女装と復讐は街の華

木乃伊(元 ISAM-t)

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女装と復讐 -街華編-

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即興の作り話…?

ナオさんは…有坂奈緒さんは、そんな汚いやり方をする人なんかじゃない。今見たって、ナオさんは彩乃に何と言われようが、表情一つ変えず堂々と立ってる。


『彩乃ちゃん、あなただって解ってるはずよ。今の私の言ったことが、全くの《でたらめ話》ではないってこと。本当は認めたくないだけでしょ?』


悔しそうにナオさんを睨んで、黙り込む彩乃。

それを認めることは、今からその詩織の《卑怯者》だという点に的を絞って、詩織を責め立てまくろうとしてた、そのチャンスを奪われることを意味するからだ。

だから認めない…認めたくない!…と。




…そのとき、撮影室の向こうから扉をノックする音。


『奈緒、開けてくれ』

『あ…はい!』


撮影室から出てきた雄二さん。彩乃と詩織のあいだに、隔てるように割って入る。


『お嬢さん達、楽しかったお喋りはもう終わりだ』


今度は雄二さんを軽く睨み見る彩乃。


『ちょっと待ってください!まだ話は終わっ…』

『済まないが詩織と金魚はお嬢さんのように、ここに遊びに来てるわけじゃないんだ。お喋りの続きがしたいなら、また今度にしてくれ』


納得できず、不満そうな彩乃…ちらりと後ろを振り返り見た。


『田中さん、加藤さん。事務所に川本昭子先生が帰ってらっしゃるのは何時頃でした…?』


廊下の向こう端で微動だにせず立ったまま、彩乃を見守っていた制服姿の2人の女性スタッフ。その1人の若いお姉さんっぽい人が、胸ポケットからスケジュール帳を取り出して、確認してそれに答える。


『えっと…ですね。予定ではもう10分ほど前に、事務所に戻られていらっしゃると思います…』

『…あ、そう』


彩乃がまた僕らを見た。


『私も、ここに長居してられるほど暇人じゃないですから。もう帰ります』


彩乃は後ろへと振り返った。
そして、ウェディングドレスの裾を、踏んづけてつまずかないよう気を付けながら、エレベーターの前へと進む。


『待って!彩乃ちゃん!』


ゆっくりと立ち止まった彩乃。


『なによ…?』


こちらに振り向かず、彩乃は背を向けたまま。


『私たち、初めにも訊いたけど…彩乃ちゃん、ここに何しに来たの?』

『…。』


…そう言った詩織に何も言い返さず、このまま帰るつもりなのか…?
彩乃は今も僕らに背を向けたまま。


『言わない。詩織ちゃんなんかにそれを教える気さえ、もう失せたから』

『あ…そう。じゃあいいわ』


彩乃はまた歩き出し、エレベーターの前へと立った。そしてエレベーターのボタンを押した。

エレベーターが来るまでのあいだ…彩乃はまた最後に一度振り返る。


『詩織ちゃん、金魚ちゃん。私が忠告したこと…忘れず守りなさいよね!』


…忠告したこと…って?


『今後一切、私のお姉ちゃんと仲良くすることは、絶対に許さないから…!!』

『そんな忠告を受けた覚えも、それを私たちが認めた覚えもないんだけど!』


彩乃…また馬鹿げたことを言ってる…。


『あと…瀬ヶ池の街を堂々と自由に歩くことも禁止!』


お前にそんなことを決められる権限なんて無いっての!!



エレベーターが3階に来た。ドアが開き、彩乃とお付きの女性スタッフ達が昇降室へと乗り込む。


「2人とも、ここでのことを川本先生に報告したら私、承知しないからね…」


閉まるエレベーターのドアの向こうに消えた丹波彩乃…最後まで強気な姿勢だった…。

樋口が彩乃にビビるってのも、ちょっとだけ解ったような気がした…。

























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