女装と復讐は街の華

木乃伊(元 ISAM-t)

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女装と復讐 -完結編-

page.478

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ふと僕は、街道の向こうを見た。
まだ営業してる。《閉店セール》を掲げたあのお店。

そして2人であのお店を指差し、また2人で笑った。『早く潰れちゃえー』…って。






『…だけど詩織、今まで本当にありがとう。もし詩織がパートナーじゃなかったら、今頃僕は…』

『ううん。ありがとうを言うのは私のほうよ。金魚がパートナーでいてくれたから、私…』


歩きながら僕と詩織は視線を交わした…詩織は何だか嬉しそうに微笑んで、元気に大きく頷いた。


『あの頃から今までを振り返ると…本当に今日まで奇跡の連続だったね。いろんなことが』


僕はそれに何も答えないまま、じっと詩織を見てた。


『私はこれからも、これまで金魚と一緒に過ごした…この《楽しくて幸せだった1年間》を、何度も振り返って思い出すと思う…信吾はどう?』


このあとの詩織の『たぶん、これからも続く私の長い人生のなかでも、最高の1年だったって思う…』って言葉に、僕は笑って…。


『もう詩織の人生の一番だったって決めちゃうの?…早くない?僕らまだ20歳ハタチだよね?だってこれから芸能界でデビューしたあとだって…』

『ちょっとぉ、もぅうるさい!せっかくの私の感動のシーンをないがしろにしないでって』

『感動のシーン…?』

『なっ、なによ…』


…って、それからまた2人でケラケラと笑った。


『ほら見て。あー…んもぅ。もう半分まで来ちゃったぁ…』


やっぱり約300メートルの半分なんて、実際に歩けば短い束の間の距離。


『そういえば、この辺りで私たち、スーツ姿の男の人にナンパされたんだったよねー。きゃははははは』


あの『私たち…だよねッ♪』なんて言って、怪しい秘密の関係っぽさををちらつかせながら、詩織があのうっとりとした微笑みと瞳で僕を見つめてきたときは…本当にドキドキした…。

詩織って…あの頃から既に、もの凄い演技派だったなぁ…そういえば。






…本当に、あっという間だった約300メートル。
何故あのとき、僕はこの距離があんなに遠く感じたのか…不思議なくらい。

僕らは揃って《藤浦銀行・天郷本店》の巨大ビルの角を曲がった。

曲がってすぐに僕は気付いた。道路脇に停まってる、アンナさんの車。


『アンナさん…』

『うん。今日はアンナさんが私たちを、東京まで乗せて行ってくれるんだよ』

『…えっ!』






僕らはいつものように、後部座席へ乗り込んだ。


『ただいまー♪』

『おかえり。詩織と信吾くん』


アンナさんは『信吾くんのアパートの、荷造りと運び出し準備が終わったみたいだから、まずアパートに向かうわよ』と、車を発進させた。


『はい』
『お願いしまぁーす』






…戻ってきた僕のアパート。


『げっ!父さん、母さん…!!』


しまっ…!
引っ越しに来てた父さんと母さんに遭遇…遂に僕の女装姿を見られてしまった…!!!

ヤバい…あぁ…。

でも母さんは、僕を見て『本物の私の娘みたいで可愛い♪私の若い頃みたいよ♪』って…満更まんざらでもない様子だった。
父さんは父さんで、僕が初めて見るくらいに上機嫌に笑ってたし…。


アンナさんと僕の両親が、丁寧に会釈して初めての挨拶を交わしてる様子を横目に…僕はそこに居た秋良さん…じゃなくて、その代わりに来てくれた大基さんの元へ。


『久しぶり。金魚』

『お久しぶりです。大基さん』

『この…秋良が借りて用意してくれてた、お得意先の縫製工場の2トンの箱トラ。これに乗ってきたんだ。俺も秋良の代わりに東京までこのトラックを運転して、信吾の荷運びして行くからな』

『あ…ありがとうございます』


…で、今日は秋良さんは…?と、大基さんに訊くと…。






















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