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女装と復讐 -発起編-

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アンナさんは僕の前髪を持ち上げて、それを2箇所で留め、次に左手に取ったオイルの入った小さなポンプ容器を鏡の前に置き、左掌で2回ほど押して右手に持ったコットンに2滴乗せた。


『ちょっと目をつむって』

『あ…はい』


左上瞼…右上瞼…両瞼のまつ毛…。コットンを交換して、次は額…鼻…両頬…顎…唇…。
アンナさんは優しく、僕の顔をまんべんなく拭いてくれた。


『じゃ…あそこに簡易洗面台があるから、洗顔してきてくれる?』

『……はい』


アンナさんはこの特別客室の右の奥を指差した。

僕はゆっくりと目を開けた…。鏡の向こうに、もうあの可愛い女の子の姿はなかった。あるのは田舎者でダサいと言われた、僕の姿があるだけ…。
僕は言われたとおり、椅子から立ち上がって、右に見える洗面台へと向かう。


『赤色のポンプのが洗顔ソープだから。マッサージするように、しっかりと洗顔してね』

『はい』


グッと顔を突き出し、簡易洗面台の鏡を覗き込んでも…やっぱりいつものゲジゲジ眉毛の僕の顔だ。けど…どことなく、さっきの女の子の面影がある…ように見えないこともない…かな。たぶん。
そして高校1年のとき、担任の小林先生に『岩塚くんの目は、お母さんの美穂から貰ったのね。似てるわぁ』って言われたことがあったのを、今何故か…ふと思い出した。


洗顔しているあいだ、菊江のおっさんとアンナさんが、何やらお喋りをしているのを背中越しに聞いていた…けど、話の内容までは聞き取れない。
顔を洗い流し、水を止めて顔を上げると…タオルを持ったアンナさんが隣にいた。



『はい。お疲れさま』






帰りの電車の中…やっぱり扉のすぐ横に立って、扉の窓の向こうに見える、流れゆく《陽が落ちてすっかり暗くなった街の灯り》をじっと見ていた…。


アンナさんは…ほんと綺麗だった…。
僕は電車に揺られながら周りを見た。シートに座り脚を組んで、少し下を向いてスマホに夢中になっている、たくさんの女の子たち…見慣れた風景だ。

二度と会えない幻の女の子…本当に可愛くて天使みたいだったな…。

僕はもう一度周りを見た。《可愛さ》であの子に敵うような女の子は…この電車内にはいない。だって、あの幻の天使は何千人のなかの上位10人に入るほどの可愛い子だったんだから。

…自信を持ってもいいわよ、だって。
でも、よくよく改めて考えてみると…何千人のなかの上位10人って…凄いな。


「ちょっと!あの背の低い男、こっちじーっと見てるよ…気持ちわる…」

「違う違う。あれ《瀬ヶ池のメダカ》だよ!」


おっと!…ヤバいヤバい…。
僕は慌ててそっぽを向き、視線を夜の街の風景へと戻した…。
























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