来ちゃったぁ…』
やっぱり約300メートルの半分なんて、実際に歩けば短い束の間の距離。
『そういえば、この辺りで私たち、スーツ姿の男の人にナンパされたんだったよねー。きゃははははは』
あの『私たち…だよねッ♪』なんて言って、怪しい秘密の関係っぽさををちらつかせながら、詩織があのうっとりとした微笑みと瞳で僕を見つめてきたときは…本当にドキドキした…。
詩織って…あの頃から既に、もの凄い演技派だったなぁ…そういえば。
…本当に、あっという間だった約300メートル。
何故あのとき、僕はこの距離があんなに遠く感じたのか…不思議なくらい。
僕らは揃って《藤浦銀行・天郷本店》の巨大ビルの角を曲がった。
曲がってすぐに僕は気付いた。道路脇に停まってる、アンナさんの車。
『アンナさん…』
『うん。今日はアンナさんが私たちを、東京まで乗せて行ってくれるんだよ』
『…えっ!』
僕らはいつものように、後部座席へ乗り込んだ。
『ただいまー♪』
『おかえり。詩織と信吾くん』
アンナさんは『信吾くんのアパートの、荷造りと運び出し準備が終わったみたいだから、まずアパートに向かうわよ』と、車を発進させた。
『はい』
『お願いしまぁーす』
…戻ってきた僕のアパート。
『げっ!父さん、母さん…!!』
しまっ…!
引っ越しに来てた父さんと母さんに遭遇…遂に僕の女装姿を見られてしまった…!!!
ヤバい…あぁ…。
でも母さんは、僕を見て『本物の私の娘みたいで可愛い♪私の若い頃みたいよ♪』って…満更でもない様子だった。
父さんは父さんで、僕が初めて見るくらいに上機嫌に笑ってたし…。
アンナさんと僕の両親が、丁寧に会釈して初めての挨拶を交わしてる様子を横目に…僕はそこに居た秋良さん…じゃなくて、その代わりに来てくれた大基さんの元へ。
『久しぶり。金魚』
『お久しぶりです。大基さん』
『この…秋良が借りて用意してくれてた、お得意先の縫製工場の2トンの箱トラ。これに乗ってきたんだ。俺も秋良の代わりに東京までこのトラックを運転して、信吾の荷運びして行くからな』
『あ…ありがとうございます』
…で、今日は秋良さんは…?と、大基さんに訊くと…。
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