上 下
3 / 14

3話 王子殿下 その2

しおりを挟む

 アウガスト王国の第二王子殿下であらせられる、ケルビン・アウガスト様。私の幼馴染であり、年齢は19歳だ。実に、3年ぶりの再会ではあるけれど……まさか、こんなタイミングで会うことになるなんて思わなかった。

「け、ケルビン王子殿下……お、お久しぶりでございます……!」


 私は自分の現状を察し、なるべく他人行儀になるように彼に挨拶をした。以前であれば、もっとフランクに話していたけれど、流石に今の状況でそれは無理だったから。ディノス様に理不尽な婚約破棄をされ、不名誉な噂まで流された私……今、ケルビン様と親しくすることなんて出来なかった。

 しかし……。


「ははは、随分、しおらしいじゃないか。どうしたのだ? ははぁ、父上であるアストラ殿に厳しく教育をされた結果というわけか?」

「け、ケルビン様……!」


 私は恥ずかしさの余り、ついつい大きな声をあげてしまった。周囲の貴族達もその雰囲気を奇妙に思っているようだった。この舞踏会では私は、粗相を起こしてディノス・カンブリア侯爵令息から婚約破棄をされた伯爵令嬢でしかないはずなのに……。

 私は軽く混乱してしまっていた……ケルビン様との再会は3年ぶりになる。いくら、幼馴染の関係とはいえ彼は明確に地位が上のお方だ。私も伯爵令嬢なので、地位が低いというわけではないけれど。しかし、今の私の環境は非常にマズいと言えた。

 ディノス様に婚約破棄をされ、悪い噂を流されている令嬢、という立ち位置なのだから。今の状態でケルビン様に近づくのは非常に申し訳がない。今すぐにでも離れたい気持ちだったのだけれど……。

「リディア、噂は聞いているよ」

「け、ケルビン様……?」

「ディノス・カンブリア侯爵令息に婚約破棄をされたのだろう? 先ほどから、その話題を何度か聞いているが……」

「は、はい。左様でございます……ですので、私がケルビン様の近くに居ることは、ケルビン様の名誉を傷つけることになるかと……」

「バカなことを言うなっ」


 ケルビン様は私の腕を引いて、私を近くに寄せた。もう少し勢いがあれば、唇が重なってしまっていたかもしれない。

「私が君のことを知らないとでも思っているのか? 3年間の空白はあるが、かの噂など全てデタラメだと確信しているよ」

「け、ケルビン様……」


 あ、あれ……私は涙を流しているような気がする。いえ、間違いなく流しているわね……ああ、パーティー会場なのになんて情けない真似を……。でも、彼の言葉はそれほどに嬉しかった。まさか、私にそんな言葉を掛けてくれるなんて思わなかったから。

 使用人のシェリーは怪しく笑っているけれど……何よ失礼ね、私だって乙女なんだしこんな状況に出くわしたら感動で涙くらい流すわよ。

 とにかく、ケルビン様のお言葉はそれ程に嬉しかったと言うことだ。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

勝手に勘違いして、婚約破棄したあなたが悪い

猿喰 森繁
恋愛
「アリシア。婚約破棄をしてほしい」 「婚約破棄…ですか」 「君と僕とでは、やはり身分が違いすぎるんだ」 「やっぱり上流階級の人間は、上流階級同士でくっつくべきだと思うの。あなたもそう思わない?」 「はぁ…」 なんと返したら良いのか。 私の家は、一代貴族と言われている。いわゆる平民からの成り上がりである。 そんなわけで、没落貴族の息子と政略結婚ならぬ政略婚約をしていたが、その相手から婚約破棄をされてしまった。 理由は、私の家が事業に失敗して、莫大な借金を抱えてしまったからというものだった。 もちろん、そんなのは誰かが飛ばした噂でしかない。 それを律儀に信じてしまったというわけだ。 金の切れ目が縁の切れ目って、本当なのね。

