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女装と復讐 -完結編-

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詩織はしばらく、じっと雄二さんのカメラを見ていた。


『このカメラは…ずっとずっと前から知ってる…。私の15歳の誕生日の、あの写真を撮ってくれたカメラだよね…』

『あぁ。そうだな。このカメラも随分と長く使ってるからな…』


…えっ?ちょっと詩織…。
そんな会話は…僕との打ち合わせには…無かったはず…。

雄二さんの両手に、しっかりと握られているカメラ。それを詩織は両手で、ゆっくりと優しく引っ張った。

しっかりと握られていたにも関わらず、カメラは雄二さんの両手から、容易く詩織に奪い取られた。

そして立ったままそれを見下ろす、詩織の両手に包まれた。


『このカメラは…私の中学の入学式のときから今日まで…ずーっと私を撮って、見守ってきてくれたカメラ。私、このカメラが一番好き…』

『…そうか』


そう一言発したあとは、雄二さんは少し黙り込んだ。


『もし…私が…本当に芸能界デビューできたら…そしたら、誰が私を撮ってくれるの…?』

『それは…冴嶋社長が連れてきた、別のプロカメラマンが撮っ…』

『私、このカメラじゃなきゃ…嫌…』

『…。』


雄二さんは顔を上げ、カメラを見下ろしたままの詩織を見た。


『私…雄二さんの撮影じゃなきゃ嫌だぁ。他の人の撮影なんて…』

『なぁ、小娘。そんな我儘を言ったら、これからお前を支えてくれる大勢のスタッフ達に、迷惑を掛けちまうだろ…』


詩織はまだ、カメラを見下ろしたまま。


『…カメラの、この右の角の凹んだ傷…私が13歳のときに…落として付けちゃった傷だよね…』

『あ?…あぁ。そうだったな。そんな昔のこと、よく覚えてたな』

『…けど、あのとき…雄二さん、私を優しく許してくれた…』

『まぁな。べつに壊れてなかったしな』

『このカメラは…世界一のカメラなの…』


詩織は一瞬顔を上げ、雄二さんを見て、またゆっくりとカメラに視線を落とした。


『…何言ってんだよ。俺のカメラなんかより精巧で、最新式で高価なカメラを使ってるカメラマンなんてな、世界中にごまんと…』

『雄二…』


…その声は…アンナさんだった。


『詩織が言いたいのは…そう言うことじゃないの…』


雄二さんは、また黙って頷いた。


『…世界一優しいカメラマンが使ってる、思い出の詰まった大切なカメラだから…世界一のカメラなの…』


『解ってるって…杏菜。俺だってな…』


雄二さんは左手で優しく、詩織の頭を撫でてあげた。それと同時に…雄二さんのカメラに、ぽたりぽたりと水滴が落ちた。


『ぁ…あっ!どうしよう!!…ご、ごめんなさい!!…私の…涙が、雄二さんの大事なカメラに…』























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