女装と復讐は街の華

木乃伊(元 ISAM-t)

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女装と復讐 -完結編-

page.477

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久しぶりに、天郷大通りにやってきた…。


『ほら見て。詩織ちゃんが立ってるわよ』


《おばタク》は、歩道の端に立って僕らを待ってた詩織のすぐ横に寄って、ゆっくりと停まった。

そして岡ちゃんが運転席を降りて、後部座席のドアを開けてくれた。


『…おはよう』

『おはよう。金魚』


僕と詩織は、じっと互いを見合った。
少し風が強くて、詩織の髪が何度も詩織の頬を撫でた。


『詩織ちゃん、金魚ちゃん』


岡ちゃんが僕らの前に真っ直ぐに立ち、運転手の帽子を脱いだ。


『…私のお役目はここまでです。私は《さよなら》とは言いません…』

『うん。岡ちゃん…今までほんとに…ありがとう』


詩織と岡ちゃんは強い思いが込み上げてきたかのように、長く…優しく抱擁し合った。


『ずっと、元気でいてね…私の大好きな岡ちゃん』

『はい…遠くに行っても、私はいつでも詩織ちゃん達のことを想ってますよ』


岡ちゃんは、今度は僕と抱擁した。


『今まで楽しかったわ。二人とも大好きよ』

『たまには帰ってきます…たぶん。そのときは…』

『えぇ。そのときは、また私がお迎えしますね』






…岡ちゃんは今一度、深く会釈して運転席へと戻り…《おばタク》はゆっくりと走り去った…。

それを最後まで見届けていた…僕と詩織。






『ここに立つと…すごく懐かしい気分になるね』


この長い街道の先を見詰める詩織の横顔を僕は見てた。


『ここから全てが始まったのよね…が』

『うん…がね』


今度は振り向いて、詩織は僕を見て微笑んだ。


『あの日を再現したかったから…私も金魚もあのときと同じ服を着させた♪』


僕と詩織は、息が合ったように自然と笑った。
ここは忘れもしない…僕が女装のプレデビューを果たした《天郷大通り》。


『あのビルの曲がり角まで…』


詩織が歩道のずっと先に見える巨大なビル…あの《藤浦銀行・本郷本店》を指差した。


『うん。解ってる』


僕らは互いをまた見合い、大きく頷き合った。

その距離…約300メートル。あのときはこの距離が、とても長く感じたけど、今は…。


『じゃあ…歩こっか。金魚』

『うん』


僕らはゆっくりと歩き始めた。
そして歩き始めてしばらくして、僕は詩織に訊いた。


『詩織…なんで最後に、ここを2人で歩きたい…って選んだの?』


詩織はそれには即答せず、ゆっくりゆっくりと歩きながら語りだした。


『あのとき…信吾、《僕、やっぱり女装して歩くの…無理かも》って言ってたよね…』


前を真っ直ぐ見ながら語る詩織。

まだ《金魚》という名前すら無かったあの頃。僕は確かに『無理かも…』って言った。


『…でも、信吾は勇気を振り絞って、それを克服できて…そして金魚は、今や早瀬ヶ池には無くてはならない女の子…早瀬ヶ池で一番の女の子にまで成長できたんだよね…』


…その軌跡の始まりが、ここだった…。






















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