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女装と復讐 -完結編-

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『じゃあね、今日のメイクは…パッと明るい感じにして、でも絶対に派手過ぎにはならないくらいに抑えた、ナチュラルな可愛らしい感じでいこっか』

『はい!』


僕は可奈美ちゃんから一度離れ、仮設メイクルームの端っこに置いてある、メイク道具がたくさん並んで乗った、2台のワゴンのうちの1台を引っ張って、また可奈美ちゃんの隣に戻った。

そのワゴンを覗き込んだ可奈美ちゃん。


『うわぁ…凄ーい。お化粧道具がいっぱーい…』

『えへへっ…でしょ。この下の6段の引き出しにも、出し切れない道具がまだいっぱい入ってるんだよ』

『へぇ…凄い…』


ナオさんから『アルバイトの期間中は、これを使ってね』って言われたとき…全身に鳥肌がざわざわと波打った。

アンナさんも使ってた、プロ仕様のコスメワゴン。僕はもの凄く惹かれてた…本当に使いたかった。

このワゴンを使うことを許されること…それはまるで《メイクの上級者だと認められた証》…みたいな。


『まずは保湿とベースメイクからね。いい?じゃあ始めるよ』

『はい。宜しくお願いします』





まずは、ヘアクリップで前髪を丁寧に優しく留める。

そしてファンデは…この子は乾燥肌っぽかったけど…リキッドよりもパウダーかな。でもちゃんと保湿のベースもしっかりとやってあげたから大丈夫。安心だし。
それと日焼け止め効果もあって汗をかいても崩れにくい、ちょっとお高めブランドのほうを使ってあげよう。

待てよ…ナオさんに怒られちゃうかな…?
ううん。今日デートだっていうこの子のためだ。その時は素直に『ごめんなさい』しよう…うん。

肌に軽く叩き込むように、顔の輪郭のほうから…塗り塗り、トントン…そのまま顔の中心である鼻の部分から、伸ばしながら顔全体に…トントン…。



はーぁ…よし。ベースメイクは済んだ。ここからが本当にめちゃくちゃ大事。

…可奈美ちゃんに似合う《ナチュラルな可愛らしい感じのメイク》…さぁて、どういこうか。僕の中のイメージ力をフル活用…。

ふぅむ…だよね、やっぱり。若い女の子らしくキラキラしてて、優しくふわっとしてるけど、かといって艶やかになり過ぎない、少し抑えたメイクに仕上げてあげたほうがいいね。

でもなぁ…うーん…あ、そうだ。唇はプルンと艶っぽさを、ほんのちょっと強調してあげようか。それを見た彼がドキドキするような唇に。

そして淡いピンクのチークを、散らすように頬の上にささっと。

じゃあアイメイクはどうだろう…あまり《濃いオトナメイク》にならないように、アイシャドウは控えておこう。

アイライナーは丁寧に、そして太さを抑えて清楚で上品な感じに。
瞼を挟んで痛い思いをさせないよう、細心の注意を払いながらビューラーでしっかりカールさせてあげて…マスカラは今回は黒は使わない。《クリアマスカラ》を使おう…。






『…よしっと。これで完成でいいかな』


鏡に映る自分を、じっと真っ直ぐ見詰めている可奈美ちゃん。
僕はそのまま、前髪を留めていたヘアクリップを外してあげた。


『私のメイク…どうかな…?』


そう訊くと鏡越しに、にっこりと可愛い笑顔を見せてくれた。


『佳奈美ちゃん、お気に召してくれましたか…?』

『はい。自然な感じなのがとってもいいです』

『やったぁ。ありがとう!』


最後に、今回のメイクのポイントを可奈美ちゃんに説明する。《基本的には薄めに抑えたメイク》でありながら、《唇はツヤを保たせ、ほんのり色っぽく仕上げました》と。






では…ご一緒にお会計へ。


『金魚ちゃん。こんな素敵なメイク、ありがとうございました』

『うん。デート楽しんできて。いってらっしゃい!』

『はーい』


本当にこの子、笑顔が凄く可愛いなぁ。

…ってことで、可奈美ちゃんは小さく手を振ってお店を出た。



あ!…お店の前で待っていた男子高校生と挨拶して…男子の肩を軽く叩いてケラケラと笑ってる。

相手の男子は…なんとも爽やかな雰囲気が見て感じられる。
バスケ部ですって感じ。ほんと勝手な想像だけど。

二人とも照れくさそうに、ゆっくりとそっと手を繋ぎ、お喋りしながら…眺めてた僕の視界から消えていった。























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