女装と復讐は街の華

木乃伊(元 ISAM-t)

文字の大きさ
上 下
208 / 490
女装と復讐 -躍動編-

page.197

しおりを挟む
詩織とアンナさんは、ささっと控え室へと戻ってきた。
そして椅子に座った詩織の髪に、ヘアミストを噴霧しながら撫でるように櫛でといて、髪型を元のストレートへと戻す作業を始めているアンナさん。


『…あのぉ、アンナさん』


アンナさんは作業の手を一旦止め、春華さんのほうを振り向いた。


『…秋良くん達のバンド練習でしょ?春華ちゃん』


詩織も、背筋をピンと伸ばして座ったその動けない姿勢のまま、春華さんへ優しく応えた。


『春華さん、いいの。私たちは大丈夫。だから秋良くんのとこへ早く行ってあげて』

『そうよ。行ってあげて』


春華さんは、アンナさんと詩織に会釈した。


『…ごめんね。長く居られなくて…』

『ううん。春華さんも金魚も…来てくれてありがとう』


未だ動けない姿勢のまま、胸元で左手を小さく振る詩織。
春華さんも、アンナさんと詩織に笑顔で頷いて応える。

そして春華さんは、今度は僕を見た。


『じゃあ…行こっか。金魚ちゃん』

『あっ、ちょっと待って!』


うん…えっ!?
アンナさん…??


『金魚…ナオから、あなたに伝えておかなければならない、大事な話が…』






『…。』


秋良さん達の練習しているレンタルスタジオへと向かう車の中で、春華さんは僕に優しく声を掛けてくれた。


『…でも大丈夫だよぉ。金魚ちゃん。だって2ヶ月もあるし』


…とある理由があって、あと2ヶ月のうちに《G.F.》デビューを果たしてあげなければならなくなった…ナオさんのためにも。

あと2ヶ月…って、《まだ2ヶ月も?》…《たった2ヶ月のうちに》じゃなくて…?






…そして僕と春華さんは、藤浦市某所の秋良さんのいるレンタルスタジオに到着。

だけど僕は…そのレンタルスタジオが何って店舗名だったか覚えてない。それぐらい僕は、注意力を欠かせていた…。


『えっと。スタジオ番号は、秋良くんが確か…17番だとか言ってたよね…』


店舗内の通路を右に曲がったその目の前に、突然現れた休憩所。
その休憩所の隅に置かれた2台の自販機。そして設置されたベンチに腰掛けて、騒がしく雑談している人たち。

…やっぱり男が多いな。女の子も、ちらほら居るけど。


『おい、ちょ…見ろよ!あれ、今話題の金魚だろ!?』

『えぇっ!マジで金魚居るし!!…つか何で!?』


ヤバっ!
けど、ここは冷静に…金魚お得意の《無視策法》で、何気ない素振りで素通り…。






『あーった♪』


少々、迷路のような店内をぐるぐると歩き回り、やっと見付けた《17》と記されたスタジオルームの黒色のドア。
その重そうな扉を、春華さんは力一杯開けて入ってゆく…目の前にもう一枚のドア…遮音対策の二重扉だ。


『うわぁ!』


少し狭いスタジオルームの中に入ると、爆音のような演奏が耳にする飛び込んできた。


『はーい。みんな一旦ストーップ。私と金魚ちゃん…ただ今、遅刻到着でーす』

 























しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...