402 / 490
女装と復讐 -完結編-
page.391
しおりを挟む
女の子のメイクをする《修行》である今のバイトを始める前までは、鈴ちゃんに何か特別な予定が入らないかぎりは毎週土曜日、定期的に鈴ちゃんとランチできてた。
けれど、このバイトを始めてからは、逆に僕のほうが忙しくなってしまって、一緒にランチする機会は今日まで一度も無かった。
『そういえば金魚ちゃん、女の子たちにメイクをしてあげるお仕事のほうは、どうなの?順調?』
僕の目の前に鈴ちゃん、詩織は僕の隣に座っている。
いつもと変わらない、3人での座り位置のパターン。
『まぁ…うん。たまに《小顔に見えるメイクを…》とか《小鼻メイクを…》とか、やったことないメイクの難しい注文を受けることはあるけど…まずまずかな。調子』
だってさ…詩織は元から小顔だし、鼻も理想的に小さくてツンとしてるし、だから普段からそういうメイクテクニックを使わないもんだから。
やったことないっていうのは、そういう理由。そういう言い訳。
『だけどメイクが上手だなんて、ほんとに凄いよねー。金魚ちゃんは…』
「…男の子なのにね」って、そこだけは周囲のお客さん達には聞こえないよう、小声で囁くように言ってくれた鈴ちゃん。
『私ね、詩織ちゃんから聞いてたの。《金魚ちゃんはメイクの天才なんだよー》って』
『えっ?いや…そんな、天才だなんて…』
そう言いながら僕は、僕の横に静かに座っていた詩織の横顔をちらりと見る。
詩織はそれに気付いて、振り向いて僕を見た。
『だってほんとに金魚って、メイク上手だし。私、嘘なんて言ってないもん…』
『私もしてほしいな…金魚ちゃんのメイク』
『…えっ!?』
僕は驚き、慌てて鈴ちゃんを見た。
『ねぇ、どうしたら私、金魚ちゃんにメイクしてもらえるの?』
鈴ちゃんのそれに、僕は何て答えたらいいのか凄く迷った。
『あ、あの…鈴ちゃん』
『大丈夫。私、ちゃんと真面目に本気で言ってるんだから』
『で、でも…いいの?ほんとに…』
鈴ちゃんが微笑んで頷く。
『うん。メイクのお願い…いい?』
…午後0時47分。ランチのラーメンを食べ終えた僕ら3人は、少し急いでナオさんの化粧品店へと戻ってきた。
『じゃあ…お化粧道具、3点以上買えばいいのね』
『あ…鈴ちゃん…』
僕は『鈴ちゃんがメイク道具を買わなくてもメイクしてあげられないか、ちょっと店長のナオさんに交渉してみる』と、そう言って店内の奥に行こうとした…。
『待って!金魚ちゃん!』
『えっ?』
『お店に入れば私だって、普通のお客さんだよ。なのに私だけが特別扱いって、良くないって思うの…』
そ…そうでした。大変ごめんなさい…。
『それにちょうど、使ってたファンデとか…他にも色々とメイク道具、無くなりかけてたし。だから大丈夫よ。お気遣いありがとうね』
けれど、このバイトを始めてからは、逆に僕のほうが忙しくなってしまって、一緒にランチする機会は今日まで一度も無かった。
『そういえば金魚ちゃん、女の子たちにメイクをしてあげるお仕事のほうは、どうなの?順調?』
僕の目の前に鈴ちゃん、詩織は僕の隣に座っている。
いつもと変わらない、3人での座り位置のパターン。
『まぁ…うん。たまに《小顔に見えるメイクを…》とか《小鼻メイクを…》とか、やったことないメイクの難しい注文を受けることはあるけど…まずまずかな。調子』
だってさ…詩織は元から小顔だし、鼻も理想的に小さくてツンとしてるし、だから普段からそういうメイクテクニックを使わないもんだから。
やったことないっていうのは、そういう理由。そういう言い訳。
『だけどメイクが上手だなんて、ほんとに凄いよねー。金魚ちゃんは…』
「…男の子なのにね」って、そこだけは周囲のお客さん達には聞こえないよう、小声で囁くように言ってくれた鈴ちゃん。
『私ね、詩織ちゃんから聞いてたの。《金魚ちゃんはメイクの天才なんだよー》って』
『えっ?いや…そんな、天才だなんて…』
そう言いながら僕は、僕の横に静かに座っていた詩織の横顔をちらりと見る。
詩織はそれに気付いて、振り向いて僕を見た。
『だってほんとに金魚って、メイク上手だし。私、嘘なんて言ってないもん…』
『私もしてほしいな…金魚ちゃんのメイク』
『…えっ!?』
僕は驚き、慌てて鈴ちゃんを見た。
『ねぇ、どうしたら私、金魚ちゃんにメイクしてもらえるの?』
鈴ちゃんのそれに、僕は何て答えたらいいのか凄く迷った。
『あ、あの…鈴ちゃん』
『大丈夫。私、ちゃんと真面目に本気で言ってるんだから』
『で、でも…いいの?ほんとに…』
鈴ちゃんが微笑んで頷く。
『うん。メイクのお願い…いい?』
…午後0時47分。ランチのラーメンを食べ終えた僕ら3人は、少し急いでナオさんの化粧品店へと戻ってきた。
『じゃあ…お化粧道具、3点以上買えばいいのね』
『あ…鈴ちゃん…』
僕は『鈴ちゃんがメイク道具を買わなくてもメイクしてあげられないか、ちょっと店長のナオさんに交渉してみる』と、そう言って店内の奥に行こうとした…。
『待って!金魚ちゃん!』
『えっ?』
『お店に入れば私だって、普通のお客さんだよ。なのに私だけが特別扱いって、良くないって思うの…』
そ…そうでした。大変ごめんなさい…。
『それにちょうど、使ってたファンデとか…他にも色々とメイク道具、無くなりかけてたし。だから大丈夫よ。お気遣いありがとうね』
1
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる