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13話 救ってくれた その2

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 幼馴染であり、第二王子殿下でもあるケルビン様とは、それからも定期的に会うことになった。それがケルビン様のお望みのようだったし、私もそれが恩返しになるならと喜んで引き受けたのだ。単純にケルビン様と会いたかったというのもあるけれど……何にせよ私達は3年間の空白期間を埋める為に接触の機会を増やしていった。

「ふふふ、ケルビン様。使用人にそんなことを言ったのですか?」

「ああ、その子は私が言わないといつまでも仕事を続けるタイプだったからな。半強制的に止めることにしたんだ」

「それでその次の日からは変わりましたか?」

「微妙に変わったかもしれないな。一応、休憩時間には休憩しているようだったし」


 ケルビン様の話は面白い。宮殿には個性豊かな使用人が居るらしく、彼らに関する話を聞くだけでも、まったく飽きない感じだ。もちろんこれは、ケルビン様が話してくれているからというのが大きいけれどね。他の人が話すよりも、より集中して聞けるのだ。


「その働き過ぎる使用人もそうですが、個性豊かな人物というのは、どこの世界にもいるんですね」

「そうだな……個性の塊という意味ではディノスはその最たるものだろうしな」

「ああ……それは確かに……」


 ディノス様……この前のパーティーで失態を見せてしまい、そのまま衛兵に連れて行かれたけれど。確かにあの人は個性的と言えるかと思う……魅力とはかけ離れた意味での個性だけれど。


「ディノス様は……別の意味で個性的でしたね。私に対する仕打ちもおかしかったですし……」

「ああ、決して許されることではない。婚約破棄に加え、ありもしない噂を流して優越感に浸るだけの存在。貴族として失格と言わざるを得ないだろう」

「そうですね」


 ディノス様やメリナ様の罰はまだ決まっていないようだけれど、私の婚約破棄に対する慰謝料支払いの増額は既に決まっているらしい。もちろん、それだけで終わるわけはないのだけれど。

「控えめに言って、ディノスやメリナは腐っていると言えるだろう」

「確かにそうですね……私もそう思います」

「今後の貴族社会のことを考えれば、二人とも家からの追放というのが一番だろうがな。果たしてどうなるか……」

「懲役刑でもいいかもしれませんね」

「意外と君も言うなリディア……」

「はい。やはり5カ月間も婚約していたのに、いきなり破棄された恨みというのはなかなか消えませんから」


 そう、忘れていたけれど、私はディノス様と5カ月も一緒に居たのだ。それなのに彼は、メリナ様と一緒になることを選び、私を道具のように捨てた。大きな罰が下ることを望むのは仕方ないと言えるだろう。


「リディア」

「きゃあ……ケルビン様!?」


 急にケルビン様が私を抱きしめた。一瞬、何をされたか分からず、大きな声をあげてしまったけれど……確かに私は抱き締められている。

「ディノスやメリナに恨みを持ってしまうのは仕方ないだろう」

「ケルビン様……」

「しかし、恨みを持ち続けるのは大変なことだろう?」

「それは……そうかもしれませんね」


 何より精神的にしんどいしね。出来れば楽に生きて行きたいと思ってしまうし。……て、なんていう話をしているんだろうか。しかも、抱き合った状態で。私も自然とケルビン様の背中に腕を絡めていたし。ここはケルビン様の私室になるけれど、誰かに見られたら大変だわ。


「リディア、君さえ良ければ私と一緒にならないか? そうすればリディアのことをもっと良く知れると思うからな」

「け、ケルビン様……!?」


 なんだかとんでもないことを聞いている気がする……。これってつまり告白よね……?
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