12 / 13
12話 話し合い その1
しおりを挟む「こちらでよろしいでしょうか?」
「うむ、やや狭いが問題ないだろう」
ジョージさんによって案内された個室。バルカン様の言う通りそれほど広くはないけれど、私達が話をする分には問題ない広さだった。パイプ椅子が置かれており、それがやや粗末だったけれど仕方ないと思う。元々は作業員の人達の休憩所かなにかだろうしね。
「いや、十分な部屋を割り当ててくれて感謝する。急に済まなかったな」
「いえ、とんでもありませんよ、王子様」
私達は用意されていたパイプ椅子に座ることになった。バルカン様とリッチさんとは丁度、対面になる形になっている。
「あの……アルベド王子殿下……その、お話しというのは」
「そんなに緊張する必要はないだろう、バルカン殿。私は父上ではない、あくまでも第三王子でしかない身分だからな。場合によっては貴殿よりも立場が低くなることもあるだろう」
「ご冗談を……ははは……」
アルベド様なりの冗談の言葉だったのだろうけれど、バルカン様には通じないようだった。まあ、立場を考えれば当然かもしれないけれど。
「では、バルカン様。ジョージ殿から言われた交渉の為の要求を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ぬっ、グレイ殿……」
明らかにバルカン様の表情が変わった。聞かれるとマズイ事柄なのは明白だ。まあ、先にジョージさんから聞いているので今さらではあるのだけれど。
「そうだな、バルカン殿。聞かせて貰えるか? よもや話さないとは言うまい?」
「も、もちろんでございますよ……王子殿下……」
「では、バルカン殿も本題を望んでいるようだし、そちらの話に注力しようか」
「ほ、本題ですか……?」
「ああ、それを望んでいるのだろう?」
「は、はい……確かにその通りですが……」
「では、アルベド様。すぐに本題の話へと移行しましょうか」
グレイ兄さんからの無慈悲な問いかけ……バルカン様は頷く以外の選択肢がなかった。
「そ、そうですね……では、本題へと移行しましょうか」
「私としてもすぐに本題に移ってくれた方が助かる。無駄な話し合いは好きではないのでな」
「アルベド様……」
明らかにバルカン様の表情が濁っていた。アルベド様に対する敵意にも見えるけれど、伯爵の身分ではそれ以上は言えないということかしらね。
「それで? 現場監督との話はどうなったのだ? ボイコットの原因やそれを改善する要求があったのだろう?」
「は、はい。その通りです……内容としましては……その」
私達は既に知っているけれど、敢えてバルカン様の口から言わせるようだ。予想通りと言うか、バルカン様は言いにくそうにしている。私達の後ろではジョージさん本人も見ているのだから猶更なのかもしれない。
「速く言ってくれないか?」
「申し訳ありません、王子殿下。要求された内容と致しましては、従業員の賃上げやアリサへの謝罪、それからアリサが提案していた各事業案を採用するように、と。余りに無理難題が多く焦っていたところであります」
無理難題……そこまで無理のある要求には聞こえない。しかし、バルカン様はそれを無理な提案として押し通す気満々のようだった。アルベド様が突っ込まなかったら、要求内容すら開示せずに事を運んでいたかもしれないわね。
0
お気に入りに追加
1,333
あなたにおすすめの小説
(完結)モブ令嬢の婚約破棄
あかる
恋愛
ヒロイン様によると、私はモブらしいです。…モブって何でしょう?
攻略対象は全てヒロイン様のものらしいです?そんな酷い設定、どんなロマンス小説にもありませんわ。
お兄様のように思っていた婚約者様はもう要りません。私は別の方と幸せを掴みます!
緩い設定なので、貴族の常識とか拘らず、さらっと読んで頂きたいです。
完結してます。適当に投稿していきます。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
【完結】悪役令嬢と言われましたけど、大人しく断罪されるわけないでしょう?
山咲莉亜
恋愛
「カティア・ローデント公爵令嬢!心優しい令嬢をいじめ抜き、先日は階段から突き落としたそうだな!俺はそんな悪役令嬢と結婚するつもりはない!お前との婚約を破棄し、男爵令嬢アリアと婚約することをここに宣言する!」
卒業パーティーと言う大事な場での婚約破棄。彼は生まれた時から決められていた私の婚約者。私の両親は嫌がったらしいが王家が決めた婚約、反対することは出来なかった。何代も前からローデント公爵家と彼の生まれ育ったレモーネ公爵家は敵対していた。その関係を少しでも改善させようと言う考えで仕組まれた婚約。
花嫁教育としてレモーネ家に通うも当然嫌われ者、婚約者に大切にされた覚えはなく、学園に入学してからはそこの男爵令嬢と浮気。
…………私を何だと思っているのでしょうか?今までどんなに嫌がらせを受けても悪口を言われても黙っていました。でもそれは家に迷惑をかけないため。決して貴方に好き勝手されるためではありません。浮気のことだって隠していたつもりのようですが私が気付かないわけがありません。
悪役令嬢と言われましたけど、大人しく断罪されるわけないでしょう?断罪されるのは───あなたの方です。
私のことなど、どうぞお忘れくださいませ。こちらはこちらで幸せに暮らします
東金 豆果
恋愛
伯爵令嬢シャーロットは10歳の誕生日に魔法のブローチを貰うはずだった。しかし、ブローチは、父と母が溺愛していた妹に与えられた。何も貰うことができず魔法を使うことすら許されないという貴族の娘としてはありえない待遇だった。
その後、妹メアリーの策略で、父と母からも無視されるようになり、追いやられるように魔法学園に通うことになったシャーロット。魔法が使えないと思われていたシャーロットだったが、実は強大な魔力を秘めており…
さらに学園に通ったことが王族や王子とも出会うきっかけになり…
もううんざりですので、実家に帰らせていただきます
ルイス
恋愛
「あなたの浮気には耐えられなくなりましたので、婚約中の身ですが実家の屋敷に帰らせていただきます」
伯爵令嬢のシルファ・ウォークライは耐えられなくなって、リーガス・ドルアット侯爵令息の元から姿を消した。リーガスは反省し二度と浮気をしないとばかりに彼女を追いかけて行くが……。
婚約破棄されました。あとは知りません
天羽 尤
恋愛
聖ラクレット皇国は1000年の建国の時を迎えていた。
皇国はユーロ教という宗教を国教としており、ユーロ教は魔力含有量を特に秀でた者を巫女として、唯一神であるユーロの従者として大切に扱っていた。
聖ラクレット王国 第一子 クズレットは婚約発表の席でとんでもない事を告げたのだった。
「ラクレット王国 王太子 クズレットの名の下に 巫女:アコク レイン を国外追放とし、婚約を破棄する」
その時…
----------------------
初めての婚約破棄ざまぁものです。
---------------------------
お気に入り登録200突破ありがとうございます。
-------------------------------
【著作者:天羽尤】【無断転載禁止】【以下のサイトでのみ掲載を認めます。これ以外は無断転載です〔小説家になろう/カクヨム/アルファポリス/マグネット〕】
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる