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女装と復讐 -完結編-

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午前11時54分。ようやく樋口のメイクも…。


『じゃあ絵里佳ちゃん。最後にリップメイクを仕上げれば、メイクは完成だよ』

『はーい』


『リップカラーはどれがいい?』と、僕がワゴンの上に幾つかのlipstickを並べて訊くと、樋口はその中の一つを指差して…。


『この可愛い桃色ピンク系がいいな♪』


…との返事。


『うん。じゃあこれにするね』


このアルバイトを始めてから、来店した女の子たちが選ぶリップカラーのお好みの色は、薄めの《桜色・桃色系》か、やや濃いめの《ピンクオレンジ系》のどちらかがほとんど…だったかな。

全然『真っ赤で』みたいな子は見なかった。


「姫さまぁ…」

『えっ?絵里佳ちゃん、今なんか言った?』


樋口の下唇を半分塗ったところで、僕は手を止めて樋口を見た。


『…このバイトを始めてから、いろんな女の子の唇を今までいっぱい見てきたと思うんですけど…《この唇、ちょー可愛い♪》とか《チュウしたい♪》とか、思ったこと…ありますか…?』

『…えっ?』


正直に言うと…そういうのは一度もないなぁ。


『じゃあ…例えば、私の唇は…どうですか?』

『ど…どうって、何が…?』


えぇ…?

僕は《可愛い女の子限定・悪趣味Kiss魔》の樋口の唇を…じーっと見…。

樋口の唇は…普段からちゃんと入念にお手入れされてるのか…保湿もしっかりできていて、潤いも十分。だから気持ちいいくらい柔らかいし、《ひび割れ》とか《唇皮のめくれ》とかも全然無い。凄く綺麗。

たぶん、女の子たちの理想的な唇を例えるのなら…いや、世の男性陣が好みとする唇ってのも…樋口のような、こんな唇なのかもしれないって思う…あっ!



や…やばい!!
大事なこと、忘れてた…!!



樋口の、小さくてやや薄めで可愛らしいこの唇は…《見た者を魅了し、しんぞうの鼓動を早めさせ、身の自由をも奪いてその【魔女の接吻】を拒ませぬ、恐るべし【魅惑なる魔呪の力】を隠し秘める…ただし相手は美少女に限ります♪》…だった!!

危うく、樋口の魅惑唇の魔力に惹き込まれるところだった…ひぇぇ。




…僕は樋口のリップメイクを慌てて済ませると、その魔呪の力に僕の脳と心臓を侵され不自由に操られる前に…顔ごと視線を、右へぐいっと急いで背けた…。

ついでに、その勢いに振り回される、僕の左耳の金魚ピアスの赤姫と黒助くん。


『えっ!?…きゅ、急にどうしたの!?姫さま…!?』

『な…なんでもない…』


僕は樋口の唇を見ないよう細心の注意を払いながら…ゆっくりと…樋口の目だけを見た…。


『ご…ごめん。本当になんでもないんだけど、えぇと…あっ、そう!突然くしゃみがね、出そうになっちゃったものだから…出なかったけど…』

『??』


本当ヤバい…。僕の顔、真っ紅になってないかな…。
樋口に気付かれてないか…とか色々不安。

誘唇Kiss魔の樋口…こいつもこわっ!






…そして、ギリギリでお昼に間に合うように、樋口のメイクは無事に完成。


『終わった?金魚ちゃん』


ナオさんの呼ぶ声に反応して、僕はふいっと振り向いた。


『あ、はい。ちょうど今…』


そう言った僕の横顔を、樋口もふいっと見た。


『じゃあ、行きましょう。ランチ。またいつもの近くのファミレスでいい?』

『はい』

『じゃあ、私はたちも…』


……えっ?


『行こう、美佳ちゃん。金魚ちゃんたちとランチ』






…ナオさーん…。

だから樋口の『私たち、金魚ちゃんのお友達なんです♪』なんて言葉に騙されちゃダメですって…。























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