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1話 妹に婚約者を奪われたルアナ
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マレストーレ王国の首都アランドル。その広大な街並みの中央に位置するサルバック宮殿に私は招かれていた。私の名前はルアナ・インクルーダ。年齢は18歳になったばかり。これでも、王国内に4家系しか居ない公爵家の長女だ。
北の大地一帯を領地としており、東西南北を治めるそれぞれの公爵の一角を担う家系だった。
「今日はレザード王子に呼ばれたけど……一体、なんの御用かしら?」
「急用やもしれませぬな」
私を宮殿まで運んでくれた複数の執事たちを引き連れ、私は宮殿内を進んでいる。目指すは婚約者である第二王子殿下、レザード・マレストーレ様のお部屋だった。
「失礼いたします、レザード様」
「入ってくれ」
私は軽くノックをしたのち、レザード様の許可を得て室内に入室した。
「よく来てくれたな」
「いえ……ところで、本日は如何なさいましたか?」
私は窓辺に立っていた彼がどこか浮かない顔をしていた点を見逃さなかった。もしかしたら、重要な話なのかもしれない。婚約者ではあるけれど、最近は忙しいという理由でろくに会えていなかったから。私の護衛に付いてくれている執事たちもどこか、警戒心を持っているようだった。
「ああ……用件なんだが、何から話せばよいのか」
「レザード様?」
口籠っているレザード様を見るのは初めてかもしれない。私から見ても、彼は非常にわがままなお方だった。でも、第二王子たつ器量は備えている……そのように考えてはいたから。
「済まないが、ルアナ。私と別れてもらいたい」
「えっ……? 別れる……?」
今、レザード様は何を言ったのだろう? 王家の第二王子殿下から漏れた言葉……それは確かに、別れるというものだった。
「その通りだ。もう少し正確に言うなら、婚約破棄をしたいと考えている」
「な、なぜでしょうか……?」
私は動揺を隠せなかった。同時に私は今まで、婚約者として失格な行為を行っていないか考えを巡らせる。しかし、いくら考えても該当するものは出てこなかったのだ。なぜ……急に婚約破棄なんてことに。
「理由は簡単よ、姉さん」
「あ、アリシア……!? どうしてここに……?」
隣の部屋から出てきたのは、妹のアリシア・インクルーダだった。昔から仲良く過ごしてきた自慢の妹……なぜ、隣の部屋から出てくるの? そこはレザード様の寝室になるはず。
「ごめんなさいね、姉さん。レザード様は私のことが好きなんだって。堅物で面白みのない姉さんよりも、聡明で快活な私を選んでくれたの」
「そ、そんな……! れ、レザード様、本当なのですか……!?」
「ああ、事実だ」
周りの護衛も驚いていたけれど、それ以上に私は驚きを隠せなかった。アリシアはそんな私を前に、レザード様の首に手を回す。そして、これ見よがしに抱き着いてみせた。
「姉さんと会えていなかった数か月間、レザード様は私と会っていたのよ。うふふふふ、もう二人の相性が抜群なのは証明済みなの。だから、姉さん……あなたは用済みだわ」
「そういうことだ、ルアナよ。お前も美人だが、アリシアには及ばん。お前はもう必要ないということだ。本日から、お前との仲はただの他人同士ということになる」
「そんな……! レザード様、これは浮気ですよね!」
私は戸惑いをかき消すために、精いっぱいの強い声で叫んだ。しかし、二人には届いていない。
「浮気……か。確かにそうかもしれんな。だが、それがなんだというのだ? まさか、文句があるあけではないだろうな?」
「レザード様……!」
恐ろしいくらいに冷たい視線が私を襲った。同時にアリシアの勝ち誇ったような顔も……。公爵令嬢とはいえ、王族の家臣である事実は変わらない。私はここに来て、自らの無力さを感じ取ってしまった。
婚約破棄はその日、成立することになった。
北の大地一帯を領地としており、東西南北を治めるそれぞれの公爵の一角を担う家系だった。
「今日はレザード王子に呼ばれたけど……一体、なんの御用かしら?」
「急用やもしれませぬな」
私を宮殿まで運んでくれた複数の執事たちを引き連れ、私は宮殿内を進んでいる。目指すは婚約者である第二王子殿下、レザード・マレストーレ様のお部屋だった。
「失礼いたします、レザード様」
「入ってくれ」
私は軽くノックをしたのち、レザード様の許可を得て室内に入室した。
「よく来てくれたな」
「いえ……ところで、本日は如何なさいましたか?」
私は窓辺に立っていた彼がどこか浮かない顔をしていた点を見逃さなかった。もしかしたら、重要な話なのかもしれない。婚約者ではあるけれど、最近は忙しいという理由でろくに会えていなかったから。私の護衛に付いてくれている執事たちもどこか、警戒心を持っているようだった。
「ああ……用件なんだが、何から話せばよいのか」
「レザード様?」
口籠っているレザード様を見るのは初めてかもしれない。私から見ても、彼は非常にわがままなお方だった。でも、第二王子たつ器量は備えている……そのように考えてはいたから。
「済まないが、ルアナ。私と別れてもらいたい」
「えっ……? 別れる……?」
今、レザード様は何を言ったのだろう? 王家の第二王子殿下から漏れた言葉……それは確かに、別れるというものだった。
「その通りだ。もう少し正確に言うなら、婚約破棄をしたいと考えている」
「な、なぜでしょうか……?」
私は動揺を隠せなかった。同時に私は今まで、婚約者として失格な行為を行っていないか考えを巡らせる。しかし、いくら考えても該当するものは出てこなかったのだ。なぜ……急に婚約破棄なんてことに。
「理由は簡単よ、姉さん」
「あ、アリシア……!? どうしてここに……?」
隣の部屋から出てきたのは、妹のアリシア・インクルーダだった。昔から仲良く過ごしてきた自慢の妹……なぜ、隣の部屋から出てくるの? そこはレザード様の寝室になるはず。
「ごめんなさいね、姉さん。レザード様は私のことが好きなんだって。堅物で面白みのない姉さんよりも、聡明で快活な私を選んでくれたの」
「そ、そんな……! れ、レザード様、本当なのですか……!?」
「ああ、事実だ」
周りの護衛も驚いていたけれど、それ以上に私は驚きを隠せなかった。アリシアはそんな私を前に、レザード様の首に手を回す。そして、これ見よがしに抱き着いてみせた。
「姉さんと会えていなかった数か月間、レザード様は私と会っていたのよ。うふふふふ、もう二人の相性が抜群なのは証明済みなの。だから、姉さん……あなたは用済みだわ」
「そういうことだ、ルアナよ。お前も美人だが、アリシアには及ばん。お前はもう必要ないということだ。本日から、お前との仲はただの他人同士ということになる」
「そんな……! レザード様、これは浮気ですよね!」
私は戸惑いをかき消すために、精いっぱいの強い声で叫んだ。しかし、二人には届いていない。
「浮気……か。確かにそうかもしれんな。だが、それがなんだというのだ? まさか、文句があるあけではないだろうな?」
「レザード様……!」
恐ろしいくらいに冷たい視線が私を襲った。同時にアリシアの勝ち誇ったような顔も……。公爵令嬢とはいえ、王族の家臣である事実は変わらない。私はここに来て、自らの無力さを感じ取ってしまった。
婚約破棄はその日、成立することになった。
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