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女装と復讐 -発起編-
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伊藤鈴は、駆け寄ってくる妹の丹波彩乃を見た。
今にも泣いてしまいそうな面持ちで、彩乃はステージの真ん中で姉に抱きついた。
姉の鈴は一瞬…それに戸惑うような表情を見せたが、すぐに快く微笑んで妹の彩乃を優しく抱きしめて返す。
僕はもう、丹波彩乃には何の興味もなかった。それよりもずっとずっと伊藤鈴を見ていた。
伊藤鈴の柔らかな微笑み…。
けど見ていて、伊藤鈴は心から微笑んでない…本当はなんだか哀し気だと…僕は感じた。
『…えー。それでは改めまして《G.F.アワード》に選ばれました丹波彩乃さんに…今の心境を語っていただきましょう…』
…丹波彩乃が、どんな言葉を用いて、今の自分の心境をどう語ったのか…僕は覚えてない…。
『…もう終わったよ。帰ろう…金魚』
『あ、うん』
僕らが《パステル・スクェア81》から出たとき、この複合施設の入館口のすぐ目の前で、女の子たちが騒がしく集まっているのが見えた。
そこには白いタクシーと、それを護るように2人の男性スタッフ、そして3人の男性警備員も見える。
『あ!…もしかしたら、あのタクシーに乗って鈴ちゃん、帰ってくんじゃない!?』
『ちょ…詩織!!』
詩織もタクシーの方へと掛けてゆく…僕も仕方なく詩織を追う…。
『鈴ちゃん!』
『鈴ちゃーん』
タクシーに詰め寄る女の子たち。伊藤鈴は何一つ嫌な顔をせず『あらがとうね』『みんなありがとう』と優しく言葉を掛けて返す。
タクシーのドアが開いた。その真ん中に立ったところで…伊藤鈴は立ち止まった?
『鈴ちゃん、どうしたの?早く乗って』
聞こえてきた女性マネージャーの声。けれど伊藤鈴は未だ乗ろうともせず…ゆっくりと女の子たちの方を振り向……えっ!?
誰かを探してるかのように振り返り、見渡して僕に目を止めた伊藤鈴と…僕ははっきりと視線を交わした。
「………丹波鈴…!」
その白いタクシーは…僕らが来た嘉久見大通りへと向かって走り出し、そのまま遠く小さくなって…そして緑地公園の木々や枝葉に隠れるように、視界から消え去った…。
『金魚…今の見た!?』
『…うん!』
僕に何かメッセージでも伝えたかったんだろうか…。伊藤鈴の目は力強く、僕を見詰めていた。
何より…僕が彼女の本名「丹波鈴」を口ずさんだとき…伊藤鈴が微かに、笑顔で《ウン》って頷いたように見えたんだけど…気のせい?
『…今のタクシーの屋根の表示灯に…《おばタク》って…』
うん。そうなんだ。彼女はたぶ…ん?
……えっ!?
今にも泣いてしまいそうな面持ちで、彩乃はステージの真ん中で姉に抱きついた。
姉の鈴は一瞬…それに戸惑うような表情を見せたが、すぐに快く微笑んで妹の彩乃を優しく抱きしめて返す。
僕はもう、丹波彩乃には何の興味もなかった。それよりもずっとずっと伊藤鈴を見ていた。
伊藤鈴の柔らかな微笑み…。
けど見ていて、伊藤鈴は心から微笑んでない…本当はなんだか哀し気だと…僕は感じた。
『…えー。それでは改めまして《G.F.アワード》に選ばれました丹波彩乃さんに…今の心境を語っていただきましょう…』
…丹波彩乃が、どんな言葉を用いて、今の自分の心境をどう語ったのか…僕は覚えてない…。
『…もう終わったよ。帰ろう…金魚』
『あ、うん』
僕らが《パステル・スクェア81》から出たとき、この複合施設の入館口のすぐ目の前で、女の子たちが騒がしく集まっているのが見えた。
そこには白いタクシーと、それを護るように2人の男性スタッフ、そして3人の男性警備員も見える。
『あ!…もしかしたら、あのタクシーに乗って鈴ちゃん、帰ってくんじゃない!?』
『ちょ…詩織!!』
詩織もタクシーの方へと掛けてゆく…僕も仕方なく詩織を追う…。
『鈴ちゃん!』
『鈴ちゃーん』
タクシーに詰め寄る女の子たち。伊藤鈴は何一つ嫌な顔をせず『あらがとうね』『みんなありがとう』と優しく言葉を掛けて返す。
タクシーのドアが開いた。その真ん中に立ったところで…伊藤鈴は立ち止まった?
『鈴ちゃん、どうしたの?早く乗って』
聞こえてきた女性マネージャーの声。けれど伊藤鈴は未だ乗ろうともせず…ゆっくりと女の子たちの方を振り向……えっ!?
誰かを探してるかのように振り返り、見渡して僕に目を止めた伊藤鈴と…僕ははっきりと視線を交わした。
「………丹波鈴…!」
その白いタクシーは…僕らが来た嘉久見大通りへと向かって走り出し、そのまま遠く小さくなって…そして緑地公園の木々や枝葉に隠れるように、視界から消え去った…。
『金魚…今の見た!?』
『…うん!』
僕に何かメッセージでも伝えたかったんだろうか…。伊藤鈴の目は力強く、僕を見詰めていた。
何より…僕が彼女の本名「丹波鈴」を口ずさんだとき…伊藤鈴が微かに、笑顔で《ウン》って頷いたように見えたんだけど…気のせい?
『…今のタクシーの屋根の表示灯に…《おばタク》って…』
うん。そうなんだ。彼女はたぶ…ん?
……えっ!?
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