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8話 シルヴァン宮殿 その2
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私はシルヴァン宮殿に入ってから3日後からお仕事を開始することになった。といっても、その日は何をするわけでもなく、どういった仕事があるのかを、メイドの一人であるルーファさんから教わっているのだけれど。
「と、以上で大体のお仕事に関しての説明は終了でございます」
「分かりやすいご説明、ありがとうございました。ルーファさん
「いえ、とんでもないことでございます。それと、私のことはどうぞルーファ、とお呼びください」
ルーファさんは、とても申し訳なさそうに私に言っている。私も隣国の侯爵令嬢ではあったので、彼女の気持ちは分かるつもりだけれど、お仕事をを教わる身としては呼び捨てになんて絶対に出来ない。「さん」付けをするのは当然の礼儀だった。
「申し訳ありません、ルーファさん。ですが、流石に呼び捨てにするのはご容赦ください。私は他国の出身でですし、今はもう貴族でもありませんので」
「ヘンリック王子殿下に知られると、私はクビになってしまうかも……」
「へっ!? そうなのですか!?」
何か重大なグリオス王国特有の習わしがあるのだろうか? それだったら、とても悪いことをしてしまっていたのかもしれない。
「いえ、冗談ですけどね」
「へっ……?」
「うふふ、緊張は解れたようでございますね。それでは参りましょうか」
ルーファさんはそう言うと、スタスタと私を残して歩き始めた。迫真の演技の冗談だ……いやまあ、緊張は確かに解れたけどさ。なんというか、してやられた感が強い。ルーファさんはシルヴァン宮殿はこのくらい軽い空気ですよ、と教えてくれているのかもしれない。
まだ、宮殿に入って3日しか経過していない私のために。
------------------------
「王族、貴族の方々へのお食事のご用意、洗濯や掃除、それと定期的に行われる部屋の模様替え等、メイド……というより、使用人としての役割は多岐に渡ります。セリーヌ様はどれかご経験はございますか?」
「そうですね……ええと……」
どれも貴族令嬢の時には必要ないとされていたスキルばかりだ。自分の為の料理を作った経験はあるけれど、王族の方々の料理となると数段レベルが違うと言えるだろう。
「料理や洗濯などでしたら、経験はあります。あくまでも自分用の、という条件が付いていましたが」
「左様でございますか。では、料理や洗濯のお仕事からの開始が良いでしょう」
「畏まりました、よろしくお願いいたします」
「はい、任されました」
ルーファさんは私に対して満面の笑みを浮かべてくれた。私よりも何歳か年上なだけと聞いているけれど、彼女はとても大人びている。憧れの存在になりそうだった。
「今は大丈夫かな? ルーファ」
「これは、ヘンリック王子殿下……! はい、大丈夫でございます。如何なさいましたでしょうか?」
「少し、セリーヌ嬢にお話があったんだ」
「私でございますか……?」
突然、話しかけて来た人物はヘンリック様だった。接近にすら気付いていなかったので、私の心臓はいつもよりも高鳴っている。
「ああ、そうなんです。実は……バートルフ王国から近々、使者が訪れるようでございまして」
「バートルフ王国から……?」
えっ、一体どういうこと……? 私がここに到着したのは3日前だ。私に関してのことだとは思えないけれど。
「ジスト王子殿下がいらっしゃるようです。おそらくは偶然かと思われますが……」
「ジスト王子殿下……」
すさまじい偶然なのかもしれない。このタイミングでの訪問だなんて……ちょっと信じられなかった。
「と、以上で大体のお仕事に関しての説明は終了でございます」
「分かりやすいご説明、ありがとうございました。ルーファさん
「いえ、とんでもないことでございます。それと、私のことはどうぞルーファ、とお呼びください」
ルーファさんは、とても申し訳なさそうに私に言っている。私も隣国の侯爵令嬢ではあったので、彼女の気持ちは分かるつもりだけれど、お仕事をを教わる身としては呼び捨てになんて絶対に出来ない。「さん」付けをするのは当然の礼儀だった。
「申し訳ありません、ルーファさん。ですが、流石に呼び捨てにするのはご容赦ください。私は他国の出身でですし、今はもう貴族でもありませんので」
「ヘンリック王子殿下に知られると、私はクビになってしまうかも……」
「へっ!? そうなのですか!?」
何か重大なグリオス王国特有の習わしがあるのだろうか? それだったら、とても悪いことをしてしまっていたのかもしれない。
「いえ、冗談ですけどね」
「へっ……?」
「うふふ、緊張は解れたようでございますね。それでは参りましょうか」
ルーファさんはそう言うと、スタスタと私を残して歩き始めた。迫真の演技の冗談だ……いやまあ、緊張は確かに解れたけどさ。なんというか、してやられた感が強い。ルーファさんはシルヴァン宮殿はこのくらい軽い空気ですよ、と教えてくれているのかもしれない。
まだ、宮殿に入って3日しか経過していない私のために。
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「王族、貴族の方々へのお食事のご用意、洗濯や掃除、それと定期的に行われる部屋の模様替え等、メイド……というより、使用人としての役割は多岐に渡ります。セリーヌ様はどれかご経験はございますか?」
「そうですね……ええと……」
どれも貴族令嬢の時には必要ないとされていたスキルばかりだ。自分の為の料理を作った経験はあるけれど、王族の方々の料理となると数段レベルが違うと言えるだろう。
「料理や洗濯などでしたら、経験はあります。あくまでも自分用の、という条件が付いていましたが」
「左様でございますか。では、料理や洗濯のお仕事からの開始が良いでしょう」
「畏まりました、よろしくお願いいたします」
「はい、任されました」
ルーファさんは私に対して満面の笑みを浮かべてくれた。私よりも何歳か年上なだけと聞いているけれど、彼女はとても大人びている。憧れの存在になりそうだった。
「今は大丈夫かな? ルーファ」
「これは、ヘンリック王子殿下……! はい、大丈夫でございます。如何なさいましたでしょうか?」
「少し、セリーヌ嬢にお話があったんだ」
「私でございますか……?」
突然、話しかけて来た人物はヘンリック様だった。接近にすら気付いていなかったので、私の心臓はいつもよりも高鳴っている。
「ああ、そうなんです。実は……バートルフ王国から近々、使者が訪れるようでございまして」
「バートルフ王国から……?」
えっ、一体どういうこと……? 私がここに到着したのは3日前だ。私に関してのことだとは思えないけれど。
「ジスト王子殿下がいらっしゃるようです。おそらくは偶然かと思われますが……」
「ジスト王子殿下……」
すさまじい偶然なのかもしれない。このタイミングでの訪問だなんて……ちょっと信じられなかった。
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