女装と復讐は街の華

女装と復讐 -街華編-

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詩織は美容院に、７時47分に到着。

…ん？
なんだか少し浮かない表情…？


『おはよー信吾。まだ自分のメイクしてないの？』

『あ…ごめん』


いつもの詩織なら『なにしてんの！早くメイクしなさいよ！私だって待ってるんだから！』って凄い勢いだろうに、今朝はそんな勢いが…？


『信吾…昨日の夜ね、鈴ちゃんから《明日はランチご一緒できないかも》ってLINEがきたの』


残念そうにそう言った詩織。


『そうなんだ…でも仕方ないよ。忙しく日本とロサンゼルスを往復したあとだし』

『うん。けど理由が違うの…少し』

『…？』


詩織は勢いよくドサッと、ロングソファーに座る僕の隣に座った。


『今日は彩乃ちゃんとランチなんだって』

『…ふぅん』


でも、鈴ちゃんと彩乃は実の姉妹なんだ。一緒にランチするくらい、別におかしなことではない。

その妹を差し置いて、今までずっと僕らとランチしてくれてたことのほうが特別なんだし。


『お土産とか…どうなっちゃうんだろうね』


会話の繋ぎに、僕は詩織にそう言ってみた。


『お土産のことより…それを受け取りに、わざわざ東京から電車で、片道１時間も掛けて来てくれる鮎美ちゃんのことを考えたら…』


…確かに。申し訳ない…。






午前10時ちょうど。金魚に女装し終えた僕は詩織と、アンナさんに『行ってきまーす』と手を振り、美容院を出て階段を降りて、美容院の真下の駐車場へ。


『おはようございます』

『岡ちゃん、おっはよーう』
『おはようございます』


岡ちゃんは僕らを《おばタク》の後部座席に乗せ、ドアを閉めて運転席へ戻ると、自分のスマホを詩織に差し出し、早瀬ヶ池へと向かって走り出した。


『鈴ちゃんがね、お嬢ちゃん達を《おばタク》に乗せたら電話ちょうだいってね』

『あー。はい』


プルルルル…プルルルル…

岡ちゃんのスマホは詩織に手渡されたときから、もう鈴ちゃんのiPhoneへの電話のコールをしはじめてた。


…ガチャッ。


「…もしもし？おはよう。鈴です」

『あっ、もしもし！…おはよーぉ。詩織でーす』

「ちょ、ちょっと待ってね。横に彩乃が居るから…」


詩織が耳に当ててる、岡ちゃんのスマホから漏れて聞こえてきた「お姉ちゃん電話？誰から？」「う、うん。うちの芸能事務所の事務員の…山口さんから…」の声。

…電話の向こうで上手に誤魔化してる様子。

そして妹の彩乃から離れ、電話で今日のランチとお土産のことを謝る鈴ちゃん。
対して『いいのいいの。気にしないでね』と、優しく返す詩織。