287 / 490
女装と復讐 -街華編-
page.276
しおりを挟む
僕は着替えを済ませ、美容院の特別客室のドアを少し開けて顔を出した。
着替えはしたけど、メイクはしてない。
『詩織…着替えたよ』
『あ、はーい』
座っていたロングソファーから立ち上がる詩織。
『思ってたより早かったね。着替え』
『うん…ってか、こっち来る前に…』
『えっ?なに?』
特別客室へと向かって歩きはじめてた詩織。途中で立ち止まった。
『…金魚のメイクボックス、持ってきて』
『あ…うん』
『レジカウンターの下にあるから』
『大丈夫よ。分かってる』
カウンター内でよいしょと屈んで座りこみ、木製の赤いメイクボックスを引っ張り出して、それを持って詩織は特別客室へと入ってきた。
『はい。じゃあ…金魚は椅子に座って』
僕も言われたとおりに椅子に座る。
詩織は僕の目の前の大きな鏡の代の上に、金魚の化粧箱を置いた。そして化粧箱を開けて、必要なメイク道具を指でなぞり目で探した。
『じゃあ、えっと…まずは…うーん…あっ、あった!』
詩織は見付けたメイク道具を取り出す。
『リキッドファンデーションとパウダー…いくね!』
『うん』
…あの仲の良いアンナさんとナオさんを、口喧嘩まで発展させてしまった《金魚メイク》…それを体験したいという、詩織と僕との《約束》。
さっき詩織が『アンナさーん、VIPルームのお化粧道具屋、借りてもいいー?』って訊いてたのが、この特別客室の中にいても聞こえて、僕はそれを制止させる意味で『金魚のメイクボックス、持ってきて』って詩織に言った。
僕らは素人。いくらアンナさんが『詩織、いいわよ』と許してくれたからって、プロであるアンナさんのメイク道具を、僕や詩織が使っていいわけがない…って僕は思うんだ。
『うん…とりあえず…っと。ファンデーションまでは終わったわ』
両目をぱっちりと大きく見開いて、真剣な眼差しで僕の顔を覗きこみ、満遍なく顔全体を確認する詩織。
なんか…詩織のファンデを塗る手順や技術って…まだまだメイク初心者の僕でさえも、ちょっと不安感をおぼえた…。
『きゃはははは。凄ーい。まだファンデーションだけなのに、もう信吾の顔…なんか可愛さが出はじめてるー。凄ーい。きゃははははは』
『…詩織、アイブロウと上まつ毛のマスカラが済んだら、下まつ毛をマスカラする前に、先にチークを済ませておくと、あとが楽だよ』
『へぇ…あ、なるほどー。そうね』
そういや…こんなに僕と詩織が顔を近付けて見合うの…今までで初めてかも。
『…私ね、友だちと泊まりで京都旅行、行ってたじゃない?』
『うん』
詩織が、僕のメイクを進めながら話しだした。
僕は最初の一瞬だけ『?』って思ったんだけど…優しくゆっくりと語る詩織の話を、ちゃんと聞いてあげようって思ったんだ。
『2日目の朝ね、みんなで《お化粧のやり合いっこ》したの』
『うん?…うん』
『みんな上手だった…』
着替えはしたけど、メイクはしてない。
『詩織…着替えたよ』
『あ、はーい』
座っていたロングソファーから立ち上がる詩織。
『思ってたより早かったね。着替え』
『うん…ってか、こっち来る前に…』
『えっ?なに?』
特別客室へと向かって歩きはじめてた詩織。途中で立ち止まった。
『…金魚のメイクボックス、持ってきて』
『あ…うん』
『レジカウンターの下にあるから』
『大丈夫よ。分かってる』
カウンター内でよいしょと屈んで座りこみ、木製の赤いメイクボックスを引っ張り出して、それを持って詩織は特別客室へと入ってきた。
『はい。じゃあ…金魚は椅子に座って』
僕も言われたとおりに椅子に座る。
詩織は僕の目の前の大きな鏡の代の上に、金魚の化粧箱を置いた。そして化粧箱を開けて、必要なメイク道具を指でなぞり目で探した。
『じゃあ、えっと…まずは…うーん…あっ、あった!』
詩織は見付けたメイク道具を取り出す。
『リキッドファンデーションとパウダー…いくね!』
『うん』
…あの仲の良いアンナさんとナオさんを、口喧嘩まで発展させてしまった《金魚メイク》…それを体験したいという、詩織と僕との《約束》。
さっき詩織が『アンナさーん、VIPルームのお化粧道具屋、借りてもいいー?』って訊いてたのが、この特別客室の中にいても聞こえて、僕はそれを制止させる意味で『金魚のメイクボックス、持ってきて』って詩織に言った。
僕らは素人。いくらアンナさんが『詩織、いいわよ』と許してくれたからって、プロであるアンナさんのメイク道具を、僕や詩織が使っていいわけがない…って僕は思うんだ。
『うん…とりあえず…っと。ファンデーションまでは終わったわ』
両目をぱっちりと大きく見開いて、真剣な眼差しで僕の顔を覗きこみ、満遍なく顔全体を確認する詩織。
なんか…詩織のファンデを塗る手順や技術って…まだまだメイク初心者の僕でさえも、ちょっと不安感をおぼえた…。
『きゃはははは。凄ーい。まだファンデーションだけなのに、もう信吾の顔…なんか可愛さが出はじめてるー。凄ーい。きゃははははは』
『…詩織、アイブロウと上まつ毛のマスカラが済んだら、下まつ毛をマスカラする前に、先にチークを済ませておくと、あとが楽だよ』
『へぇ…あ、なるほどー。そうね』
そういや…こんなに僕と詩織が顔を近付けて見合うの…今までで初めてかも。
『…私ね、友だちと泊まりで京都旅行、行ってたじゃない?』
『うん』
詩織が、僕のメイクを進めながら話しだした。
僕は最初の一瞬だけ『?』って思ったんだけど…優しくゆっくりと語る詩織の話を、ちゃんと聞いてあげようって思ったんだ。
『2日目の朝ね、みんなで《お化粧のやり合いっこ》したの』
『うん?…うん』
『みんな上手だった…』
1
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる