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12話 偽の婚約 その1

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「なるほど……カルロス・シングマ侯爵令息が来た時の為に、既成事実を作るということですね?」

「え、ええ……ジャン・カーリー伯爵。既成事実、ということに間違いはないのですが……」


 私とグランの二人は、とりあえず私の屋敷に戻った。作戦会議をする為だ。グランが話しているジャン・カーリーというのは、私のお父様の名前だ。

 お父様はグランがここに来た理由を話すと、ノリノリになっていた。どうしてここまでのノリノリになるんだろうか? と言える程に……。


「お父様……なんだか、ノリノリではありませんか?」

「それは当たり前だろう? グラン殿と最近、仲が良いとは思っていたが。ふふふふ、まさかグラン殿と婚約関係直前まで来ているとは思わなかったよ」

「お、お父様……!」


 話としては間違っていないけれど、別に婚約関係直前の仲にまで進展しているというわけではない。もちろん、グランと婚約をしたくないわけではないけれど。どちらかと言うと……。

「ふふふふふ、フローラよ。素直になりなさい」

「お父様……」


 お父様は明らかに私をからかっていた。まったくもう……グランだってどういう態度をして良いのか分からずに困っているじゃない。



----------------------------



「カルロス・シングマ侯爵令息が来た場合は、私も話の裏付けとして、二人の婚約を認めたということにすれば良いのですね?」

「そういうことになります。ご協力いただけますでしょうか、カーリー伯爵」

「当然ですよ、安心してください」


 お父様は私達の依頼に喜んで協力してくれるみたいだ。それはとても安心なんだけど……これはあくまでも偽の婚約。その目的はシングマ侯爵令息を分からせる為にある。

 偽の婚約のはずなのに……お父様は勘違いしているのか、この一件が解決したら、それが本当になると確信しているようだわ。
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