婚約破棄の上、無実の罪を着せられ追放されたけど、隣国の王子様に救われました！

9話 ジスト王子殿下の訪問 その1

「セリーヌ様、はいそこで焦がさないようにお願い致します」

「はい、畏まりました」


　私は現在、ルーファさんから料理について学んでいる。牛肉や豚肉、鶏肉はそれぞれ下準備や焼き加減などが違うので、注意が必要。かなり基本的なことから教えてもらっており、悪い気がしてしまう。シルヴァン宮殿内のメイドのレベルからすれば、働き始めた初日には、既に余裕で出来ているレベルなのだと思う。

　つまり、宮殿で働く以前から出来ていて当然ということだ。それでもルーファさんを初めとした使用人達は、私を見下すことはなかった。ありがたいけれど、逆に緊張感も生まれてくる。一刻も早く上達しなくては、と。


「では、この辺りで一旦、休憩としましょうか」

「ありがとうございました、ルーファさん」

「いえ、とんでもございません。セリーヌ様の上達の速度が早く、私としても驚きですわ」

「いえ、そんなことは……」


　おそらくは、貴族令嬢であったので、もっと時間がかかると踏んでいたのだと思う。一応は貴族の中では器用な方だと思うけど。というより、そういう一般人が行うスキルを他の貴族よりは学んでいたという方が正しいかもしれない。まさか、こんな場面で役に立つとは思わなかった。

　それでも、シルヴァン宮殿で働いているルーファさん達よりは数段劣るけどね。


「これならば、数日後にやってくると言われているジスト王子殿下への料理も間に合うかもしれませんね」

「そうですね……て、へ？　どういうことでしょうかて？」


　ついつい頷いてしまったけれど、すぐにルーファさんが意味の分からないことを言っていることに気付いた。ジスト王子殿下の名前が出て来た、と思ったけれど。


「ヘンリック王子殿下から聞いていませんか？」

「いえ、特に聞いていませんが……」


　なんのことだろうか？　確かにジスト王子殿下がグリオス王国を訪問するという話は聞いているし、それが事実であることも分かっている。でもそれと、私の料理が関係あるの？


「ヘンリック王子殿下がおっしゃるには、訪問したジスト王子殿下に対して差し出す料理の1つを、セリーヌ様に作っていただきたいのだとか」

「ええっ！？」

「ヘンリック王子殿下なりのいたずら心といったところではありませんか？」

「それは、そうなのかもしれませんけど……」


　この数日の間で、ヘンリック様の性格は分かってきたつもりだ。確かにあの方なら言ってもおかしくない。それに、私が望めば本当に実現しそうだ。

「毒を盛るかどうかは任せると言っていました。死に至らない程度の薬品は幾つかストックがありますので、どれかを試してみますか？」

「いえ、それは流石に遠慮しておきます……」


　私はその提案は流石に断った。いくらなんでも冗談だとは思うけれど。しかし……ジスト様に内緒で料理を振舞う、か。後で私が作った物だと分かった時の顔は確かに見たいかもしれないわね。