妹よりも劣っていると指摘され、ついでに婚約破棄までされた私は修行の旅に出ます

キョウキョウ
恋愛
 回復魔法を得意としている、姉妹の貴族令嬢が居た。  姉のマリアンヌと、妹のルイーゼ。  マクシミリアン王子は、姉のマリアンヌと婚約関係を結んでおり、妹のルイーゼとも面識があった。  ある日、妹のルイーゼが回復魔法で怪我人を治療している場面に遭遇したマクシミリアン王子。それを見て、姉のマリアンヌよりも能力が高いと思った彼は、今の婚約関係を破棄しようと思い立った。  優秀な妹の方が、婚約者に相応しいと考えたから。自分のパートナーは優秀な人物であるべきだと、そう思っていた。  マクシミリアン王子は、大きな勘違いをしていた。見た目が派手な魔法を扱っていたから、ルイーゼの事を優秀な魔法使いだと思い込んでいたのだ。それに比べて、マリアンヌの魔法は地味だった。  しかし実際は、マリアンヌの回復魔法のほうが効果が高い。それは、見た目では分からない実力。回復魔法についての知識がなければ、分からないこと。ルイーゼよりもマリアンヌに任せたほうが確実で、完璧に治る。  だが、それを知らないマクシミリアン王子は、マリアンヌではなくルイーゼを選んだ。  婚約を破棄されたマリアンヌは、もっと魔法の腕を磨くため修行の旅に出ることにした。国を離れて、まだ見ぬ世界へ飛び込んでいく。  マリアンヌが居なくなってから、マクシミリアン王子は後悔することになる。その事実に気付くのは、マリアンヌが居なくなってしばらく経ってから。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

【完結】その人が好きなんですね?なるほど。愚かな人、あなたには本当に何も見えていないんですね。

新川ねこ
恋愛
ざまぁありの令嬢もの短編集です。 1作品数話(5000文字程度)の予定です。

婚約破棄、果てにはパーティー追放まで!? 事故死を望まれた私は、第2王子に『聖女』の力を見出され性悪女にざまぁします

アトハ
恋愛
「マリアンヌ公爵令嬢! これ以上貴様の悪行を見過ごすことはできん! 我が剣と誇りにかけて、貴様を断罪する!」  王子から突如突き付けられたのは、身に覚えのない罪状、そして婚約破棄。  更にはモンスターの蔓延る危険な森の中で、私ことマリアンヌはパーティーメンバーを追放されることとなりました。  このまま私がモンスターに襲われて"事故死"すれば、想い人と一緒になれる……という、何とも身勝手かつ非常識な理由で。    パーティーメンバーを追放された私は、森の中で鍋をかき混ぜるマイペースな変人と出会います。  どうにも彼は、私と殿下の様子に詳しいようで。  というかまさか第二王子じゃないですか?  なんでこんなところで、パーティーも組まずにのんびり鍋を食べてるんですかね!?  そして私は、聖女の力なんて持っていないですから。人違いですから!  ※ 他の小説サイト様にも投稿しています

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

婚約破棄ですか? ありがとうございます

安奈
ファンタジー
サイラス・トートン公爵と婚約していた侯爵令嬢のアリッサ・メールバークは、突然、婚約破棄を言われてしまった。 「お前は天才なので、一緒に居ると私が霞んでしまう。お前とは今日限りで婚約破棄だ!」 「左様でございますか。残念ですが、仕方ありません……」 アリッサは彼の婚約破棄を受け入れるのだった。強制的ではあったが……。 その後、フリーになった彼女は何人もの貴族から求愛されることになる。元々、アリッサは非常にモテていたのだが、サイラスとの婚約が決まっていた為に周囲が遠慮していただけだった。 また、サイラス自体も彼女への愛を再認識して迫ってくるが……。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

私と婚約破棄して妹と婚約!? ……そうですか。やって御覧なさい。後悔しても遅いわよ?

百谷シカ
恋愛
地味顔の私じゃなくて、可愛い顔の妹を選んだ伯爵。 だけど私は知っている。妹と結婚したって、不幸になるしかないって事を……

処理中です...