55 / 490
女装と復讐 -発起編-
page.44
しおりを挟む
詩織は、僕にニコリと微笑んだ。
『緊張だなんて…なに言っちゃってんの。そんな、めちゃくちゃ可愛い顔して』
詩織の左手がそっと、僕の右頬を優しく…ゆっくりと撫でた。
『…ほんとに緊張してるの?』
『うん…今にも、気絶しそう…』
僕は、声にならないくらい小さな声でそう言った。
詩織は心配そうな表情で、後部座席の上の自分のお尻を引きずり、ぐっと僕の方へ密着するくらい近寄ってきて、そっと僕を抱擁してくれた。
『…こんなところで緊張なんてしてたら、ここより凄いあの瀬ヶ池で《生意気な女の子たちに復讐》なんて、一生できないってば。信吾』
『…うん。だけど…』
詩織はより強く僕を抱き締める。僕は息を払って目を閉じた…。
そんな僕らの様子をアンナさんは、運転席から車内のミラー越しに、黙って見てた。
『お願い。私はあなたのパートナーでしょ?私のことを信じて。あなたに何があっても、私はあなたを助けてあげる。だから落ち着いて。行こう…信吾』
僕の耳元で囁く、詩織の優しい声…。
《お願い》《信じて》…なんて僕、生まれて初めて女の子に言われた…。
詩織はしばらく僕を抱擁したまま、僕の背中を優しくトントンと叩いてくれてた…。
『どう?…少しは落ち着いた?』
『…うん…行こう』
…本当は、まだドキドキ…完全には緊張が治まりきってはなかった。けど、詩織の気持ちや優しさを考えたら《行こう》と即答するしかなかった。
『じゃあ、アンナさん。私たち行ってきます』
詩織は再度、ゆっくりとドアを開け、右手で繋いだ僕の左手を引っ張って、広い広い歩道へと出た。
『ほら…大丈夫でしょ?』
僕はまだ、あまり動けないまま、怯えるように首を左に右に動かして周りを見た。間違いなく、行き交う人々の視線は僕らに注がれている。
『みんな…僕らを見てる…』
天郷大通りは今も、スーツ姿の男性や医療関係従事者、銀行員、各市営施設の関係者、その他多種多様な男女が、この広い歩道を往来している。
『見てるって…だって私たち、黙って立ってるだけでも目立っちゃう、可愛い女の子ペアなんだもん。みんな見るのも仕方ないよ。えへへっ』
詩織が愛嬌ある笑顔を見せた。
なんとなく、僕も釣られて少し笑った。
アンナさんの車が発進し、3つ目の交差点…藤浦銀行の角…を左折するのを僕らは、じっと立って見てた。
しばらくして詩織は、僕の深く被った耳当てニット帽から出た、胸元へ垂れたウィッグの長い後ろ髪を両手で優しく直してくれながら…。
『私にとっては短い距離だったけど、あなたにとっては長い長い距離だったんだよね…ごめんね』
『緊張だなんて…なに言っちゃってんの。そんな、めちゃくちゃ可愛い顔して』
詩織の左手がそっと、僕の右頬を優しく…ゆっくりと撫でた。
『…ほんとに緊張してるの?』
『うん…今にも、気絶しそう…』
僕は、声にならないくらい小さな声でそう言った。
詩織は心配そうな表情で、後部座席の上の自分のお尻を引きずり、ぐっと僕の方へ密着するくらい近寄ってきて、そっと僕を抱擁してくれた。
『…こんなところで緊張なんてしてたら、ここより凄いあの瀬ヶ池で《生意気な女の子たちに復讐》なんて、一生できないってば。信吾』
『…うん。だけど…』
詩織はより強く僕を抱き締める。僕は息を払って目を閉じた…。
そんな僕らの様子をアンナさんは、運転席から車内のミラー越しに、黙って見てた。
『お願い。私はあなたのパートナーでしょ?私のことを信じて。あなたに何があっても、私はあなたを助けてあげる。だから落ち着いて。行こう…信吾』
僕の耳元で囁く、詩織の優しい声…。
《お願い》《信じて》…なんて僕、生まれて初めて女の子に言われた…。
詩織はしばらく僕を抱擁したまま、僕の背中を優しくトントンと叩いてくれてた…。
『どう?…少しは落ち着いた?』
『…うん…行こう』
…本当は、まだドキドキ…完全には緊張が治まりきってはなかった。けど、詩織の気持ちや優しさを考えたら《行こう》と即答するしかなかった。
『じゃあ、アンナさん。私たち行ってきます』
詩織は再度、ゆっくりとドアを開け、右手で繋いだ僕の左手を引っ張って、広い広い歩道へと出た。
『ほら…大丈夫でしょ?』
僕はまだ、あまり動けないまま、怯えるように首を左に右に動かして周りを見た。間違いなく、行き交う人々の視線は僕らに注がれている。
『みんな…僕らを見てる…』
天郷大通りは今も、スーツ姿の男性や医療関係従事者、銀行員、各市営施設の関係者、その他多種多様な男女が、この広い歩道を往来している。
『見てるって…だって私たち、黙って立ってるだけでも目立っちゃう、可愛い女の子ペアなんだもん。みんな見るのも仕方ないよ。えへへっ』
詩織が愛嬌ある笑顔を見せた。
なんとなく、僕も釣られて少し笑った。
アンナさんの車が発進し、3つ目の交差点…藤浦銀行の角…を左折するのを僕らは、じっと立って見てた。
しばらくして詩織は、僕の深く被った耳当てニット帽から出た、胸元へ垂れたウィッグの長い後ろ髪を両手で優しく直してくれながら…。
『私にとっては短い距離だったけど、あなたにとっては長い長い距離だったんだよね…ごめんね』
1
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?
九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。
で、パンツを持っていくのを忘れる。
というのはよくある笑い話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる