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女装と復讐 -発起編-

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時計を見ると…午前0時10分前。秋良さんと春華さんはそろそろ帰るという。


『春華さん、わざわざ僕のアパートに来てもらって…ピアシングありがとうございました』

『どう?耳たぶ痛む?』


僕は玄関先でお二人をお見送りしているところ。


『あ…いえ。ちょっと鈍痛があるだけです』

『うん…そっか。良かった』


春華さんは頷いて、優しく微笑んだ。


『今夜ひと晩は少し痛いかもだけど、たぶん明日の朝には痛みは無くなってるはずだから』

『はい。ありがとうございます』

『じゃあな信吾。また明日も宜しく』

『はい。こちらこそ宜しくお願いします。秋良さんもありがとうございました』


僕はお二人に深々と会釈した。そして戻ってまたお二人を見る。


『じゃあね信吾くん。おやすみー』


玄関のドアは、今夜のお別れがとてももの寂しそうに、ゆっくりと…静かに閉まった。






空になった圧力鍋を持ち、秋良さんと春華さんが帰ったあと…僕はひとりベッドに座り、あの小さな巾着袋からガラスで作られた、小さな赤い金魚と黒い出目金のピアスを出した。それを持ち上げ蛍光灯にかざす…本当に精巧によく出来てる。キラキラと輝いて綺麗だ…。

早く左耳に着けてみたい…。

そうだ!せっかくだから、この2匹に名前を付けてあげよう。

名前かぁ…そうだな…。
上の赤い金魚が《赤姫》。下の黒い出目金が《黒助くん》。

た…単純過ぎる。けど、まぁいいかな。






朝…午前7時21分。僕は普段の土曜日と同じく、もう地下鉄に乗ってアンナさんの美容院へと向かっている。

今朝、久しぶりに知らない女の子からの『見てあれ!メダカだぁ!』の声を聞いた気がした。






『信吾くん、おはよう』

『おはようございます。アンナさん』


美容院クローシュ・ドレに入ると、アンナさんからおはようの挨拶。僕もアンナさんに、先週のワンピースの入った紙袋を手渡しながら…おはようの挨拶をした。


『ふぁーぁ…おはよー信吾。早く金魚に変身してきたらぁ?』


詩織は先に来ていた。僕が《金魚》のときは優しいんだけど、僕が普段の《メダカ》であるときは…全然優しくない。


『詩織…なに真剣に見てんの?』


詩織は自分で持ってきたんだろうノートパソコンの画面を、よそ見もせずただじーっと見ている…。


『あとで教えてあげるから!とにかく…』

『あーはいはい…。ではアンナさん、今日もメイクお願いします』

『じゃ、あっちの部屋へ』






僕はアンナさんから、また真新しい着替えを受け取った。

先週のは《灰桜色の【太もも6割丸出し】短めワンピース》と《琥珀色の、スウェード生地のショートコート》それに《琥珀色の毛足の短いファーのヒールブーツ》だったけど…今週のは…?


























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