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7話 シルヴァン宮殿 その1
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私は王都ハンブルガーのシルヴァン宮殿に招かれた。言うまでもなく、グリオス王家の方々が住んでいらっしゃる場所だ。私は緊張しながら正門へと辿り着いたけれど、あっけないほど簡単に通れたことにびっくりしてしまった。
「あの……私がシルヴァン宮殿へ簡単に入ってしまって、大丈夫なのですか……?」
「ええ、特に問題はありませんよ」
「そ、そうですか……?」
私はまだ信じられなかったけれど、ヘンリック様が言うのであれば、大丈夫なんだろう。バートルフ王国では平民が王宮に入る場合は、例え上位貴族などが居たとしても入念にチェックを受けていたけれど。
それから私は客間へと入ることになった。平民である私にとっては、豪華すぎる部屋と言えるだろう。もしかしてこの待遇は……
「セリーヌ嬢、あなたは客人待遇で招いておりますので。何かありましたら、何なりとメイド達にお申し付けください」
「え、でもそれは……! 私は既に貴族令嬢ではありませんし……」
私は既に自分には貴族という称号がないことを伝えようとしたけれど、ヘンリック様は首を左右に振っていた。私に最後まで発言させることを許さないようだ。
「あなたの貴族令嬢剥奪の話を聞いて、それで納得する者などこの宮殿内には居ませんよ。あなたは堂々と貴族としての名を名乗っていてください」
「ヘンリック様……」
とても嬉しい発言だったけれど、どこか申し訳ない気持ちも生まれていた。命を助けられ、王都ハンブルガーに無事に着いただけでなく、寝床の確保までお世話になっているのだから。
「ヘンリック様、お気持ちはとても嬉しいのですが……よろしければ私に何かお仕事をさせていただけませんでしょうか?」
「仕事、ですか?」
「はい、仕事です」
今の段階で言うべきことではないのかもしれないけれど、私も焦っていたので言うしかなかった。
「こんな豪華なお部屋に泊めていただけるのですから……せめて、何かしらの対価を支払いたいのです」
現金という選択肢もないわけではなかったが、それを支払ったところで、供給源がなければすぐに底がついてしまう。それでは意味がなかったから、私は仕事という選択肢を選んだ。
「なるほど……セリーヌ嬢のお気持ちは分かりました。なんとかご期待に添えるように手配しておきましょう。ただ、しばらくは本当に気にせずにお休みください。あなたは体力的にはともかく、精神的にはボロボロになっているでしょうから」
「はい……畏まりました、ヘンリック様。お気遣いありがとうございます……」
「どういたしまして。それでは、私はこれで失礼いたします。夕食は後程、持ってきますので」
「すみません……」
ヘンリック様はそこまで言うと、笑顔を見せながら部屋から出て行った。彼が居なくなってから、忘れていた疲れがドッと押し寄せて来る。体力的にもきつかったけれど、それよりも精神的な疲れが大きい。ヘンリック様の読みは完全に当たっていたようね。
私はベッドに倒れこみ、少しだけ休もうと考えた。夕食を持って来ると聞いていたので、完全に寝てしまうわけにはいかないからだ。
それにしても……今、ジスト・バートルフ王子殿下やベナン・コトベック議長はどんな顔をしているのかしら? ならず者達に捕まって酷い目に遭わされている私を想像して大笑いでもしている? それを考えるだけでも非常に悔しさが込み上げてきた。
それと同時に彼らの思い通りにはなっていないと、強く心の中で言い放つ。こういうのは気持ちで負けては終わりだ。それから、お父様達はどうしているんだろうか。本当に、二度と会えないの……? いえ、そんなことはないはずだけれど。
私はそんな不安が心を支配し始めたところで深い眠りについてしまった。ヘンリック様が持ってくると言っていた夕食を食べる前に……。
「あの……私がシルヴァン宮殿へ簡単に入ってしまって、大丈夫なのですか……?」
「ええ、特に問題はありませんよ」
「そ、そうですか……?」
私はまだ信じられなかったけれど、ヘンリック様が言うのであれば、大丈夫なんだろう。バートルフ王国では平民が王宮に入る場合は、例え上位貴族などが居たとしても入念にチェックを受けていたけれど。
それから私は客間へと入ることになった。平民である私にとっては、豪華すぎる部屋と言えるだろう。もしかしてこの待遇は……
「セリーヌ嬢、あなたは客人待遇で招いておりますので。何かありましたら、何なりとメイド達にお申し付けください」
「え、でもそれは……! 私は既に貴族令嬢ではありませんし……」
私は既に自分には貴族という称号がないことを伝えようとしたけれど、ヘンリック様は首を左右に振っていた。私に最後まで発言させることを許さないようだ。
「あなたの貴族令嬢剥奪の話を聞いて、それで納得する者などこの宮殿内には居ませんよ。あなたは堂々と貴族としての名を名乗っていてください」
「ヘンリック様……」
とても嬉しい発言だったけれど、どこか申し訳ない気持ちも生まれていた。命を助けられ、王都ハンブルガーに無事に着いただけでなく、寝床の確保までお世話になっているのだから。
「ヘンリック様、お気持ちはとても嬉しいのですが……よろしければ私に何かお仕事をさせていただけませんでしょうか?」
「仕事、ですか?」
「はい、仕事です」
今の段階で言うべきことではないのかもしれないけれど、私も焦っていたので言うしかなかった。
「こんな豪華なお部屋に泊めていただけるのですから……せめて、何かしらの対価を支払いたいのです」
現金という選択肢もないわけではなかったが、それを支払ったところで、供給源がなければすぐに底がついてしまう。それでは意味がなかったから、私は仕事という選択肢を選んだ。
「なるほど……セリーヌ嬢のお気持ちは分かりました。なんとかご期待に添えるように手配しておきましょう。ただ、しばらくは本当に気にせずにお休みください。あなたは体力的にはともかく、精神的にはボロボロになっているでしょうから」
「はい……畏まりました、ヘンリック様。お気遣いありがとうございます……」
「どういたしまして。それでは、私はこれで失礼いたします。夕食は後程、持ってきますので」
「すみません……」
ヘンリック様はそこまで言うと、笑顔を見せながら部屋から出て行った。彼が居なくなってから、忘れていた疲れがドッと押し寄せて来る。体力的にもきつかったけれど、それよりも精神的な疲れが大きい。ヘンリック様の読みは完全に当たっていたようね。
私はベッドに倒れこみ、少しだけ休もうと考えた。夕食を持って来ると聞いていたので、完全に寝てしまうわけにはいかないからだ。
それにしても……今、ジスト・バートルフ王子殿下やベナン・コトベック議長はどんな顔をしているのかしら? ならず者達に捕まって酷い目に遭わされている私を想像して大笑いでもしている? それを考えるだけでも非常に悔しさが込み上げてきた。
それと同時に彼らの思い通りにはなっていないと、強く心の中で言い放つ。こういうのは気持ちで負けては終わりだ。それから、お父様達はどうしているんだろうか。本当に、二度と会えないの……? いえ、そんなことはないはずだけれど。
私はそんな不安が心を支配し始めたところで深い眠りについてしまった。ヘンリック様が持ってくると言っていた夕食を食べる前に……。
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