4 / 7
4話
しおりを挟む「マリス! 其方には私のとっておきを見せてやるぞ!」
「ええと……とっておきですか……?」
婚約者としてロックリー家に派遣されたその日、私はケルヴィン様に気に入られたのか、彼の研究所に入ることを許された。ちなみに研究所という名前はケルヴィン様が勝手に呼んでいるだけらしい。使用人の人がこっそり教えてくれた。
「ここだ! といっても自室を改造した部屋に過ぎないが……ここで私は様々な研究を行っているのだ!」
「様々な研究……ですか? 確かに……」
研究所と呼ばれる彼の自室は確かに、色々なものを研究している様子だった。見たこともない生物がビーカーに入っていたりするし……。ケルヴィン様は研究者のようだ。それを鑑みるとそのやつれた姿も納得がいく。偏屈や変人と呼ばれる所以もこの研究にあるのではないだろうか。そんな気がしてしまった。
「ここではどんな研究をしているのですか?」
「それはもう色々な研究を毎日のように行っている。近場の生物を捕らえて食料にできないか、近場の雑草から新しい特効薬を作れないかなど色々だ!」
雑草から特効薬を作るのは納得できるけれど、近場の生物を食料にできないかの研究は、少し付いて行けなかった。いずれ来る食料問題への回答になるのだろうか?
「まあ、現在進行形の研究はどうでもいいのだ。私が試したいのは別のもの……魔法を人々の役に立てられないかだからな!」
「えっ、魔法を人々の役に……ですか?」
「その通りだ! その為に其方の協力が必要なのだ! 協力してくれないか?」
「えっ……でも……」
私の能力は15年もの間、周りの人を怖れさせてきた。過去には事情があったとはいえ、人を傷付けている。そんな能力を活かせる場なんて……。
「私の能力は15年も前から周囲の人を怖れさせてきました。今さら何の役に立つのでしょうか……」
「そこが問題なのだ!」
「えっ? ケルヴィン様……?」
ケルヴィン様の反応は明らかに他の人とは違っていた。少なくとも微塵も怖れを感じさせない。
「偉大なる魔法! これを研究しなくては人類に未来はないとさえ思えるがな! 恐れているだけの凡人では、その素晴らしさに辿り着くことは永遠にあるまい!」
「ケルヴィン様……」
「私が其方の能力を完璧に扱ってみせよう! 其方は運がいいぞ! この私と出会えたのだからな!」
ケルヴィン様は私の能力……魔法の能力を研究し、掌握できるとまで考えているようだった。信じられない……こんな人はいままで出会ったことがない。呪われた過去の遺物……そんな風に言われたこともあったっけ。
「少し時間はかかるかもしれないが、其方の能力を完璧に操って見せよう! 私に全てを託すがいいぞ、マリスよ!」
変人……確かに今のケルヴィン様を見るとそのように呼ぶのが正しいと思えてしまう。でも私は嬉しかった。私の中の魔法の能力を認めてもらえたのだから。この方に付いていきたい……私の心はその感情に満たされていた。
0
お気に入りに追加
242
あなたにおすすめの小説
その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?
荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。
突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。
「あと、三ヶ月だったのに…」
*「小説家になろう」にも掲載しています。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして
みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。
きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。
私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。
だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。
なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて?
全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです!
※「小説家になろう」様にも掲載しています。
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?
青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。
二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。
三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。
四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる