女装と復讐は街の華

女装と復讐 -発起編-

page.90

春華さんは扉の前へ立つと、ノブに手を掛け扉を開けた…。






広い広い撮影室。室内は意外にも明るかった。
窓際には黒色の分厚い《遮光幕》が引かれている。


『はい…いいよ。そのまま動かないで』

『もうちょっと顎を引いて。はい…行きまーす。３…２…１』


白い布…ホワイトスクリーンが天井から床へと垂れるように敷かれ、そのスクリーンの上に立つモデルの女の子。３つものライトに照らされ、更にカメラのフラッシュを全身に浴びている。

そんな撮影セットが、横並びに３つもある。男のカメラマンさんが２人、若い女の人…カメラ…ウーマンさん？…が１人、撮影をしている。


『春華さん、女の子…３人撮影されてるみたいですけど…どの子も詩織じゃないですね』

『うん…あれぇ？』


僕と春華さん…まるで広いショッピングモールで迷子になった子どものように寄り添い、撮影室内でキョロキョロして立っていると、左腕に黄色い腕章を付けたスタッフさんらしき男性が来てくれた。


『あの…どなたかお探しですか？』

『…詩織ちゃんです。クローシュ・ドレの…』


スタッフさんらしき男性にそう訊いた春華さん。


『あーぁ。杏菜アンナさん達なら、あちらの控え室のほうに居ますよ』

『あっち？…ありがとう。お忙しい中ごめんなさい』


僕らはスタッフさんに案内され、撮影室の左側へと進んだ。そして次のドアを開ける。


『あっ、春華さん。何かあったの？』

『えっ？』


心配そうに春華さんを見る詩織。


『なんか…廊下のほうで騒いでるような声がしてたみたいだけど…』

『ううん。大丈夫。なんでもないから』


隣の撮影室とは違って白いレースのカーテンだけが引かれていて、陽の光が目一杯差し込む控え室。
詩織は動かず、じっと座って後ろに立つアンナさんに長い髪を結われ、セットしてもらっていた。

少し離れた隣に座る女の子も、詩織と同じように髪をセットされているのが見える。

休憩室の室内にはパイプ椅子が乱雑にたくさん置かれ、それらに座って寛くつろいで撮影の順番を待っている、綺麗な女の人やおばさん達…なかにはおじさんの姿も。
みんなで20人くらいが室内に居るんだろうか。


『撮影はまだ？今から？』


僕は詩織に話し掛けた。


『ううん。次が２回目よ』

『えっ、２回目？』

『うん』


詩織は殆ど動けない様子で、そのまま答えてくれた。


『次が…って、何回写真撮るの！？』

『今日は５回よ。その度に髪型を変えなきゃならないから、時間が結構掛かるの』


へぇ…撮影って大変なんだなぁ…。


『他の子たちは１回の撮影で、すぐ帰れるんだけどねー』