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女装と復讐 -躍動編-

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午後1時2分前。制服姿の男子高校生バンドの4人組が、意気揚々と観客の若い女の子たちに手を振りながら、ステージをばらばらと下りる。

それを確認したのと同時に、啓介さんとわっちさんとヤマさん…ヤマさんは、ドラム担当の人…が、この《特設ステージ運営担当員専用屋形テント》へと入ってきた。


『秋良さん…はい。ギター』

『サンキュー。啓介』


秋良さんは自分のギターを啓介さんから受け取った。


『よし。じゃ…打ち合わせどおりに宜しく頼む…金魚。詩織。伊藤鈴ちゃん』


僕と詩織、鈴ちゃん、そして秋良さん…4人の心が一つになったように、僕らは息を合わせて大きく頷いた。


『鈴木さん、私たちの無理なお願いを…本当に申し訳ありません』


この《春フェス》の実行委員のステージ進行責任者だろう、年齢30代半ばくらいの女性が、秋良さんにお辞儀して謝った。


『無理なお願いなんて、俺たちも何か特別無理なことを任せられたとか…んなの全然思っちゃいないですから。ここで安心して観ててください』

『はい。本当に助かります。宜しくお願い致します』


秋良さんは振り向いて、ステージを睨み付けた。


『おーし。じゃ行くぞ春華…』

『じゃあ私、先に頑張ってくるね!』

『いってらっしゃい!』
『頑張ってー!春華さん!』


春華さんは僕と詩織を両手で引き寄せて、3人で軽く抱擁した。

そして、手を振ってテントから出てゆく。






遂にステージへと上がった春華さん、それと秋良さんたちバックバンドの男性陣。

足元に無造作に落ちている《シールド》と呼ばれるギターのケーブルプラグを拾い上げ、それぞれのギターに繋いで、適当に弾き確認を始めた。

ステージの中央では春華さんが手前位置に立って、マイクスタンドからマイクを外して左手に握った。
すると、ステージの袖の階段を男性の専任スタッフが駆け上がってきて、マイクスタンドを持ってステージをまた下りていく…。



そんなステージ上の様子を、僕と詩織と鈴ちゃん、あと木橋さんは…今は特設ステージ専用テントの中から見守っていた。


『あー、あー。えぇと…皆さん、こんにちはー』


春華さんが、ステージ上から観客の皆さんへご挨拶。
観客側からも、若い女の子たちの「こんにちはー」という挨拶の返しが聞こえた。


『詩織、始まるよ…』

『はぁー。なんか…見てるこっちが緊張しちゃう…』


秋良さんが手を挙げた。演奏を始める合図だ。

そして啓介さんのベースギターのイントロが、ステージの両側にある大きなスピーカーから流れだした。


『私たち、社会人バンドの《Revival us》と言います。宜しくお願いしまーす』


春華さんが会釈すると、観客側からぱらぱらと拍手。


『歌わせてもらうのは、伴都美子さま…Do As Infinityの《冒険者たち》です。聴いてください…!』



♪一筋の煙立ちのぼりゆき
呪文を唱えながら 瞳 閉じてゆく

目の前に広がる宇宙の空
受け入れるすべはまた 神話の中へと…♪



胸に七色の大きなキスマークのプリントされた白いTシャツを着て、胸元にサングラスをぶら下げている。
ジーパンの左脚に、熊に鋭い爪で引っ掻かれたかのような、大きな3本の破れの入った細身のダメージジーンズ、靴は黒色のアーミーブーツ…うん。本当のROCKっぽくってカッコいい。春華さん。

歌い出しはそうでもなかったけど…段々と春華さんの歌の上手さに気付き始めたのか…観客側からテンポに合わせた手拍子まで聞こえはじめた。



♪…例え 朽ち果てて全て 
失くしてもきっと 
悔やみはしない
new frontier 待っていろいつか 
この後に道は できるだろう…♪



『ちょっとちょっと金魚!観客さんたちノってきたっていうか…いい感じって思わない!?』

『うん。確かに。徐々に春華さんを観る観客の雰囲気が、凄く良くなってきたね』


この曲調のハイテンションな感じと、春華さんの高音質な声が、ほんとぴったり!
春華さんのステージ上での、観勒ある落ち着きようと愛嬌ある動きも、なかなか良…んっ?


『いぇい、いぇーい♪』
『ふっふーぅ♪』

『……。』


テントの中で、曲に合わせて物腰フリフリ…観客たちやスタッフさん達の視線も気にせず、ノリノリで踊ってる詩織と金魚ちゃん…。

つか、2人も揃って…何してんのって…。






『みんな、聴いてくれてありがとーぉ♪』


歌い切った春華さん。


『どうも…ありがとぉございましたーぁ♪』


観客に向かって大きく手を振り、もう一度深々とお辞儀する春華さん。そしてステージを包み込むような、観客側から湧き上がるたくさんの拍手。
春華さんは体勢をまた戻した。


『はい。えぇと…私が歌うのは、実は…この1曲だけです』

「えぇっ?」
「えっ!?」


ステージ下の観客内に動揺の声が広がる…。
























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