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女装と復讐 -街華編-

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詩織が芸能界に誘われたことを、優しく詩織と抱擁し合って静かに喜んでいるアンナさん。


「…良かった。私、嬉しい…」


アンナさんのその囁きが、詩織の耳元まで届いた。

そして抱擁を止めて、アンナさんは詩織を改めて見た。


『やったわね!詩織!』

『う、うん…えへへ…』


詩織は少し恥ずかしそうに、アンナさんに笑って見せた。


『芸能界に入ったら、すぐに界のナンバーワンを獲りにいかなきゃね!』

『あの…ね、アンナさん…。気が早すぎない?だってまだ《ただ誘われただけ》なんだけど。てゆうか私、本当に芸能界に入れるの?とか、やっていけるの?とかって話も、まだ全部これからだし…』


もう夢心地?有頂天?になっているアンナさん。今の詩織の言葉は聞こえてないほど喜んでるみたい…本当に嬉しそう。


「ってゆうか私…どうせなら、アイドルよりものほ…」

『えっなに?詩織、今なんか言った…?』

『えっ?…何か聞こえたの?私なーんにも言ってませーん』

『あら…そう?今なにか、確かに…』


アンナさんは詩織をじーっと見て…詩織はアンナさんにニコッ♪と笑顔。


『それにしても…やっぱり詩織は、トップアイドルになる運命を負った女の子だったのよ。将来が楽しみだわ…ね。頑張ってね詩織。うふふっ♪』

『はーぃ。きゃははは…』






…なんてことが色々あって、それがどんどん過ぎて…明日からもう8月。
宮端学院大学は、今週から9月の第3週までという、長い長い夏休みに突入。


『…って。今の説明で金魚、分かったかしら?』

『はい。分かりました。アンナさん』


時刻は午前8時19分。場所はいつものように、アンナさんの美容院…じゃなくて、今朝はナオさんの化粧品店の店内。

お洒落な黒い木製椅子に座る、《服装だけ》女の子してる僕…ノーメイクの金魚。

隣には僕と同じく、黒い椅子に座った詩織。そして僕らの目の前に、威風堂々として立っているナオさんとアンナさん。


『…じゃあ、8時30分を過ぎたら、私とナオがお店の前にテーブルと椅子、そしてメイクボックスを出して準備するから』

『はい』


僕は今日からナオさんの化粧品店で、お客さんの女の子たちを無料でメイクしてあげるアルバイト。

無料…とは言っても《お店で3点以上、化粧品を買ってくれた女の子に限る》っていう条件はあったりするんだけど…。






予定時刻の8時30分を少し過ぎた。

アンナさんとナオさんが…詩織も手伝って、お洒落な黒いテーブル…モダンな黒い椅子…高級そうな卓上鏡…そして赤い金魚専用のメイクボックスを準備。
それを次々とお店から出し、お店の前に配置していく。

そういえば…夏って朝の日差しでさえ熱いけど、たまたまナオさんのお店が西向きだったおかげで、今の時間ならまだ高層ビル群の陰になってて、そこまで暑くない。

そして10分も経つと、ナオさんの化粧品店《ElossoM.》の前に瀬ヶ池の女の子たちがぽつりぽつりと集まりはじめた。それがいつの間にか、もの凄い人集ひとだかりに。






…午前9時5分前。
ナオさんとアンナさんは、お店の前に準備できたテーブル席の前に並んで立った。

詩織は店内に戻り、始まりを待つ僕の隣にまた座る。


『金魚。あなたの《自慢のすっぴん顔》を、瀬ヶ池の女の子たちに見せつけて、あっと驚かせてあげるのよ!』

『あ…うん』




急にこんな話しをして…ごめんなさい、なんだけど。

世界には、幾多の名言があるけど…そんな名言の中に《云々…行動は習慣となり、習慣は人格となり…云々》みたいな言葉があったはず。

僕はもう半年以上、女装をして女の子らしい振る舞いをずっとしてきたけど…そのせいか、全く化粧をしてない《すっぴん顔》さえも、中性的?を越えて…まさか、ちょっと女の子っぽくなってきた?…って、自分でふと思うこともあったし、詩織にもアンナさんにも言われたことが…何度か。

『えっ?普通の女の子よりもすっぴん顔、可愛いくなってきたんじゃない?(篠崎杏菜)』とか『ぇ待って!?信吾のすっぴん顔…可愛い女の子よりも女の子してて可愛いんだけど…ってか卑怯よ!不公平!(岡本詩織)』とか…。

まさに《行動》が《習慣》を経て《人格》に…なんてことって本当にあるんだなぁ…って。最近思ったり。






















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