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10話
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「ファーロス国王陛下……なんとお礼を申し上げてよいかわかりません」
「なに、気にすることはないよ、マリー嬢。この国を統べる者として当然のことをしたまでだ」
「で、ですが……」
相手は我が国の最高権力者だ。お父様でさえ会うことは困難を極めるはずなのに。たかが子爵令嬢のために従者の格好までしてくれるなんて。前代未聞のことかもしれない。
「フィルザから話を聞いた時は耳を疑ったものだ。あのイグリオが伯爵と言う地位をこんなことに利用していたとはな……娼婦を自らの屋敷に招き入れるだけならともかく、マリー嬢を慰みの道具として考えるなどあり得ないことだ。奴の屋敷も改装させる手筈を整えている。もう二度と娼婦を呼ぶことはできないだろうな」
「ありがとうございました、国王陛下」
「気にするなフィルザ。お主の頼みでなければ私もここまで動くことはなかっただろうからな。悪徳貴族を一人葬れたと考えれば、私がやったことなど大したことではないだろう」
帰りの馬車の中……私達の会話は弾んでいた。国王陛下とここまで話す機会はなかなかないのだから、今の内に体験しておいた方がいいわよね?
「しかし、マリー嬢はなかなかモテると見える。まあ、確かに私の眼から見ても可愛らしいが」
「へ、陛下……その話は」
あれ? なんだか話がおかしな方向へ向かっている気がするわ。フィルザが照れたように反応しているし……。
「どういうことでしょうか?」
「フィルザから聞いていないのか? ふふふ、お主もなかなか隅に置けない人物のようだな。いやいや、私は嬉しいぞ? 新しい恋というのはこういうところから生まれるのだからな」
「や、やめてくださいよ……」
「フィルザ、どういうこと? なにか私に隠しているの?」
「あ、いや……そういうわけではないんだけど。まあ、この話はいいじゃないか」
フィルザは先ほどから変わった話題を終わらせに来ているようだった。なんだか怪しいわね……。
「フィルザは照れ臭くて話せないようだな。仕方ない、私から話してやろうではないか。つまりは彼はマリー嬢のことが好きなのだよ。付き合って欲しいようだ」
「えっ……ええ! 付き合って欲しいって……!」
「へ、陛下……!」
私は驚いてしまったけれど、フィルザの様子が変だった理由はここにあったのね……。
「フィルザ……あなた」
「い、いや……嘘ということではないが、今は忘れてくれ」
フィルザの顔は真っ赤っかだった。流石に可哀想なのでここではこれ以上突っ込むことはしないけれど……なるほど、フィルザの気持ちが分かって良かったわ。
口にこそ出していなかったけれど、私も気持ちとしては同じだ。彼のことが好き……私のためにここまでのことをしてくれたのだから。
今のところは特に進展はないのだろうけれど、国王陛下も笑って見守ってくれているし、前向きにお付き合いを検討したいと思っている。
おしまい
「なに、気にすることはないよ、マリー嬢。この国を統べる者として当然のことをしたまでだ」
「で、ですが……」
相手は我が国の最高権力者だ。お父様でさえ会うことは困難を極めるはずなのに。たかが子爵令嬢のために従者の格好までしてくれるなんて。前代未聞のことかもしれない。
「フィルザから話を聞いた時は耳を疑ったものだ。あのイグリオが伯爵と言う地位をこんなことに利用していたとはな……娼婦を自らの屋敷に招き入れるだけならともかく、マリー嬢を慰みの道具として考えるなどあり得ないことだ。奴の屋敷も改装させる手筈を整えている。もう二度と娼婦を呼ぶことはできないだろうな」
「ありがとうございました、国王陛下」
「気にするなフィルザ。お主の頼みでなければ私もここまで動くことはなかっただろうからな。悪徳貴族を一人葬れたと考えれば、私がやったことなど大したことではないだろう」
帰りの馬車の中……私達の会話は弾んでいた。国王陛下とここまで話す機会はなかなかないのだから、今の内に体験しておいた方がいいわよね?
「しかし、マリー嬢はなかなかモテると見える。まあ、確かに私の眼から見ても可愛らしいが」
「へ、陛下……その話は」
あれ? なんだか話がおかしな方向へ向かっている気がするわ。フィルザが照れたように反応しているし……。
「どういうことでしょうか?」
「フィルザから聞いていないのか? ふふふ、お主もなかなか隅に置けない人物のようだな。いやいや、私は嬉しいぞ? 新しい恋というのはこういうところから生まれるのだからな」
「や、やめてくださいよ……」
「フィルザ、どういうこと? なにか私に隠しているの?」
「あ、いや……そういうわけではないんだけど。まあ、この話はいいじゃないか」
フィルザは先ほどから変わった話題を終わらせに来ているようだった。なんだか怪しいわね……。
「フィルザは照れ臭くて話せないようだな。仕方ない、私から話してやろうではないか。つまりは彼はマリー嬢のことが好きなのだよ。付き合って欲しいようだ」
「えっ……ええ! 付き合って欲しいって……!」
「へ、陛下……!」
私は驚いてしまったけれど、フィルザの様子が変だった理由はここにあったのね……。
「フィルザ……あなた」
「い、いや……嘘ということではないが、今は忘れてくれ」
フィルザの顔は真っ赤っかだった。流石に可哀想なのでここではこれ以上突っ込むことはしないけれど……なるほど、フィルザの気持ちが分かって良かったわ。
口にこそ出していなかったけれど、私も気持ちとしては同じだ。彼のことが好き……私のためにここまでのことをしてくれたのだから。
今のところは特に進展はないのだろうけれど、国王陛下も笑って見守ってくれているし、前向きにお付き合いを検討したいと思っている。
おしまい
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普通に考えると確かに国王陛下は出張り過ぎになりそうですね……
せめて大臣の内の一人が来たみたいにしてもよかったかも