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1話 第二王子殿下に婚約破棄された

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 私は愛情よりも、政略結婚を選んでしまった……これは後悔に繋がるのか否か、その時は分からなかったけれど。

 今ではハッキリと分かる……後悔だったと。

 私は侯爵令嬢のルリア・ヴェール……一時期、恋仲になりかけていた相手が居た。18歳の時に告白をしてくれた相手、幼馴染のクライブ・マーガレット公爵だ。その時はお互いに、令嬢、令息という立場ではあったけれど。

 私はその後、ヴェール家の都合で第二王子殿下のガスト・モリアーヌ様と婚約が決定した。もしかしたら、この時、わがままを言えば破談に出来たのかもしれないけれど……相手は王家だったので、難しかったのだ。

 お父様も苦渋の決断だったのだと思う。私はその100%の政略結婚を、受け入れることにした。侯爵家にとっても王家との繋がりは重要だったし。クライブとの儚い恋はその時に終了した。


 それから、半年……私はガスト様の妃になるべく、第二王子妃教育というのを受けていたのだけれど。厳しいこともあったけれど、何とかこなしていた。

 でも、私の夫になる相手……ガスト様はお世辞にも良いお方だとは言えなかった。それは、パーティーなどの表面的な部分では決して見えないところだ。頻繁に自分の部屋に美しい女性を連れ込んでいる。その相手は、メイドだったり首都の夜街で仕事をしている娼婦だったりと色々だけれど。

 彼、ガスト・モリアーヌ様はモリアーヌ王国の王族という立場をフル活用し、お金を湯水のごとく使っている。ある意味では金持ちの鑑と言える行いかもしれないけれど、王族としては最低の部類だ。

 浮気三昧だけではなく、本来は自分の仕事であるはずの周辺国家の情勢などが記された書類整理を全て私に押し付けて来た。いえ、私も王子妃教育があるし暇ではないんですけど? でも、彼は全く聞く耳を持ってくれなかった。


 そんな日々が半年以上も続き……私はとうとう、我慢の限界を迎えてしまった。

「ガスト様! いい加減にしてください! 第二王子でありながらの浮気三昧、それだけでなく書類仕事もまともにこなさない怠け振り……こんなことで、まともに王家を継げるのですか?」


 私は彼が王位に就いた時が一番怖いと思っていた。下手をすれば、国家が滅んでしまうだろうから……。


「五月蠅い奴だな、お前は本当に……その言葉は何度目だ? たかが、侯爵家の分際で……」

「侯爵家の分際でって……私は貴方様の妻になる予定なんですが?」


 今日のガスト様の反論の言葉は、いつもよりも酷かった。今まではのらりくらりと受け流していた印象だったけれど。明らかに差別的発言に切り替わっている。私も少し恐怖を感じてしまっていた……。


「お前の小言には正直、うんざりしていたところだ。正直なところ、お前の存在価値など私からすればないからな……婚約破棄といこうじゃないか」

「こ、婚約破棄ですか……!?」

「ああ、婚約破棄だ。お前など正直、王族には必要ない。さっさと失せるんだな」


 予想外の展開になってきたけれど……これはこれで、好都合かもしれない。なぜならば、私が今まで行ってきた仕事を彼が出来るとは、到底思えなかったからだ。それに、婚約破棄ならば議会を通しての慰謝料請求が出来そうだしね。

「お前とは婚約破棄だ! すぐに出て行け!」

「畏まりました……ガスト様がそうおっしゃるならば……」


 誰がどう見てもガスト様が悪い。今後の彼の行く末が非常に心配になるけれど、婚約破棄をされた私からすれば知ったことではないわ。私は涙を流す振りをしながら、周りに居た使用人達にも明らかに分かるように立ち去った。

 ガスト王子殿下……後から後悔しても、もう遅いですよ? 忘れないでくださいね。とは言っても、婚約破棄自体は喜ばしいことではない……帰ったら、お父様達に謝らないといけないわね。
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