女装と復讐は街の華

女装と復讐 -街華編-

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…僕が《とっても素敵》だとか…絶対有り得ない。

《金魚は実は女装男子》《正体は瀬ヶ池のメダカ》って、詩織が勇気を振り絞って白状したうえで《"偽物の女の子"なんだから、金魚は芸能界では働けない》って言ってるのに、鈴ちゃんは…ますます力強く《岩塚信吾くんこそ、間違いなく絶対に芸能界向き》って…。

そんな僕みたいなのが芸能界デビューして活動したら、大問題でしょ…？


『けど鈴ちゃん…私たちの復讐を手伝いたいって言うけど…本当に解ってるの？だって私たちが復讐の対象とする相手は、鈴ちゃんの妹の…』

『うん』


鈴ちゃんは、あーんと口を大きく開き、今一番大好きだという鮪まぐろの中トロの分厚いお刺身を、ちょんちょんとお醤油につけて幸せそうにゆっくりと頬張って…。


『あっ！！…ほうほう！わはひ…！』


詩織から『ゆっくりでいいから、ちゃんと飲み込んでから話しして』と言われ、もぐもぐと良く噛んで、頷いて鈴ちゃんはお刺身をコクッと飲み込んだ。


『…はぁ。そうそう！私、忘れちゃいそうだった！』

『うん。何を？』


幸せそうに食べてる鈴ちゃんを見ていた詩織と僕を、今度は鈴ちゃんがぱっちりとした大きな目で見た。


『後回しにしてた《あの話》をしなきゃ！』


そう言い終えると、鈴ちゃんはお刺身の最後の一切れを、素早くパクリと口に入れた。






『今、私ね…彩と軽い絶縁中なの』

『…軽い絶縁中！？』
『えっ、彩乃ちゃんと喧嘩したの！？』


うんと頷いた鈴ちゃん。


『喧嘩っていうか…口喧嘩みたいな、ちょっと激しい言い合いだったんだけど…あんまり彩が私の言うことを聞いてくれなかったから…今は彩のLINEも電話も、何も返したくないって気分になっちゃって、一切応えないようにしてる…』

『ねぇ鈴ちゃん、彩乃ちゃんと何があったの？…訊いていい？』


鈴ちゃんは再び、大きくうんと頷いた。






２週間前…あの６月最後の土曜日。

鈴ちゃんはラジオの生放送の仕事のあと、新井早瀬駅の改札口の前で妹の彩乃と待ち合わせ。
姉妹揃って一緒にハイカラ通りの、お洒落なイタリアンのパスタ屋さんでランチ。

鈴ちゃんは本当はここで、彩乃に真実を問い質ただそうと思っていた。だけど周りは女の子だらけ。姉妹２人のランチの様子を観察されているようなもの。

だから、ここで姉妹の言い合いを…お見苦しい醜態を晒すことはないだろうと思い返し、実家に帰るまで鈴ちゃんは我慢することにした…。




鈴ちゃんと彩乃は瀬ヶ池の街をぶらぶらと、あちらこちらと散歩し、夕方には実家に帰宅。

夕食の準備をしているお母さんの手伝いをしていた彩乃を『ちょっとごめんね』と、鈴ちゃんは２階の自分の部屋へと呼んだ。

エプロン姿のまま、彩乃は『お姉ちゃん、なに？』と、のこのこと姉の部屋へとやって来た。鈴ちゃんは部屋のドアを閉めて彩乃を自分のベッドに座らせ、自分は床のカーペットの上にクッションを置いて、その上に座った。