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女装と復讐 -完結編-
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しおりを挟む久しぶりに、天郷大通りにやってきた…。
『ほら見て。詩織ちゃんが立ってるわよ』
《おばタク》は、歩道の端に立って僕らを待ってた詩織のすぐ横に寄って、ゆっくりと停まった。
そして岡ちゃんが運転席を降りて、後部座席のドアを開けてくれた。
『…おはよう』
『おはよう。金魚』
僕と詩織は、じっと互いを見合った。
少し風が強くて、詩織の髪が何度も詩織の頬を撫でた。
『詩織ちゃん、金魚ちゃん』
岡ちゃんが僕らの前に真っ直ぐに立ち、運転手の帽子を脱いだ。
『…私のお役目はここまでです。私は《さよなら》とは言いません…』
『うん。岡ちゃん…今までほんとに…ありがとう』
詩織と岡ちゃんは強い思いが込み上げてきたかのように、長く…優しく抱擁し合った。
『ずっと、元気でいてね…私の大好きな岡ちゃん』
『はい…遠くに行っても、私はいつでも詩織ちゃん達のことを想ってますよ』
岡ちゃんは、今度は僕と抱擁した。
『今まで楽しかったわ。二人とも大好きよ』
『たまには帰ってきます…たぶん。そのときは…』
『えぇ。そのときは、また私がお迎えしますね』
…岡ちゃんは今一度、深く会釈して運転席へと戻り…《おばタク》はゆっくりと走り去った…。
それを最後まで見届けていた…僕と詩織。
『ここに立つと…すごく懐かしい気分になるね』
この長い街道の先を見詰める詩織の横顔を僕は見てた。
『ここから全てが始まったのよね…金魚の物語が』
『うん金魚と詩織の…がね』
今度は振り向いて、詩織は僕を見て微笑んだ。
『あの日を再現したかったから…私も金魚もあのときと同じ服を着させた♪』
僕と詩織は、息が合ったように自然と笑った。
ここは忘れもしない…僕が女装のプレデビューを果たした《天郷大通り》。
『あのビルの曲がり角まで…』
詩織が歩道のずっと先に見える巨大なビル…あの《藤浦銀行・本郷本店》を指差した。
『うん。解ってる』
僕らは互いをまた見合い、大きく頷き合った。
その距離…約300メートル。あのときはこの距離が、とても長く感じたけど、今は…。
『じゃあ…歩こっか。金魚』
『うん』
僕らはゆっくりと歩き始めた。
そして歩き始めてしばらくして、僕は詩織に訊いた。
『詩織…なんで最後に、ここを2人で歩きたい…って選んだの?』
詩織はそれには即答せず、ゆっくりゆっくりと歩きながら語りだした。
『あのとき…信吾、《僕、やっぱり女装して歩くの…無理かも》って言ってたよね…』
前を真っ直ぐ見ながら語る詩織。
まだ《金魚》という名前すら無かったあの頃。僕は確かに『無理かも…』って言った。
『…でも、信吾は勇気を振り絞って、それを克服できて…そして金魚は、今や早瀬ヶ池には無くてはならない女の子…早瀬ヶ池で一番の女の子にまで成長できたんだよね…』
…その軌跡の始まりが、ここだった…。
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